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幕末香霊伝 吉田松陰の日本維新  作者: ロロサエ
幕末の始まり編
169/239

お約束のペニシリン

 『ここが微生物研究所でございます。』


 一行は墨田川のほとり、周りを醤油蔵に囲まれた地にいた。

 年中湿気の多いその土地は、古来より醤油や味噌といった発酵業が盛んである。

 その中の一画に研究所はあった。

 見た目は周りの蔵と同じで、瓦を葺いた丈夫そうな建物である。

 

 その一つの前に一人の男が立っていた。

 これも随分と若く見える。

 一行が来るやいなや、慌てた様に頭を下げた。


 『こちらが責任者の熊吉さんです。』

 「ど、どうも宜しくお願いごぜぇます!」


 緊張しているのか頬を上気させ、その動きは固かった。


 「では熊吉さん、案内をお願いします。言葉は蔵六さんが訳してくれますから、いつも通りで構いませんよ。」

 「は、はい!」


 そう答え、蝋燭を灯し、蔵の中へと入っていく。

 一行はそれに従い、中へと足を踏み入れた。 


 『暗いし、やけにジメジメとした建物だな。』

 『微生物の増殖には湿気と温度が必要なのですよ。』


 早速ぼやいたプチャーチンに松陰が説明する。

 ややあって熊吉が口を開く。 


 「ここはアオカビを培養している蔵でやす。煮沸消毒した木桶に寒天培地を入れ、アオカビを接種し、さらしで蓋をしておりやす。」


 目の前の棚には布で蓋をされた木桶が整然と、びっしりと置かれていた。

 桶には札が掛けられている。  


 「名札には接種した日付と菌の番号などが書かれていやす。」


 その中の一つを取り出し、注意深く蓋を外す。

 一行は興味津々な様子で木桶の中を覗いた。

 

 『うっ?!』

 『これは強烈だな!』


 西洋人の二人は中を見た途端に叫んだ。

 そこにはびっしりと、青っぽい色をしたカビが広がっている。

 叫び声に胞子が舞い、木桶の周りにぼうっと立ち込めた。

 二人は慌てて距離を取る。

 見ていて気持ちの良いモノでは無いだろう。

 そんな見物人に説明を加える。


 「この様に増えた所で、別に培養しておいた雑菌を中に接種し、アオカビの持つ殺菌力を調べやす。それが弱いと雑菌が死にやしません。弱い株は廃棄し、別のアオカビを試し、段々と殺菌力の強い株を選抜していきやした。今の所、この棚にある物が強い抗菌力を持っておりやす。」


 そう言って一つの棚の前で止まった。

 

