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玉木邸その1

感想、ブックマーク、評価皆様ありがとうございます。

玉木邸編は作者の考えが前面に押し出されているので読むのがうざいかな、とも思います。

流して読んで下さると助かります。

それと、改行しないと読みにくいというご意見もいただきましたので、改善してみました。

多少読みやすくはなったと思われますが、お気づきの点がございましたらご指摘よろしくお願いいたします。


因みに、改善は「KAIZEN」として世界に知られたトヨタを代表する生産方式ですが、現場は既に泣いてます。

改善を絶え間なく進めていけば、あるレベルを超えればそれ以上そんなにポンポン改善案など出てきません。

創意工夫も同じです。

なのに改善しろ、改善しろと求められれば、勢いどうでもいい事であったり、重箱の隅をつつく状況に陥りがちです。

ええやん、たまには休んでみようや、と社長さんには訴えたい!

 取り留めの無い事を話しながら、清風は妻のお美代と共に萩の町並みを歩いた。 

 藩祖毛利輝元公が広島よりこの地に移りて230年近く。

 二本の川に挟まれた三角州に広がる小さな町でしかなかったこの萩も、数多の商店が立ち並び、威勢のいい掛け声が鳴り響く活気に満ちた町へと変わった。

 財政難に苦みながらも、先達の弛まぬ努力によってここまで繁栄したのである。

 清風はそんな感慨にふけりながら、これから益々の長州藩の繁栄を願い、自分がそれを成し遂げるのだと誓いを新たにするのだった。


 玉木文之進の邸宅は松本川を越えた先にある。

 清風の家から文之進の家までは直線距離でも2キロはあろうか。

 現代人には少々長い距離であるが、当時の人は皆健脚である。これぐらいの距離など遠いうちには入らない。

 萩の町並みを二人で眺めながら、テクテクと歩き、文之進の邸宅のある松本村に到着した。


 村に入るなり清風は異変に気づく。

 異様に子供達が多いのだ。

 道のあちこちで子供達が遊んでおり、その賑わいぶりは萩城下一番の繁栄を誇る呉服町の「御成り道」の様であった。

 いくら当時は子沢山とはいえ、常軌を逸した子供の数である。


 「やけに子供達の数が多いのう。ここらはこんなに子沢山なのか?」


 清風は誰に言うとも無く呟いた。お美代は意地悪げな顔で夫に応える。


 「ふふふ。その謎はもう直ぐ解けますよ。」

 「何? 御前は知っておるのか?」

 「ええ、存じ上げておりますよ。」

 「何? では、御前が言っておった面白い物とはこれの事か?」

 「御前様、それももう直ぐわかりますよ。」

 「ふむ。この光景だけでも興味を引かれるのじゃが、他にもあるというのじゃな。面白い。」


 松本村の人々が特別子沢山な訳ではないらしい。

 では、この子供達は他からやって来たという事だ。

 そういえば、松本村に近づくにつれて子供を目にしなくなった気がする。

 その理由がこれであるなら、その子達がここにいるという事だ。

 しかし、何故子供達がここに集まっているのだろう?

 お祭りのある様な季節ではないはずだ。

 考えても分からないので妻の言う通り、もう直ぐ分かるのだろうとそのまま歩いた。


 そして、玉木邸に到着してその理由が判明した。

 子供達がここに集合している理由、それは玉木邸だったのだ。

 玉木文之進の邸宅を囲む様にして、信じられぬ数の子供達が座り込んでいた。

 ざっと見て100人近くいるのではなかろうか。

 これには清風も吃驚仰天である。


 「何じゃこれは?! 玉木は何ぞ子供達にやらかしたのか? まるで百姓一揆に取り囲まれた悪代官の屋敷の様ではないか!」


 融通が利かないだけでその性まっすぐな文之進を悪代官に喩えた夫がおかしく、お美代はコロコロと笑う。


 「御前様、玉木様を悪代官に喩えるのは可哀想でございますよ。」

 「しかし、これは一体何だと言うのだ?」

 「多分もう直ぐおわかりになりますよ。玉木様のお宅へは、それから伺いましょう。」

 「なぬ? ふむ、ではこれが御前の言っておった面白い物というわけじゃな?」

 「その通りでございますよ。」

 「よろしい。では、待つとしようかの。」


 清風はそう言って子供達の後ろから事態を見守った。

 しかし、これだけの子供達が一箇所に集まれば大変な騒ぎに発展しそうなものである。

 それが、多少ガヤガヤしてはいるが、皆一様に口を閉じ、身じろぎもせず座っている。

 期待に目を輝かせ、これから起こる何かをじっと待っている。

 そういう風に清風には写った。

 皆そうなのかと周りを見渡し、驚くものを発見した。

 何と穢多の子供達までいるのである!

