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メインヒロインだけれども今後いつ登場するのかは不明

メインヒロインです。ただし、インド編で登場予定ですので再登場はいつになるのかわかりません。

 私は妖精。

 カレーの精霊見習いなの。

 カレーを愛する人の心がこの世界と香霊界を繋げ、妖精である私が来れる様になったわけ。

 妖精はこの世界で修行を積み、精霊主様に認められて初めて一人前の精霊になれる。

 妖精だと大した力は使えないから、皆精霊になる為に頑張ってるの。

 妖精のままだと世界を行き来できないから当然よね。

 この世界に来れるのは選ばれた妖精だから、私ってエリートなのよね、えっへん!

 あ! 香霊界って私の生まれ故郷の事ね。

 私たちを生んでくれた偉大な香霊様の下、皆で平和に暮らしてたの。

  

 私が遣わされたのは、純っていう日本人の男の人の所だった。

 まだ妖精だから純と話せる力はないし、純も私がいる事を知らない。

 精霊にまで成長できれば純とも話せるけど、この世界に生まれたばかりの私ではまだ無理だ。

 妖精は人の祈りとかを受けて成長し、試験に合格できれば精霊になれるわけ。

 反対に、人の憎悪や恐怖なんかを吸って成長しちゃうと、悪霊になって人に危害を加える存在になっちゃう。

 カレーをこよなく愛する純の思いがあったから私はこの世界に来れたし、純の祈りを成長の糧にして私は育っていった。


 そんな私の唯一の特技はカレーの熟成。

 っていうか、妖精に出来るのはそれしかない。

 純の作ったカレーを熟成させ、より美味しくすることが私の特技だ。

 これはどの妖精にも負けない私だけのものだと思ってる。

 だって純の心がこの世界に私を呼んだんだもん!

 純の作るカレーを、純がより美味しく感じられる様にできるのなんて当たり前でしょ!

 他のカレーまで熟成できるのかは知らない。

 だって私は純の台所から動けないから。

 でも、それはまるで気にならない。

 だって純がいるから。

 純がカレーを作って、私が熟成させて、それを美味しそうに頬張る純の笑顔を見てるだけで私は幸せだから。


 今日も美味しそうだなぁ。いただきまーす! 美味い! ご馳走様でした。あー、幸せだなぁ。


 それが純だ。

 私がこの世界に来てからずっと、純は毎日カレーに祈りを捧げてる。

 多分、私が来る前からずっとそうだったんだと思う。

 だってそうじゃなきゃ私が来れるはずがないもの。

 私はよく知らないけど、日本には美味しい物がたくさん溢れていると聞いた。

 日本に降臨して精霊になれたヒト達が、香霊界に戻ってきた時にそんな事を話しているのを耳にした事がある。

 そんなに美味しい物が溢れているのに、日本に降臨している香霊界の精霊の数が、カレーの生まれ故郷であるインドの次に多いって、どういうことなんだろう?

 他に美味しい物が溢れてるらしいのに、毎日こんなに熱心に、感謝と祈りを捧げてくれる純は、本当にカレーが好きなんだろうな。

 そんな純を見ているだけで私の心はあったかくなる。

 他には何もいらないと感じる。

 私にとっては純が全てだ。


 そんなある日、あの女がやって来た。

 いつもなら鍵が回る音の後、勢い良くドアが開き、「ただいま」と純の声が聞こえるのに今日は違った。

 鍵が回りドアが開いたのに純が入ってくる事は無く、「助けて!」という女の声が聞こえたと思ったら何かバタバタとした感じと、聞いた事も無い男の叫びが響いて、女が入ってきたかと思ったら純が部屋に入ってドアを閉め、鍵をかけた。

 男の声が外から響いてドアをがんがん叩いている。

 

 何これ? 怖いわ!

 何? 何なの、この女は?

 純には付き合っている女性はいないはず! だって、純は私一筋なんだから!


