表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/239

朝鮮通信使と日本の主な対外政策

朝鮮を連呼してますが他意はありません。

歴史的な事実として記述しております。

 海禁政策を採った江戸幕府において、琉球と李氏朝鮮は唯一の通信国であった。

 通信国とは江戸幕府が正式に国交を持っていた国の事で、清とオランダは貿易を行っていただけの通商国と呼ぶ。

 将軍の代替わりを祝う為に通信使が定期的に江戸へとやって来ていたが、双方の資金不足などの問題もあり、家定の祖父家斉の就任に合わせて行われた1811年の派遣を最後に、家慶の就任時にも家定の時にも通信使の江戸入りは為されていない。

 その最後の通信使にしても、対馬で留め置かれて江戸までは来ていないという顛末であった。

 

 饗応する幕府側にとっては、将軍の就任を外国の使節がお祝いに来るという事で、幕府の威信を高める恰好のイベントであったが、総勢数百名の団員を接待し、帰る際には数々のお土産を持たせるのであるから出費が嵩んでいた。 

 送り出す側としても、下々にとっては日本が持たせてくれるお土産が魅力的であったが、政権側にとっては頭の痛い費用負担であった。

 また、日本を取り巻く諸外国の動きへの警戒もあって、外国使節の迎え入れを当分は控えるべきだと判断し、通信使の招聘しょうへいを中断したのだろう。


 しかし今回、日本が諸外国に向けて開国する旨を伝え、最後の将軍となる予定の慶喜の就任を祝う為にも、長らく途絶えていた通信使の派遣を朝鮮側に求めた。

 これが最後と思えば、多少の費用が掛かろうが思い切って出来るモノだ。 

 対馬藩の宗氏を通じ、交渉して貰う。

 宗氏はその地理的な関係上、昔から朝鮮半島に通じており、釜山ぷさんに倭館を設けて商売を続けていた。 

 宗氏の交渉団には桂小五郎、伊藤博文と福沢諭吉を同行させる。

 朝鮮半島と聞いて真っ先に思い浮かべる二人と、西郷の征韓論に最後まで反対したという小五郎なので、視察を兼ねて行ってもらう。


 「小五郎君は病に、博文君は暗殺に注意して、諭吉君は例外を以て全体を判断しないで下さい!」

 「病に注意ですね?」

 「分かりました!」

 「いや、何を言っているのかさっぱり……」


 諭吉は松陰が何を言ってるのか理解出来ずに戸惑った。 


 一人の有能な青年を以て国全体を判断してはならない。

 前世の記憶を思い出し、松陰は声を大にして言いたかった。

 結局は脱亜論を書く羽目になった諭吉には悪いが、一握りの若者の集まり程度では権力を奪取するくらいが関の山で、国の在り方を抜本的に変える事など出来はしない。

 いくら権力者が清廉潔白であっても、上に政策あれば下に対策ありという事で、下々の役人は清い権力者が腐敗するのを待つばかりだ。

 

 そんな国を近代化させようとするならば、前世と同じ様に莫大な予算と人員と時間を掛け、教育から変えていかねばならないだろう。

 しかし、その結果は無駄に終わった。

 それどころか逆に恨まれる始末だ。

 そんな前世を真摯に反省すれば、半島に手を出すつもりは全く無い。   

 ただの一片も無かった。

 この世界の未来の日本人に、前世の自分達と同じ苦労を味わわせはしないと堅く誓う。


 かの国とは出来るだけ関わり合いを持たない様、日本の外交方針を決定しておきたいと思う。

 それならば途絶えたままの通信使は捨ておけば良いのだが、有耶無耶のままにしておくと何があるか分からないので、日本国の方針として外交関係に引導を渡しておきたい。

 それには現地を見てきた者の証言が必要であろう。

 関係を清算する説得力が違うからだ。


 松陰本人は半島の現状を知らないし知るつもりも無い。

 イギリス人女性の紀行文や、ネットの情報で知っている程度だ。

 しかし、それだけでも充分だと感じる。  

 その予想を補強する為の三人の派遣である。

 彼らには申し訳ないが、イギリスの女性が言う所の、北京の次に悪臭漂う首都の様子を見てきて貰いたいと思う。

 