 子供とはいえ穢多は穢多である。

 一目でそれとわかる服を着て、多少後ろの方ではあったが、他の子供達と同じ空間に陣取っているのだ。

 これには清風、本日何度目になるのか忘れたが、吃驚仰天目が点になった。

 普通ならまず有り得ない光景である。

 穢多の子供が多少距離をおかれているとはいえ、他の町民と共に同じ場所にいるなど考えられない!

 子供は大人を真似るものだ。

 大人が穢多を蔑むのを見て、自分達も穢多を蔑む様になるのだ。

 

 それが、である。

 清風は目の前の光景を信じられない物でも見るかの様に見つめた。

 そして、そんな子供達の周りを大人達も取り囲んでいる事に気づく。

 大人の中には穢多の子供達を臭い物でも見るような目で見つめている者もいたが、口を開く事もなく佇んでいる。


 「これは驚きじゃ! これはまさしく驚きじゃ!」

 「御前様、それ以上は口をお開きなさらないで下さいまし。子供達に怒られてしまいますよ?」

 「なぬ?」


 妻に言われ、清風は自分を見つめる子供達の刺す様な視線に気づいたのだった。

 驚きで声の大きくなった清風を、子供達が咎めている様に感じ、清風は恐縮した。


 「あいや、すまぬ。儂が悪かった。」


 謝る清風に、次からは気をつけてよね、と言っている様な子供達。

 そんな子供達に清風は尚更恐縮する。


 「ふふ、御前様、驚く事ばかりでしょう?」

 「御前の言った通りであったな。」

 「でも、これからが本番でございますよ?」

 「なぬ?」

 「ほら、また。」

 「すまぬ。つい……」

 「ふふ。あっ、始まる様ですよ。」

 「始まる? 何がだ?」


 お美代が答える代わりに玉木邸から太鼓の音が鳴り響き、それに合わせる様に子供達が歓声を上げた。

 何だ? と清風がそちらを見やると、玉木邸の縁側に太鼓を持った子供と何やら白い大きな紙の様な物を持った者が現れた。

 よく見ると、紙らしき物を持ったその人物は、誰あろう、玉木文之進であった。


 「あれは玉木ではないか! あやつ、一体何を始めるのだ?」

 「御前様、お口を閉じてお待ち下され。」

 「おおっと、いかん。そうであったな。」


 すると家の中から何かを持った女性達が現れ、手の中の物を子供達に配り始めた。

 歓声を上げて受け取る子供達。

 なにやら棒の先に薄茶色の物がくっついている様である。

 すると子供達はその棒を口の中に頬張り、甘いねぇ美味しいねぇと漏らす。

 はて、一体何であろう?

 そう思った清風は、余ったらしいその物を、どうにか一つ子供達から譲り受ける事に成功する。

 そんな夫の行動に呆れた顔をする妻には構わない。

 これは好奇心からの事である!

 探究心のなせる業なのだから!!


 それは水飴だった。

 口に含むと優しい甘さが口一杯に広がり、実に心地よい。

 しかし、良く考えれば儂は何も払ってないぞ? と清風は不思議に思った。

 子供達も何か払った様には見えない。

 どういう事だ? と妻を見やるが、笑って何も答えない。

 訝しがる清風を余所に、周りは進んでいく。


 朗々とした声が響き、原案・吉田大次郎、物語・杉千代、絵・杉梅太郎、語り・玉木文之進による紙芝居の開幕である!


 物語は、母狐を失った子狐が泣いている場面から始まった。

 母を失った悲しみを、村人への悪戯で紛らわそうとする子狐ゴン。   

 ある日、川で鰻を捕まえていた村人の十兵を見つけ、いつもの様に悪戯を始め、鰻や魚を逃がしてしまう。

 得意満面になって山に帰ったゴン。

 数日ぶりに村へと下りてくると、十兵の母親の葬式に出くわしてしまう。

 先日、十兵が捕まえた鰻は、病に臥せる母親が元気になるようにと願って捕ったものであったのだ。

 それを知って深く後悔したゴン。

 それからというもの、これまでの様な悪戯は一切止め、十兵に償いをしようとした。

 魚屋から魚を盗み、十兵の家に投げ込むゴン。

 しかし、魚屋に犯人と決め付けられ、殴られる十兵。

 それを知ったゴンは自分の過ちを知り、その後は自分の力で償いをした。

 栗や松茸を山から取ってきては十兵の家に置いた。

 誰が置いてくれるのか不思議に思う十兵。

 隣の茂吉から、山の神様の思し召しだろうと言われ、山の神様に深く感謝する十兵。

 それを物陰から見ていたゴンは悲しくなる。

 そして翌日、十兵が家にいる事に気づかず、いつものように栗を持って家へと忍び込むゴン。

 また悪戯に来たのかと怒った十兵は、鉄砲でゴンを撃ってしまう。

 しかし、ゴンの腕の中に詰まった栗を見て、毎日栗や松茸を届けてくれた者の正体を知る。

 「おまえだったのか、ゴン。いつも栗をくれていたのは。」

 呟く十兵に、ただ頷くように目を閉じるゴン。

 十兵が落とした鉄砲からは、ただ白い煙が立ち上っていた。

 御仕舞い。

 

