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ウキウキワクワク宝の地図作り ★

 『奴ら、どこへ行きやがった!』


 サムが苛立たし気に叫ぶ。

 スズらを見送り、馬で急ぎ駆け付けたインディアンの集落である。

 テントまで綺麗に片付けらており、何も無い寂しい風景が広がっていた。

 周辺までくまなく探したが、人っ子一人見当たらない。


 『おい! どこで金を見たんだ?』


 大量の金塊を見たという男に問い質す。


 『村外れの池の周りだ!』

 

 すぐにそこへと急行した。


 『見ろ! 金が落ちているぞ!』

 『どこだ?!』


 仲間の指指す先を、サムは地面に這いつくばる様にして観察する。

 よくよく見れば、土の上に小さな砂金の粒が落ちていた。


 『金だ! しかも、そこら中に落ちてやがる!』

 『ああ! これで間違いないな! 奴ら、ここに隠してやがったんだ!』

 『あの珠の大きさから考えると、ここに置いてあったのは恐ろしい数だぜ!』


 日本人一行が見せた金の珠。

 池の周辺に残された金の残骸の散らばり具合から、その数の程が見て取れた。

 サムは十数個と口にしたが、それどころではない尋常な数であるのが推察出来る。


 『クソッ! 奴らどれだけ集めてやがったんだ!』

 『全部あの馬車に載せたのか?』

 『嘘だ! たったあれだけの馬車で運べる筈がねぇぜ!』


 馬車が重すぎれば馬は直ぐにばててしまう。

 

 『ってことは、残りはインディアンが運んだのか?』

 『だろうぜ!』

 『どこに?』

 『サンフランシスコしかねぇだろ!』


 金を売りに行くならば、それ以外には考えられないとサムは判断した。


 『池の中にまだ残ってるんじゃないのか?』

 『確かにそうだな!』


 それぞれがそれぞれの意見を述べ、それぞれの考えに従って行動を開始する。




 一方、サムらが噂していた金を運ぶ松陰らは、既にシエラネバダの山の中にいた。

 現代で言うエルドラド、ヨセミテ両国立公園にまたがる森の中である。

 急ぎソルトレイクシティに向かわねばならない筈なのに、松陰は勇と一緒にウキウキワクワクとして歩いていた。

 

 「いやぁ、まさか財宝を隠し、宝の地図を作る事になるとは思いませんでしたね!」 

 「違いない! 小さい頃からの夢が叶うとはな!」


 二人は共に笑顔であった。

 勇の背中には老婆があったが、それを感じさせない軽やかな足取りである。


 『ジョニーさんは子供の頃、宝探しとかしましたか?』


 松陰がジョニーに尋ねた。

 ジョニーは一人で数人分の金を運んでいる。

 けれどもその足取りはしっかりとしており、まだまだ余裕がありそうだ。


 『オデ? そうだなぁ、昔はやったなぁ。だけんど、オデは地図とか全然分かんねぇから、皆の後ろを付いていくだけだっただぁ』

 『成る程。同じなんですねぇ』


 ジョニーの答えに松陰が頷いた。

 そういう会話をしている間も、キョロキョロと辺りを見回している。


 「でも、隠しやすく見つかりにくく、かつ地図を作りやすい場所というのは案外難しい物ですねぇ」

 「全くだ! 夢が叶うのは良いが、チェキロー族の運命がかかっている事を思うと、お遊びでは済まされないからな!」

 「そう、これは遊びではない、真剣な作業です!」

 「その通りだ!」


 二人は滝壺を覗き込み、湖の中に潜り、大木のうろに入り、隠し場所に最適な場所を探していった。

 そして約900キログラムの金塊を数か所に分けて隠し、その位置を示す地図を作っていく。


 「うーん、宝の地図って、いざ本格的に作ろうとすると悩みますね……」

 「そうだな……」

 「と言うか、日本語で書くだけで、アメリカ人の誰も分からないですよね?」

 「それはそうだろうが、日本人がいないとも限らないだろう?」

 「まあ、中浜万次郎さんという例もありますからねぇ」


 どこに金を隠したのか?