 「先生、李氏朝鮮とはどう向き合うべきなのでしょう?」


 そんな風な事を考えていた松陰に帯刀が尋ねた。

 通信使を招聘したのに合わせ、気になったのだろう。

 自分がいなくなった後を託す帯刀なので、そこの所は十分に理解しておいて貰いたい。 


 「帯刀君はどう考えますか?」


 けれども質問に答えず、まずは帯刀の意見を求めた。


 「李氏朝鮮は、ついこの前までの我が国と同じく国を閉ざしております。ですが、先生の考えておられる大亜共栄圏を考えれば、我が国に最も近いと言える李氏朝鮮にも参加して貰った方が良いと考えます。」


 帯刀がその思う所を述べた。

 これまでの松陰の言動を間近で見てきた彼であるので、その結論は当然と言える。

 寧ろ、どうして今まで朝鮮について言及しなかったのだろうと、ずっと不思議に思っていた程だった。

 李氏朝鮮は松陰の故郷である長州藩からも近い。

 馬関と対馬、釜山を結ぶ航路を開けば良いと思った。


 「それは確かに良い案ですね。ですが、国を閉ざしているのはどうしますか?」

 

 松陰が再び尋ねた。

 幕府と李氏朝鮮間に国交はあったが、互いに自由な貿易をしている訳では無い。

 長州藩は密貿易をしていたが、それは彼らにとっても同じである。

 日本とは違って中央集権国家である朝鮮とはいえ、地方までも厳しく監視する事は出来ない。

 とはいえ国の方針として断固とした鎖国を維持していた。 

 

 「先生の様に論を尽くせば開国に傾くのではありませんか? 西洋の実情を知れば、開国しなければならないと理解する筈です。」

 「論を尽くす、ですか……」


 単純に考え過ぎだと思った。

 松陰のこれまでを知っているからこそ陥る錯覚と言える。

 松陰のそれは、論によって開国に傾けさせたのではなく、元々開国の必要性を感じていた人を選んで論陣を張っただけの話だ。

 傍から見ればあたかも説得に成功した様に感じるが、松陰がやって来た事は後押しに過ぎない場合が多い。

 そうであるので鎖国を続ける李氏朝鮮も、説得すれば通じると思ってしまうのだろう。 


 「我が国は開国し、西洋の技術を取り入れて国を強くする方法を選びましたが、断固として鎖国を維持すべしというのも一つの方法ではありませんか?」


 彼らに説得など通じないと言っても信じて貰えないだろう。

 

 「それは西洋の実力を知らないからだと思います。」

 「西洋といえど、徹底抗戦を決めた国を占領するのは難しいのでは? それに、この辺りは彼らから見れば極東ですよ?」

 「それは確かに……」


 松陰は決して口にしないが、イギリスが本気を出せば朝鮮半島を占領する事は可能と思われた。

 強固な中央集権体制を持った国は、その中央政府を押さえられれば脆い。

 それに加え武を蔑む半島では、碌な抵抗も出来ずに軍が瓦解するだろう。

 とはいえ、そんな事を言う訳にはいかない。

 下手な事を言い、朝鮮討つべしという征韓論にでもなったら目も当てられないからだ。

 

 「けれども、西洋の技術を見れば理解出来るのではありませんか? 鉄道を見せる為の通信使なのですよね?」

 「まあ、それもありますが……」


 通信使には船で横浜まで来て貰い、鉄道で江戸に入って貰う。

 双方の費用の節減と鶏被害の未然防止、帯刀の指摘通りに西洋の技術を見て貰う為である。

 但し、その意図する所は少々よこしまで、国論を二分する騒ぎを狙っていた。

 

