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ラーマーヤナ

ファンタジー色が強めです。

ご容赦下さい。

 『カオルコよ、元気にやっておるようだな。』

 「はい!」


 宙に浮いている男とカオルコが言葉を交わす。 


 「でも、どうして精霊主様が?」

 『お前の様子を見に来たのだ。先の事を本当に反省しているかどうかを確かめる為にな。』


 そう言って周りを見渡した。


 「これは違うんです! アタシは何もやってません!」


 カオルコは頭をブンブンと振って否定する。

 男の見つめる先には一言も喋らず、黙って空の皿を見つめ続ける異様な集団がいる。 

 そんな彼女を見つめ微笑んだ。


 『案ずるな。人間に生まれ変わったお前にそこまでの力は無い。』

 「だったらどうして?」

 『これは私の力である。私の姿を人に見られる訳にはいかないのでな。』

 「そういう事だったのね!」


 カオルコは合点がいった。 


 『カオルコよ。』

 『はい!』

 『香霊様の言いつけを守り、最後まで良くやり切ったな。お前のやった事は許される事では無いが、それは褒められるべきだろう。』

 「はい……」


 上司の褒める言葉に悲しい顔で応える。 

 そんな彼女の様子に精霊主は喜んだ。


 『お前も分かっておるのだな。重要なのは迷惑を掛けた相手へ誠心誠意謝り、許してもらう事だからな。』

 「はい!」


 ここで松陰は声を掛けた。


 「お取込みの最中すみません。カオルコさんにはしっかりと謝って頂きましたし、許すも何も恨んでもいませんので、これ以上の謝罪は不要です。」


 その言葉に精霊主が松陰に向き合う。

 成る程、カレーの妖精の上司である精霊主というだけあって、誠にカレーテイスト溢れる存在であるなと松陰は思った。

 ガンジス川で修業を積む行者の様な佇まいなのだが、発するオーラはウコンの如く、美味しそうなカレーを連想させる美しい黄色である。

 ありがたさに思わず両手を合わせて拝みたくなりそうであった。  

 そんな松陰に精霊主が頭を下げる。


 『人よ、この度は我らの仲間が大変な迷惑を掛けたな。妖精を束ねる者として謝罪したいと思う。誠にすまない。」

 「いえいえ、先程も言いましたが、これ以上謝ってもらう必要はありませんよ。元はと言えば私が勝手に転んだだけですし、こうして生き返らせて頂いたのですから。それに、カオルコさんにも会う事が出来たし、カオルコさんが作ったカレーを食べるという、思わぬ幸運にも巡り合えたので。」

 『そうか……』


 松陰の正直な気持ちの吐露に精霊主は頷いた。

 再びカオルコに向き合う。


 『我々が迷惑を掛けてしまった相手にここまで言われるとはな……。感謝せねばなるまい。』

 「はい!」


 カオルコは即答した。

 精霊主が続ける。


 『謝罪し、許された事を以て香霊様がお前に科した贖罪は終わりだ。』

 「はい……」

 『では、お前の今後だが、選べる二つの道がある。』

 「二つの道?」

 『そうだ。一つは香霊界に帰り、精霊を目指す道。もう一つはこのまま人として生きていく道だ。』

 「香霊界に帰るか、人として生きるか……」


 カオルコは松陰にチラッと視線を走らせた。


 『香霊界に戻れば今の記憶を抱えていく事になるが、人として生きるのなら輪廻の輪に入る事になり、死ねば記憶は引き継がれないぞ。』

 「良く分かりません……」

 『うむ。お前に分かる様に説明する自信は無いな。』

 「そんな……」


 意外に冷たい上司である。


 『少なくとも香霊界に戻るのなら、その者とはここでお別れだ。』

 「アタシは純と一緒にいたいです!」


 強く訴えた。


 『しかし、相手もそう思っているとは限らないのではないか?』

 「え?!」


 そう言われ、カオルコは松陰に詰め寄る。


 「純! アタシは邪魔?」

 「あの、えぇと、何と言いますか、参ったな……」

 「嫌なの?」

 「違いますよ!」

 