 「これを長英先生の研究所へとお運びし、ペニシリンの分離をお願いしておりやす。」

 『長英君だって?!』

 『知り合いなのか? それは兎も角、ここは一体何なのだ?』


 シーボルトは驚いた。

 高野長英は長崎鳴滝塾で、シーボルト自ら医学を教えた生徒である。

 最近も何かにつけシーボルトの元へと顔を出し、西洋医学について質問したりしていた。

 しかし、松陰に関わって何かを研究しているとは聞いていない。

 どういう事だと訝しみ、松陰を見る。

 松陰は澄ました顔だ。

 そしてプチャーチンの疑問は尤もであったが、取り合う事無く告げる。


 『では、次へと参りましょうか。』


 アオカビの培養所見学はこれにて終了である。

 一行は場所を移した。




 『ここは幕府公認の遊郭である、吉原です。』


 一団は墨田川を遡り、吉原へと来ていた。

 外国人を連れた一行に門番は飛び上がらんばかりに驚いたが、引率が松陰と知るや諦めた顔に変わり、何も言わずに通してくれた。

 吉原の客もプチャーチンらの出現に驚き、あっという間に彼らの周りに人垣が出来た。

 遊女らも、珍しい客の出現に大層喜んだ様で、いつもは見られる側が、今日ばかりは立ち上がって窓へとにじり寄り、一心に外を眺める有様である。

 そんな吉原の様子に、日本滞在歴の長いシーボルトは兎も角も、初めて訪れたプチャーチンは好奇心を熱心に振りまいて、目にする物全てにあれやこれやと質問する。

 やがてその街の持つ性格を正確に読み取り、松陰に尋ねた。


 『ここはつまり売春街なのだな? 部下を連れて来ても良いのかな?』


 艦隊を指揮する者としては、部下の性欲コントロールは重要な問題である。

 欲求不満が溜まれば反抗的にもなるし、派遣先で現地住民とトラブルを起こしやすくもなる。

 下手をすれば強姦といった犯罪に走る者が出現し、外交使節として派遣したロシア政府の顔に泥を塗る事態にもなりかねない。

 そうであるので、現地政府公認の売春街の存在はありがたかった。

 しかし、


 『今はまだ時期尚早ですね。我が国の民は閣下ら西洋の人に慣れてはおりませんので、いざとなれば遊女が怖がるでしょう。それに閣下らも吉原の仕来りを御存じありませんよね? ここでは遊女が客を断れるのですよ? 海外の方に、そんな事は理解出来ますか? 今は双方にとってトラブルしか起きないと思います。』