 李氏朝鮮は朱子学を固持し、洋学を極端に嫌っている。

 中華に事大し、辺境の日本を蔑んでもいた。

 そんな日本が西洋の技術を無批判に取り入れ自慢していれば、必ずや日本を批判し、意固地になって西洋の文物を否定するだろう。

 そのまま半島から外に目を向けず、内に籠っていて貰いたい。

 出来れば西洋諸国にも手を回し、半島の放置を模索したい所だ。

 内情を知れば納得する筈なので、放置を以て日本の対朝鮮半島対策とする。

 最悪はロシアに北半分を占領されるにしても、こちらは釜山に軍港を確保して対峙する程度に留めたい。


 「あの国を知らない帯刀君には理解出来ないと思いますが、あの国の人々には理屈が通じないのですよ。」

 「え?」


 帯刀は呆気に取られる。


 「一例として、声で討つと書いて声討というモノがあります。」

 「声討ですか?」

 「そうです。あの国では論の正しさではなく、声の大きさや泣き落とし、時には悪口までも使い、相手を言い負かした方が勝つという伝統があるのです。」

 「ちょ、ちょっと信じられないのですが……」

 「いえ、それは我が国でも似たモノがありますよ?」

 「え?!」 


 再び驚く。


 「我が国では地位や年齢が上の者が言った事を、正しい事として尊重しなければならない意識がありますよね?」

 「そ、それはその通りです……」


 薩摩藩では年上の言う事が絶対であったりする。

 声討の事は言えない。


 「西洋とは違う、アジア的な伝統と言えるでしょう。まあ、あの国はその程度が著しく、我々には理解出来ませんよ。そういう意味で言えば、我が国はどちらかと言うと西洋よりです。」

 「少なくとも私は論の整合性や妥当性を考慮します!」


 そうある様に松陰が導いた。

 

 「西洋では、神は自ら助ける者を助けると言います。また、馬を川に連れていく事は出来るけれども、無理やり水を飲ませる事は出来ないとも言います。開国を助言する事は出来ますが、それから先は彼ら自身が決める事です。」

 「そ、そうですね……」


 道徳的にも序列でも下だと思っている日本に言われた所で、鼻で笑われるのがオチだろう。


 「我々は余計な手出しをしてはいけません。すれば必ず恨まれ、千年の後まで責められる事になるでしょう。触らぬ神に祟りなしです!」

 「分かりました!」

 「事の真偽は小五郎君が経験してくる筈です。それを待ちましょう!」

 「はい!」


 何となく釈然としない思いを抱きながらも帯刀は頷いた。


 そんな風にして小五郎の帰国を待っている間、アメリカの外交官タウンゼント・ハリス総領事が来日した。

 日本の使節団が帰国する時期を見ていたらしい。

 アメリカに残った忠震らが交渉を進めており、直ぐに締結出来る状態だったので、幕府は日米和親条約を結んだ。

 これで正式に日本は開国を果たし、国際社会にデビューした。

 約束通りに小樽、横浜、新潟、神戸、長崎を開港する。

 小笠原諸島の領有権を日本だと認めさせる代わりに、燃料や水などの補給港としての活用を許した。 

 

 開国し開港はしたが、自由な貿易までは許さない。

 今はまだ、売り買いしたい物を役所に届け出て、許可が下りなければ認めない方針である。

 従って関税自主権は棚上げされており、領事裁判権についても未定だ。

 忠震は領事裁判権を認めず、日本に入れば日本の法に従えと訴えたが、被告人の権利を守るべき弁護士が存在しない上、首を刎ねるという残虐な刑罰を採る日本に、アメリカの政治家も相当に憂慮したらしい。

 関税自主権にしろ領事裁判権にしろ、交渉は難航しそうだ。

 ただ、ワシントンに残った忠震らの人間性が高く評価され、日本を未開だとする認識を変化させているとの事。

 春蔵らのお陰で時ならぬ剣道ブームで、道場には市民が殺到しているらしい。

 防具や竹刀の輸出をお願いされた。

  

 「現時点でのアメリカの国力は弱いかもしれませんが、今後は世界一の強国となるでしょう。我が国が最も重視すべき相手がアメリカです。」

 「具体的にはどの様にするべきでしょう?」

 「大統領制の国は民意に左右されやすいので、アメリカ市民に憎まれたら不味いと言えます。しかし媚びる必要はありません。我々の考えをハッキリと伝え、理解して貰うのです。」

