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小遣い稼ぎ

分割の区切りがつかず短めです。

 「では、私の取り分は3割で宜しいですか?」

 「ああ、構わない。」


 松陰の提案を直弼が了承した。

 江戸城の一室で、他にも正弘などの老中がいる。 


 「しかし、お前が分け前を要求するとは珍しいな。」

 「香辛料を購入するにはお金が必要ですからね! 自分が楽しむ分には自分で稼がないと!」

 「そうか。」


 持ち帰った香辛料は既に心許ない。

 今までの様に振舞っていたら、半年を待たずに尽きるだろう。

 直弼らもカオルコの作ったカレーのファンになっており、食べられなくなるのは心苦しい。

 今までは頑なに香辛料を買う事を拒んできた松陰であったが、カオルコと出会って拘りが薄らいでいた。

 前の松陰には危うさを感じていた直弼であったので、片意地を張っていない今の状態に安心する。    


 「アラスカであったか、前から口にしていたな。一体何があるのだ?」


 今回ロシアと国交を結び、早速極東地域の開発をスタートさせる事となった。

 それに関して松陰が具申したのは、まずアラスカの視察である。

 直弼らにとってのアラスカは、地図の上で知っているだけで、実際にどんな所なのかは全く見当もつかない。

 そんなアラスカに松陰が真っ先に行こうと決めた理由も、やはり想像がつかなかった。


 「何があるのかは、帰ってからのお楽しみです!」 

 「そうか、期待して待っておこう。」


 楽し気に笑う松陰に、直弼らもいつもの事かと思った。

 精々驚かせてくれと言わんばかりに笑う。

 と、アラスカならばと思い出し、直弼は言った。


 「アラスカならば、途中でハワイに寄るのだろう?」

 「そうですね。ハワイを任せた海舟先生にも、支部長にもカレーを届けないといけないので。」

 「勝は分かるが支部長とは誰だ?」

 「いえ、こちらの事です。」


 澄まし顔でとぼける。

 正睦は知っているが、胸の内に留めている筈だ。

 まさか松陰が海外で宗教団体を設立したとは言えまい。  

 

 「それで、ハワイがどうかしましたか?」

 「まずは事の経緯を説明しよう。お前達が出発して暫くし、予定通りに日本丸が帰国したのだが、その時に勝からの言伝があったのだ。」

 「何とありましたか?」

 「天然痘のワクチンとペニシリン、及びそれらの扱いに熟知した医者を派遣して欲しいとな。」

 「成る程!」


 使節団と日本丸はパナマ地峡で別れ、船は一旦帰国していた。

 その途上でハワイに立ち寄り、勝に面会したのだろう。


 「流石は海舟先生です! ハワイの住民の為、既に行動されているのですね! それで今回、それらを運べば良い訳ですね?」

 「早とちりするな。日本丸が帰ってより何か月経っていると思うのだ! 既に別の便で運んでいるので、今回は追加の物を運べば良いだけだ!」

 「な、成る程!」


 言われてみればその通りであった。

 日本丸の帰港は旅の始まりの方に過ぎない。


 「お前がどうしても必要だと言うから、渡世人達も既に行かせているぞ。」

 「ありがとうございます!」


 どうやら次郎長一家もハワイに渡ったらしい。

 計画が着々と進んでいる様で安心した。

 

 「で、すぐにアラスカに向かうのか?」

 「いえ、アラスカとなると帰って来るのも当分先になるので、一度佐賀に顔を出しておこうと思います。」

 「蒸気ショベルであったか? 江戸湾で浚渫する様子を見せて貰ったが、西洋の技術は真に進んでいるな……」


 麟州が企画し、西洋から持ち帰った物の披露会が全国で為されている最中だ。

 武士も民衆も一様に度肝を抜かれてそれらを眺めた。

 見た者は西洋の進み具合を身をもって知り、同時に熱烈な好奇心も呼び起こしている。

 原理は漫画で簡易に説明されているので、諸国の物好きによって熱心な模倣が始まっていた。


 「我が国は富国強兵を進めねばなりませんが、富国には様々なやり方があるので一概には言えません。ですが強兵に関して言えば、今の時代の強さは技術と直結しているので、西洋に負けない技術開発は欠かせません。」

 「圧倒的な大砲の数と威力の前には、抜刀しての突撃など無駄死にだからな。」

 「性能の高い製品作りも効率的な生産能力も技術の内ですからね。」


 彼我の差を知れば絶望に近い感情にも襲われるが、諦めている時間は無い。

 足を止める事無く、進み続けるしか道は残されていないのだ。


 「第二第三の儀右衛門さん、嘉蔵……巧山さんを見つけ出さねばなりません。各地で発明品を募集し、優秀な技術者を発見しないと! 集成館に来て貰い、最新の工作機械を使って思う存分研究して貰う必要があります!」

 「身分は問わず、俸禄も与えるのだな。」

 「地下資源の少ない我が国は、技術こそが国の繁栄を成り立たせる術になるでしょう。新しい技術を開発し、伝え、更に改良していくのは人です。人を育てねばなりません!」

 「それは心得ている。」


 この国の未来の為に、やらねばならない事は多かった。




 『では、そちらの取り分は3割という事で宜しいですね?』

 『今の所はそれで構わない。』


 松陰が迎賓館でプチャーチンと向き合っていた。

 既に佐賀から帰ってきている。

 集成館に後装式の歩兵銃と大砲の量産を頼み、江戸へと戻っていた。

 インドに行く前に、ある程度の数は揃えておきたい。


 集成館では一足早く帰国した茂義の下、西洋から持ち帰った工作機械を組み立て、試験運転の段階に入っていた。

 技術的な事は松陰の手に負えないレベルに至っており、任せるしかない。

 皆やる気に満ちていたので大丈夫であろう。

  

 プチャーチンとは開発の費用負担や利益の取り分など、細かな条件を詰めていた。

 話し合いの結果、ロシアの取り分は3割という事で暫定的に合意したが、問題があれば3年後に再度交渉する事となっている。 

 開発の費用は今の所は日本持ちなので、何もせずとも3割の上がりがあると思えばお得であろう。 


 『では手始めにアラスカです!』

 『アラスカからなのかね!?』


 意外な提案にプチャーチンは驚いた。

 開発の初めは日本から程近い、カムチャッカ半島の村ペテロパブロフスクカムチャツキーからだと思っていたからだ。

 

 『それも理由がございます!』

 『一体何かね? あそこは開発するには厳しい環境だぞ?』

 『それも行ってみれば分かります!』

 『まあ、開発の費用負担はそちら持ちだから、私としては困らんが……』


 不安はあったが頷くしかなかった。

 共同開発で合意はしたが、何から始めるかは決めていない。

 この計画の立案者がそこまで言うのだから、そこから始めるに値する何かがあるのだろう。

 アラスカとなれば長旅になる。

 プチャーチンは愛する祖国の繁栄の為、航海の無事と計画の成功を神に祈った。  


当時のアメリカ、ヨーロッパでどんな工作機械が普及していたのか分からず、集成館の方に触れられません。

申し訳ありません。

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