 正確に書かねば後で苦労するが、正確であればある程、誰かに写し取られた時には致命的となる。

 その対策としては、知った者でなければ分からない暗号で書く事であろうか。

 また、一か所に隠し、何かの弾みで見つかっても、それはそれでお終いである。


 「ですが、仲間にも見せなければ、面倒な暗号にする必要もありませんよね?」

 「それはそうだが、それでは宝の地図ではないだろう?」

 「ですよねぇ。うーむ、難しい……」

 「簡単では無いな……」


 地図を作る役は二人しかいない。

 互いに意見を出し合い、相談しつつ作り終えた。

 

 「出来たぁ!」

 「やっと、か!」


 二人が安堵の声を漏らした。

 仕上がった宝の地図に、心より満足する。

 最後の方はちゃちゃっと作ってしまったが、かなり良く出来た地図だと自賛した。


 『ジョニーさん、この地図を見て、どこに金を埋めたか分かりますか?』


 松陰がジョニーに意見を求めた。

 地図が読めないという彼が理解するなら、宝の地図失格だろうと思う。

 そんな失礼な事を思われているとも知らないジョニーは地図を受け取り、眺めた。

 うんうんと唸り、やがて諦め顔で口にする。


 『駄目だぁ! オデには分かんねぇ!」

 『そうですか……』


 まずは一安心の松陰であった。


 『では、金を隠し終えたので、これより急いでソルトレイクシティに向かいましょう!』

 (おぉぉ!)


 松陰の言葉に、部族の運命を預けたチェキロー族が応えた。




 「あれは?」

 「土煙?」 


 荒野に入って数日、先を急ぐ一行は足を止めた。

 前方より何かが迫って来ているらしい。


 「盗賊だと不味いぞ!」

 『長! 女子供を後ろにやり、馬と共に男衆を前に来させて下さい!』

 『分かった。』


 弓を構えた男達が、テントを縛り付けた馬を盾にして集まり、女子供をその後ろに下がらせた。

 勇は老婆を背中から降ろして後ろに行かせ、虎徹に手を掛ける。

 松陰は拳銃を抜き、シリンダーと懐の中の残弾数を確認した。

 

 「弾はあるのか?」

 「手持ちは十数発だけです。」

 「心許ないな……」

 「残りは馬車に置いてきましたからね……」


 弾の全ては持てなかった。

 土煙は益々近づいてきている。

 確実に自分達に向かって来ているらしい。

 遠目に、馬に騎乗している人の姿も確認出来た。


 「あれはインディアン?!」

 

 チェキロー族とは服装が違うが、確かにインディアンっぽい恰好をした集団であった。


 「インディアンという事は、チェキロー族の仲間なのか?」


 勇が問いかける。

 同じインディアンと聞けば、そう思うのも無理はないだろう。

 けれども松陰は勇の質問には答えず、まずは長へ尋ねた。


 『長! 彼らがどこの部族か分かりますか?』

 『いや、私には分からぬ。』


 あっさりと否定した。

 次に知っていそうなジョニーに話を振る。


 『では、ジョニーさんは分かりますか?』

 『オデも知らねぇ。だけんど、シエラネバダの向こうは、ショショーン族の縄張りと聞いただぁ』

 『ショショーン族? どんな部族かご存知ですか?』

 『平原でバッファローを狩る連中だと聞いたど。』

 『成る程!』


 その説明に少しだけ安堵する。

 そんな松陰に説明を重ねた。


 『馬車も襲うと聞いたど。』

 『何ですって?!』


 聞き捨てならないジョニーの言葉であった。


 「ジョニーは何と言っておるのだ?」

 「あれはショショーン族らしく、馬車を襲う事もあるそうです!」

 「何だと?」


 一行は一層気を引き締めた。 

 と、後ろの方で老婆が何やら盛んに言い募っている。

 何だと不思議に思っていると、長が老婆の言葉を伝えてくれた。


 『ショショーンなら、大婆様の知り合いがいるかもしれないそうだ。』

 『何ですと?』


 その意味を詳しく確認する前に、馬に乗った集団が眼前に現れた。

 