 感動の涙が止まらない清風。

 隣のお美代もしきりに目元を指で拭いている。

 子供達も「ゴン、可哀想!!」と皆涙している。

 文之進の語りは素晴らしかったと言ってよいだろう。

 明倫館でも教えているので声も大きい上に、声の強弱、抑揚をつけて緊迫感、悲壮感を情緒たっぷりに語り、聞く者の心に響いたのだろう。

 絵も素晴らしかった。

 その場その場を的確に表現し、まるで目の前にゴンや十兵がいる様な錯覚をおこすのだ。

 思わず物語に引き込まれ、自分もその場にいる様な気にさせるのだ。

 そしてこの物語を考えた者も素晴らしい。

 長くはない御話しであるのに、深い余韻を残して止まない。


 「まさに驚きである! 御前が言っていた意味がわかったぞ!」


 感動の余韻に浸りながら、夫に優しく笑いかける妻お美代。

 しかし、ここに来た目的はこれではないのだ。

 それに、夫が驚くのはこれからが本番だろうと思うと、更に幸せな気分になるお美代であった。


 「御前様、驚くのはまだ早いのですよ。」

 「何?! 御前の言っていた事は、これではないのか?」

 「いえ、これも勿論そうでございますよ。ただ、まだ全部ではない、という事です。」

 「信じられぬ! まだあると言うのか?」

 「それはこちらでなく、玉木様のお屋敷の近くですので、そちらに参りましょう。」

 「相分かった。ここまで来たら何でも来いじゃ!」


 ばらばらと帰りだす子もいれば、未だに泣きじゃくっている子供達もいる。

 そんな子供達を掻き分け、玉木邸へと向かう二人。


 「しかし、あの玉木がまさか講談師の真似事をするとは思いもせなんだ! しかも、巧いときている!」

 「あの玉木様が、本当に驚きでございますね。」

 「それに、絵も話も見事であったな!」

 「紙芝居というそうでございますよ。」

 「紙の芝居とな? 言いえて妙じゃのう!」

 「本当にそうでございますね。」


 清風とお美代は互いに笑顔で話し合う。

 それだけ心が動いたのであろう。

 しかし、清風がある事を思い出し、お美代に聞いた。


 「そういえば、あの水飴は何だったのだ? 儂は代金を払っておらんぞ?」

 「まさか大人の御前様が受け取るとは思わなかったのでございましょう。それに、心配なさらなくとも大丈夫でございますよ。あれは無料でございますから。」

 「なぬ? 無料じゃと? どういう事だ?」

 「それは後で玉木様ご本人にお尋ねなされば良いのでは?」

 「そうじゃな! 儂もあやつに聞きたい事がある!」

 「それでは、私がポテチと柿の種を買っておきますので、御前様はあの方達の所へお進み下さい。」


 お美代が指し示したのは、むさ苦しい男達がたむろする、玉木邸の縁側であった。

 先程まで文之進が紙芝居をしていた場所である。

 詰め掛けていた子供達と席を換える様に男達が集まっている。

 年長の子供達もちらほら見かけた。

 皆真剣な表情で、何かを考えている、そんな様子であった。


 すると、手に大荷物を持った文之進と子供達が現れ、手早く荷物を広げだす。

 集まっていた男達はそれを手伝い、あっという間に板を挟んで向い合う二人組がいくつも出来上がった。

 縁側に腰をかけるもの、長椅子に座るもの、地面に直接座り込むもの、それぞれであった。

 将棋でもしているのか? 

 清風はそう思い、手近な二人組に近づいて見たが、男達がやってるのは将棋ではなかった。

 将棋の様な盤ではあったが、四角いマスの将棋盤とは異なり、小さな六角形がいくつも繋がった盤であった。

 その横には箱に入った小さな駒らしき物が見える。

 何だこれは?

 そう思っていると文之進が声を出した。


 「おのおの方、本日の資金も1万貫である。場所は平原、坂もない。それぞれ準備は宜しいか?」

 「応!」

 「それでは、始め!」


 文之進の開始の宣言に、男達は一斉に盤上の駒を動かし始めた。

 何なのだこれは?

 意味がわからない清風は、仕方が無いので文之進に問いただす事に決めたのだった。

ご存知、新美南吉さんの代表作「ごん狐」です。

涙腺が崩壊してやばいです。

年をとると涙脆くなっていかんですね。

っていうか、こういう事をしていいのかわかりませんが・・・

著作権は切れているので、問題はないのですよね。

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