 「それが一番難しいかもしれないですね……」

「ハッキリと言う人は日本では煙たがれますからね。でも、文句がある時には言わないと、西洋では同意したモノと見られます。ですから西洋に行く外交官には我慢しない人、ズバズバ容赦なく言う人、場を険悪にしようが言いたい事を躊躇わない人といった、我が国では若干疎ましがられる人が行くべきかもしれません。」

 「成る程……」


 そういう意味では大阪のおばちゃんが適任かもしれない。


 「文化交流も大切です。サンフランシスコでは忍者を主人公にした劇を上演しましたが、継続したい所です。また、日本人の考え方や文化、伝統などを出来るだけ紹介し、我々の重んずる精神性を知って貰う努力を続けなければなりません。」

 「その様な意図があったのですね!」

 「大袈裟なくらいに自己アピール出来る人材も貴重ですよ。」


 興行を続けて旅費を稼いでいた事は知っていたが、そんな意味があったとは思わない。 


 「良く知らない相手は怖いモノです。近代の戦争は総力戦ですが、その為には国民の戦意を煽り、戦争に協力して貰わねばなりません。その過程で国民が敵国を憎む様に仕向けます。国民が良く知らない相手なら、政府が何を言おうが疑われませ

ん。逆の意味で言えば、国民が良く知った相手であれば、いくら政府が憎しみを煽ろうが、民は踊らされ辛いという事です。」

 「だから我が国の事を知って貰い、不要な摩擦を避けるという事ですね!」

 「そう言う事です。」


 大戦では鬼畜米英のスローガン、アメコミのヒーローが日本人をやっつける漫画など、プロパガンダは双方で盛んであった。

 英国は実際に鬼畜と呼ぶに相応しい所業をアジアで行っていた気はするが、ここで言っても仕方ないだろう。


 「アメリカとは協調してやっていくべきですが、油断してはなりません。基本的に西洋人は傲慢で、自国の利益が至上命題です。ですから百年もしない内に互いの国益が衝突し、雌雄を決すべき事態となるやもしれません。」

 「軍を疎かにするなという事ですね。」

 「まさしく。けれども、力をつけると試してみたくなるモノです。その点は十分に気を付け、自制を心掛けて下さい。」

 「剣の道と同じですね。」


 覇権主義ではないが、自衛の為には軍事力を高めなければならない。 

 これを以て対アメリカの外交方針とする。


 そしてロシアのプチャーチンが来日した。

 ロシアともアメリカと同様、和親条約を結ぶ。

 最恵国待遇はどこの国にも認めないので、条約の条件は個別だ。

 尤も、今の所はどこの国とも同じ条約であるが。

 

 「ロシア人の個人は人が良いかもしれませんが、ロシアという国に気を許してはなりません! あの国は最も油断のならない相手です。たとえ同盟を結んでいても、いざこちらが弱ったと見れば平気で裏切るでしょう!」

 「はい!」


 中立条約を一方的に破棄し、北方四島を占領した事は忘れない。

 そんな風にしていると、イギリスとフランス、オランダもやって来た。

 同じ条約を結び、国交を樹立する。


 そして小五郎らが任務を終えて帰国した。

 顔色は非常に悪かったが、無事に通信使の派遣が決まったらしい。

 

 「あの国はどんな感じだった?」


 帯刀が小五郎に尋ねた。

 松陰の説明に、まさかそんな国があるのかと思う。 


 「最悪、かな……」

 「最悪!?」


 小五郎はそれだけ言って口を閉じた。

 これ以上は語りたくないという風だ。

 そんな彼の様子に帯刀も察し、それ以上聞く事は止める。

 半島での詳しい経緯は書面に残しているらしいので、それを読む事にした。


 「何と!」


 報告書を読み、帯刀は絶句した。

先月31日、元徴用工への判決が下り、補償せよとなりましたね。

日本政府は反発しており、今後韓国から何かお願いされても放置しそうです。

30日くらいに更新出来ていたらジャストタイミングだったのですが、ちょっと残念。

時代が俺に追いついたぜぇと言ってみたかった・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