 純が女に警察に電話するよう言ってるし、女が助けていただいて、とか言ってるところを見るとどうやらさっきの男がこの女を襲ったのね。

 そして純がこの女を部屋に匿ったというわけね。

 さすが純! でも、危ないことは止めてほしい。

 純に何かあったらと考えただけで気が狂いそうになる。


 と思っていたら純がカレーを準備し始めた。

 カツも買ってるという事は、今日はカツカレーにするのね。

 カレーは手作りする純だけど揚げ物は家ではしないから、カツカレーにしたい時は外で買ってくるのよね。

 揚げ物をすると台所がどうしても油で汚れてしまうし、毎日使うわけでもないから油の後片付けも面倒らしい。

 純は合理的ね。


 でも変ね? 

 女はいらないと言ってたから純の分だけだと思うのに、この量は明らかに一人分じゃない。

 いつもの事だから純が間違えるわけがないのに。

 どういう事? 

 ……ま、いっか。


 冷蔵庫の中で私が丹精こめて熟成したルーを取り出し、純はレンジに入れている。

 今日もしっかり熟成されているはずよ。

 でも、何か癪に障るから、いつもよりたっぷりと私の力を注いであげる!

 純は私だけ見ていればいいの!

 他の女に興味を持たなくていいの!


 と思っていたら女がカレーの香りにそわそわし始めた。

 当たり前よね。

 純と私の力作だもん!

 純が再び女にカレーを勧めたら女が頷いた。


 あ! そういう事か! こうなる事がわかっていたから純は多めに準備したのね! さすが純! できる男は違うわね!


 女はカレーを前に呆然としている。

 純と私のカレーを褒め称えるがいいわ!


 一口含み、目を見開いている。

 当然よね。

 いつもより私の力が込められてるから素人には強烈よねー。

 私なしにはいられないくらいになっちゃうかもねー。

 毎日食べたくなっちゃうかもねー。


 って、あれ?

 それってやばくない? 何だか大変な失敗をしてしまった気がするんだけど、私の気のせいかな? 

 ……ま、いっか。


 女は涙を流し始めた。

 お母さん、とか言ってる。

 そこらへんの感情はよくわからないけど、子供の頃を思い出したという事なんだろう。

 カレーの威力は凄いわね。


 ようやく、純も自分のカレーを食べられるのね。

 今日もお疲れ様でした。

 とんだハプニングがあったけど、今日の疲れが取れる様にしっかり念を込めておいたから、じっくり味わって食べてね!


 いただきまーす!


 いつもの様に純がカレーを食べようとスプーンを持ち上げた時、ベランダに面した部屋のガラスが割れる音がし、知らない男が入ってきた。

 

 何? 何なの? 泥棒? 純がいるのに?


 男が叫ぶ。

 どうやらあの女を追ってきたらしい。

 さっきドアをどんどんと叩いていた奴ね!

 やっぱりあの女は疫病神だったのね!

 危険よ純! 逃げなきゃ! 

 

 ってその当事者の女はカレーを食べ続けてる?!

 何なの? 気づいてないの? 

 何この女! 鈍感にも程があるじゃない! 

 そこまで私のカレーが魅力的って事なの? 

 我を忘れて食べ続けてるって事? 

 何よ、照れるじゃない!


 ってそんな場合じゃないわよ、純! 危ないわよ! 

 どうしてそこでカレーを勧めているの? 純に何かあったら遅いのよ!

 ってあれ? 男がカレーに反応してる? 嘘? 

 男の目がカレーに釘付けになってる? ここで私の力を使えばもしかして……。

 カレーよカレー、カレーさん、美味しくなーれ!!

 この男の心を奪ってしまえー!!


 やった! 成功したわ!

 男がカレーを食べ始めたわ! これで一応は一安心ね! 本当にカレーの力は偉大ね! 

 嫉妬に狂った男さえもカレーの前には飢えた獣。

 目の前のカレーを貪るだけの存在に堕ちるのね!


 あ、純の分のカレーがなくなっちゃった。

 冷蔵庫にあるルーをもう一度レンジで加熱しないと。


 って純が転んじゃった! 

 大丈夫? 物凄い大きい音がしちゃったけど?

 

 純?

 ……純? どうしたの?

 起きないの? 純? ねえ! 起きてよ!


 あんた達! 純が大変よ! 

 救急車に電話しなさい! 

 聞いてるの? 

 何でカレーを食べ続けてるのよ! 純が倒れたまま起きないのよ! 気づきなさいよ!


 純! 純! 純! 

 起きて! 起きてよ! 純!

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