 カオルコの邪推を否定する。


 「じゃあ!」

 「ちょっと待って下さい!」

 「何?」


 松陰は一呼吸置いた。

 そして意を決した様で、カオルコの目を見つめて言う。 


 「カオルコさん!」

 「何?」

 「僕と結婚してカレーを作って下さい!」 

 「嘘?!」

 「嘘ではありませんよ!」


 どうすべきなのか以前から漠然と考えてはいた。

 スズとの関係もあり迷っていたが、本人を見て決心がついた。


 「どうなのですか?」 

 「嬉しい……」


 カオルコは大層驚いたが、自然と浮かんできた笑みで返す。


 「嬉しいだけでは答えになっていませんよ!」

 「そ、そうね! じゃ、じゃあ、はい!」

 「ありがとう!」

 

 こうして二人の結婚が決まった。

 そんな二人を精霊主が祝福する。


 『人よ、カオルコをよくぞ見つけてくれた! 受け入れてくれた! 立場を越えて礼を言う!』

 「どういたしまして。」


 カレーに祝福されている様で嬉しかった。


 『その礼をしたいと思う!』

 「いえいえ、その言葉だけで十分ですよ。」

 『そういう訳にもいかぬ。精霊としての沽券に係わるのでな。』

 「はぁ、そうなのですか?」

 『そうなのだ! では祝福として次の事を授けよう。カオルコが過去に挽いた香辛料を一口でも食べた者は、その一族郎党全て、そなたの言う事を聞くだろう。』

 「え?!」


 松陰は耳を疑った。

 精霊主は説明を続ける。


 『そなたがこのインドの王になりたければ、王として認めよと願えば良い。さすればカオルコが挽いた香辛料を食べた者は、一族全てがそなたを王として戴くだろう。』

 「いやいやいや、あり得ませんって!」

 『それが精霊主である私の力である!』


 どうだと言わんばかりの顔だった。

 カオルコが言う。


 「これってアニメで知ってるわ! ギア……何とかよね?」

 「いやいやいや、違うでしょ?」


 シータの時といい、どうして知っているのか不思議に思った。

 とは言え、どうやら嘘では無いらしい。

 どうしようかと考える。


 「しかし、突然そんな事を言われてもなぁ……」


 インド人の王になる事はさておき、言う事を聞いてくれるとは凄い事だと思う。

 

 『予め言っておくが、余りに複雑な願いや延々とした類は却下だ。誰かを不幸にするモノも無理であるし、色々と制約は多いのでな? 分かっておろうが……』 

 「それは当然ですね。弁えていますよ。」


 欲張り過ぎは自滅するのが古来からの定めであろう。 


 「うーん、どうしよう? 時期的にもギリギリだしなぁ……」


 シパーヒーの乱を思う。

 史実通りなら約3年後に起きてしまうのだが、反乱は失敗し、結果としてムガール帝国は崩壊し、インドはイギリスから直接に支配される事となる。

 まだ本格化していない筈の東インド会社による圧政を目の当たりにし、どうにか出来ないのかとずっと思っていた。

 

 「それに日本の為にもなるよなぁ……」


 開国したばかりの日本は西洋列強に対抗する力は無い。

 先の歴史を繰り返さない為に色々と手を打ってきたが、その見通しは立った。

 であれば、次はインドの為に何か出来ないかと思う。

 そして、インドの為になる事は日本にもプラスになる筈だ。

 

 「何より、それこそが吉田松陰先生っぽい気もする……」


 それは前々から考えていた事だった。

 既に歴史を変えてしまっているが、その責任を取らねばならないのではと。

 決心がつき、言った。 


 「決まりました!」


 松陰の言葉に精霊主が応える。


 『そうか。ではカオルコを抱きしめ、接吻しながら念じれば良かろう。』

 「え?!」


 松陰とカオルコが同時に発した。

 互いを見合い、顔を赤く染める。


 『冗談だ。手を握って言えば良い。』

 「冗談が過ぎますよ……」

 「アタシは全然構わないけど!」


 松陰はドッと疲れた。

 気を取り直し、カオルコの手を取る。

 そして言った。


 「誇りあるヒンドゥスターンの民よ、聞け! 我はビシュヌ神第7の化身、ラーマ王子なり!」


 高らかに宣言する。


 「5年の後、我は横暴なる西洋人をこの地から追い出す戦いを始める! 栄光あるヒンドゥスターンの地を取り戻したければ、我と共に戦うのだ!」


 ヒンドゥスターンとはインドの事だ。


 「己が利益の為に西洋人に味方している者もおろう。だが、それも終わりにするのだ! ヒンドゥスターンの地から得られる利益は、まずヒンドゥスターンの民の為に使われるべきである!」