 『そ、そうであるか……』


 プチャーチンは非常に残念そうに呟いた。


 『では、どうしてここに来たのかな?』

 『梅毒への有効な治療方法を見てもらおうと思いまして。』

 『何?! 梅毒への有効な治療法だと?!』


 二人同時に声を上げる。

 一人は医者として、もう一人は部下を指揮する軍人として、梅毒という厄介な病気と対峙してきたので、松陰の言葉に過敏に反応したのだろう。

 梅毒は性感染症である。

 医者としてのシーボルトは、梅毒に対して水銀を用いた治療法を行ったが、水銀中毒を起こしてしまう危険性があった。 

 軍人のプチャーチンにとっては、梅毒は己の隊内に蔓延しかねない病気である。

 それぞれがそれぞれ事情は違ったが、有効な治療法と聞いて心穏やかでいられる筈が無い。

 詰め寄らんばかりの両名に対し、裏通りから更に奥、寂れた一画に立つ小屋へと案内する。


 『見てもらうのが一番でしょうから、こちらにどうぞ。』


 そう言って中へと入っていった。

 二人もそれに続く。


 『ご存知かも知れませんが、肌が触れたくらいでは感染しません。ですが注意するに越した事はありませんので、こちらでこれを羽織り、口には感染防止の覆いをして下さい。』


 松陰は入口で白い割烹着に似た服を渡し、彼らが着るのを手伝った。

 口には手拭をしてもらう。


 『では、研究している長英先生に説明して頂きましょう。』


 蘭学者である医師、高野長英が二人の前に現れた。

 白衣を着た人物は他にもおり、シーボルトに挨拶する。


 『シーボルト先生、ようこそいらっしゃいました。二宮敬作です。』 

 『敬作君も?』

 『今まで黙っていて申し訳ありませんでした!』


 二宮敬作もまた、鳴滝塾で学んだ人物である。


 『宜しい。その事は後でゆっくりと話を聞くとしよう。それよりも今は梅毒の治療方法だ!』

 『そうですね。』


 長英が説明を始めた。


 『アオカビは先程見てこられたと思います。アオカビは己の増殖を図り、他の菌の繁殖を防ぐ為、ある特殊な物質を分泌します。』

 『それは見てきたが……まさか?!』

 『そのまさかでございます。他の菌の増殖を防ぐ物質こそ、梅毒を治療する薬となるのです!』

 『何と!』


 シーボルトの顔が驚愕に染まる。


 『論より証拠でしょう。患者の様子を御覧下さい。』


 長英は別室に二人を通した。

 いくつもの布団が敷かれ、遊女とおぼしき女性達が寝ている。

 話が為されていたのか、見知らぬ者らの入室にも声を上げない。

 長英らが女性達に近寄り、容態を尋ねる。

 比較的元気な返事が返ってきた。

 断りを入れ、肌を見せてもらう。 


 『御覧下さい。彼女らは皆、肌に腫瘍が出来ていた者達です。今ではすっかりと良くなってきております。』

 『何だと?! 信じられん!』

 『天に誓って申し上げますが、嘘偽りはございません!』

 『い、いや、君達が嘘をついていると言いたい訳では無いのだ! 余りに劇的なモノだから……』


 シーボルトは慌てて言った。

 まさか弟子達が嘘をついていると言える筈も無い。


 梅毒の症状は第1期から始まり2期、潜伏期を経て3期、4期と進む。

 潜伏期には感染力を持たないなど、特異な形態を持つ感染症であろうか。

 長英が説明した腫瘍は第3期の物であり、シーボルトも良く知る症状であった。

 体の各部には梅毒への罹患を示す明確な証拠があったが、患者達の肌には目立ったモノが見られず、彼が驚くのも無理はなかった。


 『これが、あのカビから得られた物質の効果なのか!』


 感嘆して口にする。


 『どんなモノなのだ? 見せてくれ!』


 患者達の前を忘れ、興奮して尋ねた。

 長英達も師の想いが理解出来るのか、嫌な顔をせずに応える。


 『今から治療を行いますから、御覧下さい。』

 『良し!』

 「薬を持って来て下さい。」


 隣の部屋に声を掛けた。

 「わかりました。」と返事が返る。


 「お持ち致しました。」


 と盆を持って来たのは女性であった。

 その人物を目にし、シーボルトから驚きの声が上がる。


 『君はまさか、イネ?』

 『お父様、黙っていて申し訳ありません。長英先生の下で医学を学んでおりましたので、こちらにも出入りさせて頂いておりました。』

 『いや、医学を学ぶ様に言ったのは私でもあるし、それは良いのだが……』

 『話は後で良いのではないですか? 今は治療を進めましょう。』

 『そ、そうだな。』


 イネの言葉に父親が頷き、長英が準備を始めた。


 『この物質はアオカビの学名から、ペニシリンと呼称しております。』

 『ペニシリン……』

 『このペニシリンは服用すると効果がありません。ですので、注射器を用いて体内に投薬します。』

 『成る程!』


 長英が注射器を用意する。

 西洋で開発されたばかりの注射器であるが、日本の職人達の苦労によって再現に成功していた。


 『ペニシリンを溶かした溶液を規定量皮下注射します。この時、ペニシリンの量が大変重要です。多すぎては人体に悪影響がありますし、少なすぎたら効果がありません。』

 『うむ。』

 

 そう言って長英は患者達にペニシリンを投与していった。

 因みに針は交換し、消毒薬に入れて滅菌し、再利用している。

 



 『これは人類史に残る快挙だ!』

 『フィリップの言う通り!』

 

 別室に移り、興奮しきりのシーボルトらが叫んだ。

 抗生物質の発見、利用は、感染症に苦しむ多くの人の命を救う発明であろう。

 そんな画期的な治療方法が、国を閉ざしている、野蛮で未開な東洋の島国で見つかった事に驚き、自分達がその場に居合わせてた幸運に感謝した。


 『まさかあの梅毒が、どこにでもある、あんなカビから作られる物質で治療出来るとは思いもしなかった!』

 『驚きだな!』

 『この発見は、今すぐ世界に向けて発表すべきだ!』

 『そうだな! それは名案だ!』

 『世界中の医者が、教えを請いに殺到する事間違い無しだぞ!』

 『それは確かに!』

 『我が国は鎖国しておりますが?』


 興奮して盛り上がる二人に、松陰が冷静に言った。


 『そ、それは……』

 『た、確かに……』


 途端にしょんぼりする。


 『しかし、事は人命に関わる事だぞ?』

 『そうだ! 病気に苦しむ者を救う為なのだから、それくらいは許すべきだ! それに、日本は開国するのだろう? それが多少早くなるだけではないか!』


 命を助ける為ならば、多少の融通は効かせるべきではないのか。

 二人は食い下がった。


 『それとこれとは話が別でございますね。我が国は我が国の法を曲げるつもりはございません。それでも尚教えてもらいたければ、密入国を承知で訪ねてくれば宜しいでしょう。多少の牢獄体験はしてもらうかもしれませんが、その様な目的の方であれば、幕府も恩情を掛けて下さるのではないですか?』