 「平和裏に交渉が済んで良かったですねぇ」

 「全くだ!」


 彼らの集落で、二人はホッと安堵の溜息を漏らした。

 現れた集団は、ジョニーの言う通りにショショーン族であった。

 弓を持った者、銃を持った者などと、兵装としてはバラバラであったが、一つ共通していた事がある。

 それは皆の顔が精悍であった事だ。

 恐れを抱いている者は一人としておらず、威風堂々と馬の上に佇んでいた。


 「お婆さんの知り合いがいて助かりましたね!」

 「亀の甲より年の劫と言うヤツだな!」


 年の頃同じくらいの老婆が二人、涙の再会を果たしたのはつい先程の事である。

 何でも、元の村から追い出されて平原を彷徨っている間に、彼らに助けられたのだそうだ。

 その時にショショーンの戦士の一人に嫁ぎ、以降会う事はなかったらしい。

 双方皺だらけの顔を涙で濡らし、互いの無事を喜んでいた。

 そのお陰もあってチェキローの名を知っており、無用な衝突が避けられたのだ。

 

 ショショーン族は平原を移動し、バッファローを狩って暮らしている。

 その為、彼らの住居であるテントは、持ち運びが容易となる様に簡素な作りとなっていた。

 地面にバッファローの皮で出来た敷物を敷き、その上に座るのだが、意外に心地よく、疲れを取るには十分である。

 そのまま彼らの歓迎を受け、その日を終えた。

  

 次の日、チェキローの長が松陰らの前にいた。

 いつもの様に淡々とした表情で切り出す。


 『遠い兄弟達よ、我らはショショーンの村に留まる事にした。』

 『え?』

 『我らは本当は白人の町に行きたくは無いのだ。』

 『う!』


 それは半ば懸念していた事だった。

 あのまま村にいれば、金の噂を聞きつけた無法者によって、彼らがどんな酷い目に遭うのか分からない。

 それを心配して全員の移動を決めたのだが、かと言って、彼らが白人の町に住む事を受け入れるのかは、はっきりとは確認していなかった。

 いざとなればソルトレイクシティで必要な物を買い求め、町の周辺でキャンプをしてもらう事も考えていたのだ。

 その為の金もいくらかは持ってきているが、長の言葉は正直ありがたい。

 白人の町に大挙して押しかけるよりも、ずっと安全で安心だろう。

 老婆の知り合いもいるなら尚更である。


 『ショショーンの人は何と言っていますか?』

 『喜んでくれている。』

 『そうですか……』


 それなら心配は無さそうだ。

 厄介な問題に片が付き、松陰は密かに胸を撫で下ろす。

 しかし、そうなると別の問題も生じる。


 『皆さんがそうしたいのであればそれが一番ですが、そうなるとどうやって連絡を取るのか考えないといけませんね……』


 携帯電話どころか、電話そのものが無い時代である。

 ここで別れてしまえば、二度と出会えないかもしれない。

 助けると約束した手前、果たせないままとなってしまう事を恐れた。

 そんな松陰の心配に長は言う。


 『我らの一人を遣わそう。脇に置き、家族となれば良い。同じ家族となれば、母なる大地の導きによって、必要な時には再び出会えるだろう。』

 『成る程、そういう物ですか……』


 全ては神の導きと考えるなら、それはそれで良いのかもしれない。

 松陰は納得し、彼らのこれからを思って言った。


 『いざという時の為に金を持って来ましたが、半分は置いていきます。必要な時に使って下さい。』


 数にして5個、持ってきている。

 しかし長は、その申し出をきっぱりと拒否した。


 『我らには必要無いし、ショショーンも受け取らない。困っている者を助けるのは当たり前だし、それに対しての見返りなど求めないからだ。』

 『失礼しました。』


 気高いインディアンの精神性にケチをつけた気がして、松陰は思わず赤面した。

 