 藩王国の中にはイギリスに味方する勢力も多かった。


 「ヒンドゥスターンの民よ! 我と共に戦うか?」


 松陰は尋ねた。

 ここまできて、そう言えば自分の言う事を聞いてくれるのは、インド人のどれだけなのだろうと疑問が湧いた。

 もしも1割にも満たないのなら不可能じゃないかと。

 松陰の言葉に、それまでは静かであったゾンビの群れから反応が起きた。

 肯定の返事である。


 『どれだけいるのか気になったのか? 答えを言うと9割だ。』

 「何と!」

 『カオルコの祈りが為した結果だな。』


 彼女が挽いた香辛料は違うと評判が上がり、近隣からも買い求めに人が集まった様だ。 

 それを百年続けてきたのでこうなった。

 松陰は力づけられ、その後を続ける。


 「ヒンドゥスターンの民よ! 5年後までに、その力を存分に蓄えよ!」


 史実での吉田松陰は1859年、29歳の若さで刑死している。

 今は1855年であるので、5年後だと1860年となり、史実とあまり変わらない。

 これまで歴史を変えてきて、最期くらいは歴史を守りたいと思ったのだ。

 日本での生活を終え、インドに渡ろうと決意した。

 維新を見守るという選択肢もあるが、自分がいない事で寧ろ進む事もあろう。

 現に史実の松下村塾の塾生は、松陰がいなくなった事で奮起した面がある。

 その様な事を思いつつ話を〆ていく。


 「ブラフマンよ! 民の心を纏め、一つにするのだ!」

 「クシャトリアよ! 大いなる戦いに向け武器を揃え、その身を鍛えよ!」

 「ヴァイシャよ! 戦いは武器だけでは無い! 職務に励むのだ!」

 「シュードラよ! 腹が減っては戦が出来ぬ! 土を耕し種を植えるのだ!」 

 「アチュートよ! この戦いの暁には、汝らの悲願は叶うであろう!」

 「イスラームを信仰する者よ! 異なる神を戴こうとも、汝らが住む地はヒンドゥーと同じ筈だ!」


 そして最後に言った。


 「計画がバレては終わりである! 5年後の事は忘れ、今まで通りに過ごして準備だけを進めるのだ!」


 こうして口を閉じた。

 カオルコが興奮して言う。


 「凄いわね、純!」

 「うーん、ちょっと無茶だったかな……」


 後悔は無い。


 『それで良いのか?』


 精霊主が尋ねた。


 「いけない、もう少しだけお願いします!』


 慌てて足す。


 「日本の方々! この女性はシータさんで、日本名はカオルコさんです!」


 ついでにどうにかしておこうと思った。


 「色々と疑問に思う事もあるでしょうが、察して聞かないで下さい!」


 こうして一連の事は終わり、精霊主は香霊界に帰っていった。




 『シータ姫を宜しく頼む!』


 バハードゥル・シャー2世が言った。

 全てが良い感じになっている。


 『香辛料をたっぷりと持たせるので、日本でも好きなだけ挽くと良かろう。』

 『ありがとう、お父様!』


 ムガール帝国皇帝の好意で、使節団には香辛料が大量にプレゼントされた。

 惜しまれて日本使節団はインドを発つ。

 松陰の日本生活、残りの5年が始まった。

ツッコミはご勘弁を。


おまけ

千代「あなたがカオルコさん?」

カオルコ「宜しくね!」

千代「まあ!」(なれなれしいわね)


千代「ちょっとスズ! どうするの?」

スズ「どうするもこうするも、私は先生の妾でいいから……」

千代「またそんな事を言って!」


カオルコ「これってあれね! ハーレムね! 流石は純だわ!」

千代&スズ「はーれむ? じゅん?」

カオルコ「あ! 何でもないわ!」


スズ「うーん、カオルコちゃん? カレーを作ってくれない?」

カオルコ「任せて!」


カオルコ「どうぞ!」

スズ&千代「美味しい!」

スズ「許した!」

カオルコ「ありがとう!」

千代「ちょ、ちょっと!」



歳三「総司達がおかしい・・・」

マリア「熱心な信者を見ている様だわ・・・」

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