 『そ、そんな!』

 『人の情という物が無いのか!』


 松陰の言葉に唖然とする。


 『未開な蛮族が支配するだけの土地は、武力で自分達の物にして構わないとしてきた方々は言う事が違いますね! 今も搾取を続け、教育を施す事はおろか、医者を育てる事もしないのに、人の情を口にするとは片腹痛い!』

 『うっ!』

 『それは……』


 痛い所を突かれ、それ以上は言えなかった。


 『我が国には我が国のやり方という物がございます。止む無く開国は致しますし、その際には条約を結ぶでしょうが、それまでは我が国が定めた法に従って頂きます。

自分達の都合で勝手にやってきて、捕らえられて文句を言うなどお門違いでございましょう。』

 『むむ……』

 『それは確かに……』

 『分かって頂けてありがとうございます。ですが、病に苦しむ者を救いたいという心は、どこの国の医者も同じでございましょう。それはシーボルト先生は勿論の事、長英先生、敬作先生にも当てはまるのではありませんか?』


 松陰の言葉にシーボルトは弟子達を見た。

 自分を真っ直ぐに見つめる弟子達の顔は、暖かな笑みに満ちていた。

 どうか西洋の知識を教えて欲しいと長崎までやって来て、必死に頭を下げてきた数十年前の姿が脳裏に蘇る。

 互いに年も経験も重ね、見た目も立場も変わってはいたが、その眼差しは変わっていない様に思われた。

 苦しむ者を救いたいという、医学を志す者にとっての思い。

 その思いを胸に、知らない者が知る者に対して出来る事があるとすれば、それは一つであろう。


 『どうか私に、梅毒を治療する方法を教えて欲しい!』


 自然に、シーボルトは弟子達に向かって頭を下げていた。

 弟子達は慌てて師に駆け寄り、あたふたして口にする。


 『先生、どうか顔を上げて下さい!』

 『先生がそんな事をなさらなくても、我々はお教えするつもりでしたのに!』

 『君達、ありがとう!』


 弟子達にそう言われ、頭を上げたシーボルトの顔は晴れやかであった。

 

 『もしやこれは、君が思い描いた物なのかね?』


 師と弟子達のふれあいの様子をニコニコとした表情で見つめる松陰に、何か思う所でもあるのか、思案気な顔のプチャーチンが言った。


 『どういう事でございましょう?』

 『君のその顔は、目論見が叶ったと満足げに見えるのでね。』

 『目論見ですか?』

 『左様。弟子がその師に、自分達が新たに発見した知識を教えるなど、この上も無い誉れではないか。現に彼らの表情は、とても自信に溢れている様に見える。』


 プチャーチンの指摘に、松陰は長英らを眺めた。

 早くもペニシリンの分離法などを、熱心にシーボルトに教えている様である。

 成る程、そう言われれば確かに溌剌とした笑みを湛えており、自信に満ちていると言えばそうなのかもしれない。


 『今までは進んだ西洋の知識を学ぶだけでしたが、自分達でも新しい何かを発見し、彼らに教える事が出来るのだと気づいたから、でしょうか?』

 『何だ? 君が黒幕ではないのか?』

 『黒幕だなんて! 私は何もしていませんよ!』

 『成る程……』


 まさか漫画で得た知識を披露しただけとは言えない。

 松陰は断片的な情報を開示しただけで、全ては長英らの努力と、実験に協力してくれた遊女らの献身の賜物である。

 ペニシリンの投与量は、人体実験とも言える臨床試験で確認せざるを得ず、その過程では何人もの犠牲を出してしまった。

 それでも怯まず進んだからこそ勝ち得た、彼らと彼女らの掴んだ栄光である。

 知識を口にしただけの松陰に、何を誇る物があると言うのか。


 『何はともあれ、一件落着でございますね!』

 『いや、これからこそが大変だと思うのだが……』


 呑気に言い放つ松陰に、プチャーチンが呆れた顔をした。

 世界を驚かす発見が為されたのであるから、プチャーチンの懸念こそ正しいであろう。


 その帰り道。

 人垣が松陰を待っていた。

 何だと思い、ざわつく人込みを掻き分け進むと、仁王立ちの女性が一人、通りに立ち道を塞いでいる。

 松陰を見つけるやギロリと睨みつけ、端正な顔から言葉を発した。


 「松先生?」

 「スズさん?!」 


 高良塚で役を演ずるスズであった。

 大奥で家定の正室任子あつこに仕えて行儀を学び、奥から出てからは高良塚にスカウトされて演者をこなしている。

 