 『では、我らはこのままソルトレイクシティを目指しますね。』

 『遠い兄弟達の旅路を祈ろう。』


 こうして松陰らはチェキローと別れ、馬車隊と合流すべく進む事となった。

 馬を借り受け、ショショーンの一人が道案内までしてくれる。

 勇との別れに老婆は涙ぐんだが、必ず戻るとの言葉にウンウンと頷き、名残惜し気にいつまでも見送っていた。

 道案内と併せ、五人で先を急ぐ。


 「ですが、長の言っていたのが女の子というのは、一体どういう事でしょう?」


 チェキロー族の同行者は女の子であった。

 年の頃10代前半で、片言の英語が話せる様だ。


 『名前は何というのですか?』

 『ディケアミス。大婆様と同じ。』

 『初めて知りました……』


 ここにきてようやく老婆の名を知った松陰らであった。


 「しかし、家族となれば良いとは、もしかして……」

 「嫁にしろという事か?」

 「ですかねぇ……」


 またややこしくなりそうで頭が痛い。

 これは勇に任せようと固く誓う。

 一刻も早く合流しようと馬を走らせた。




 暫し時を遡ったソルトレイクシティ


 『教祖様を殺した男が密かに来ているそうだぞ!』

 『何?! それは本当か?!』

 『その男を見たってもっぱらの噂だぜ!』

 『本当だったら八つ裂きにしてやる!』


 モンモル教徒が仲間内で話し込んでいた。

 同教団は一夫多妻制などアメリカの法理念とは異なる教義を持っていた事もあり、地域住民との間に常にトラブルを抱え、拠点を転々と移し、ついにはここソルトレイクシティにまで来ていた。

 教祖アダム・スミス・ジュニアは、1844年イリノイ州でモンモル教に反感を持つ暴徒に襲われ、銃撃戦の末に撃ち殺されている。

 そしてここ最近、東部からカリフォルニアに向かう人々の中に、教祖を殺した男が混じっているとの噂が流れ、教徒らは殺気立っていた。

 復讐に燃える教徒らは噂を信じて開拓民を襲い、百人近くを皆殺しにするという暴挙に出る。

 そのニュースは瞬く間にワシントンへと送られた。


 ホワイトハウス


 『モンモル教徒に市民が殺されただと!?』

 

 執務室でフランクリン・ピアース大統領が怒りの声を上げた。


 『必ず犯人を見つけだし、裁判にかけるのだ!』


 その為に陸軍2500名の派遣を決める。


 『抵抗する様なら躊躇いなく武力で鎮圧しろ!』


 一夫多妻制を取るモンモル教は、大統領にとっても頭の痛い問題である。


 『この際、教団そのものを壊滅させても構わん!』


 その為の精鋭部隊を用意した。


 『急ぎソルトレイクシティに向かうのだ!』


 率いるのはロバート・E・リー少佐。

 陸軍士官学校の校長の役にあったが、大統領に命じられてその任務にあたる。

 ソルトレイクシティは風雲急を告げていた。

挿絵(By みてみん)

ショショーン族はショショーニ族がモデルです。

同じ様にモンモル教はモルモン教がモデルです。

モルモン教と政府軍との間に起きたユタ戦争は1857年ですが、それを3年早めています。

市民が殺されたマウンテンメドウの虐殺は、政府軍との睨み合いのさ中に起こった様ですが、物語として時系列をいじっています。

ロバート・E・リー将軍は、1855年に大佐に就任するみたいですので、ここでは中佐としました。

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