 「さん付けなんて相変わらず他人行儀なんだから……。それは兎も角、アメリカのペリーさんの時も、今回のロシアのプチャーチンさんの時も、どうして私は歓迎会に呼ばれなかったのかしら?」

 「ど、どうしてって言われても……」


 元々可愛いスズであったが、成長した今はその可愛さに磨きがかかり、高良塚でも大変人気のある役者となっていた。

 そんなスズが現れたのであるから通りの女達は大騒ぎとなり、スズを知らない男達も突然現れた美女に思わず見惚れてしまっている。

 吉乃と所帯を持ったにも関わらず、変わらず慕い続けてくれるスズに、嬉しいながらも腰が引けてしまっている松陰は答えに窮した。

 

 「美味しい物を真っ先に食べさせてくれるっていう私との約束は、どうなったのかしら?」

 「そうは言っても、高良塚の役者のスズさんを呼ぶなんて、そんな簡単に出来る訳が無いだろう?」


 子供であった昔の様にはいかない。


 「過ぎた事はもういいわ。御公儀の事ですものね。でも、先生は来年にはアメリカ、ヨーロッパ、そしてカレーの国インドに行かれるのでしょう? 私は誘われていないけど、一体どうなっているのかしら?」

 「そ、それは!」

 「女だから無理、諦めろなんて、まさか松先生が口にしないわよね?」

 「そ、そうは言わないけど、スズさんには高良塚があるだろう?」

 「あぁ、そういう事で諦めろって言うのね。ふーん。」


 スズは納得した風に頷く。


 「仕方ないじゃないか! 人は大人になれば色々な柵も発生する! そんな簡単に昔の様な我儘は通らないんだよ!」

 「それは分かってるけど……」

 「私だって意志のある者は全て連れて行きたい! でも、何事にも限度という物がある! それに海の旅は長いし船は狭い。妙齢の女性を連れて行く訳にはいかないんだ!」

 「それは……」


 狭い船の中、多数の男がひしめく所に若い女を押し込めば、何が起こるのかは容易に想像がつく。

 幼い頃から時間を共にした大事なスズだからこそ、絶対にその様な目に遭わせる訳にはいかない。


 「カレーは必ず持ち帰るから、日本で大人しく待っていてくれ!」


 そう言って松陰は足早に立ち去る。

 スズは未練がましく、黙ってその後ろ姿を見つめた。


 「美味しい物を一人で真っ先に食べようなんて、あたしは許さないんだから!」


 通りの人込みに紛れゆく松陰の背中に、昔の様な言葉遣いで、スズの独り言が静かに漏れた。

 そして西洋への使節団員を決める、幕府主催の選抜会が開かれる。

転生モノのお約束、ペニシリンを入れさせて頂きました。

でも、『仁』でもそうですが、この時代にペニシリンを発見し、感染症の治療に使う事を人類が知ったら、その後の世界の歴史はどう変わるのでしょう?

感染症で死んだ方はそれこそ無数で、助かる命は限りないでしょうが、今とは違った歴史になりそうです。

そんな影響まで考慮するのは無理なので、ご都合主義の歴史の修正力を使わせて頂きます。


ペニシリンの分離法は『仁』のパクリで、長英先生らに頑張ってもらいました。

幕府の全面的な協力もありますから妨害も無く、注射器も速やかに開発出来ております。

当時は情報の伝達は遅いと思いきや、意外と早いんですよね。

この梅毒の治療法も、数年後には世界中に広まっている気がします。

アオカビの培養などの実践は別にして。


スズは描写の通り、大奥から高良塚に移りました。

男子禁制の高良塚ですが、役者は普通に市井に暮らしております。

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