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幕末香霊伝 吉田松陰の日本維新  作者: ロロサエ
幕末の始まり編
163/239

ペリーに明かす、日本の力

『その力とやらは一体どんな物だ?』


 江戸の町から遠く離れ、山間部のとある敷地でペリーが尋ねた。

 その一帯は柵で囲まれ、出入り口には警備の付いた門がある。

 門をくぐり、暫く進んだ所に、これまた厳重な警備が為された建物があった。 

 松陰が中に入り、何やら持ってくる。


 『まずはこれですね。』

 『銃?』

 『後込め式の国友ボルト・アクション・ライフルです。』

 『何?! プロシアのドライゼ銃と同じ?!』 


 ペリーは驚いた。

 アメリカ軍が採用しているのは先込め式のミニエー銃である。 

 

 『まあ、論より証拠ですね。撃ってみましょう。』


 そう言って松陰は準備を始めた。

 場所を射撃場に移す。

 前方遥か遠くに白い的の様な物が見え、射撃する位置には囲いがあった。

 耳に湿った綿を詰め、耳栓代わりとする。

 ペリーにも耳栓をしてもらった。


 『あんな遠くを狙うのか?』

 『まあ、見ていて下さい。』


 訝しむペリーを前にボルトを引いて弾を込め、元に戻して射撃の準備を取る。

 一番姿勢が安定する伏せ撃ちであった。

 係の者の合図を待つ。

 射撃許可の旗が上げられた。

 構えて安全装置を外し、照門を覗いて的と照星とを合わせる。

 静かに深呼吸し、息を吐いた所で息を止め、ゆっくりと引き金を引いた。

 乾いた破裂音と共に銃口から白煙が上がる。

 

 『当たったか?』

 『まだです!』


 近寄ろうとするペリーを制し、射撃姿勢のまま銃だけを降ろし、ボルトを引いて空の薬莢を排出、素早く次弾を装填し、再び構えた。


 『は、早い?!』


 驚くペリーをそのままに、2発目を撃つ。

 そして同じ動作を繰り返し、合計5発を発射した。


 『あり得ん速さだ……』


 愕然としているペリーに、立ち上がった松陰が望遠鏡を渡す。

 

 『結果は朱色でマーキングされますので、ご確認下さい。』


 心ここにあらずな状態であったが、言われるがままに望遠鏡を覗き込む。

 ピントを合わせて的を探した。

 そして、

 

 『一つしか無いぞ?』

 『何ですと?!』


 やや呆然としたペリーの声に、松陰は慌てて望遠鏡を奪い、覗いた。

 しかし、 


 『一つだけ、しかも端っこですね……』

 『だろう?』


 すっかり意気消沈した様子の松陰が呟いた。

 射撃の練習は積んでいたので自信はあったのだが、本番で緊張してしまったのかもしれない。

 的を外れた紙の端っこに、朱色の丸が一つだけ描かれていた。


 『私に貸してみろ!』


 ペリーが松陰から銃を奪う。

 しょげた松陰に抵抗する力は無い。


 『ほう? 中々良く出来ているな。手にもしっくりとくる。』

 

 まずは手に持って外観を眺めてみる。 

 そして稼働箇所を動かし、動作の確認をした。

 

 『滑らかな動きだ……。加工精度が素晴らしい証拠だな。』


 そして弾を手に取る。


 『何?! 金属の薬莢だと?! 我々の軍でも紙なのに!』


 随分と光沢のある弾丸だなと思っていたが、まさか金属製とは思わなかった。

 漆を使って固まらせた紙製とばかり思っていた。


 『紙ですと、どうしても湿気に弱いので金属製にしました。高価になるのでちょっと問題なんですけどね。』

 『そんな事は大した問題では無い!』

 『アメリカならそうでしょうが……』


 松陰の言葉を即座に打ち消す。

 湿気の克服が出来るのなら、少々費用が上がるくらいは許容範囲であろう。

 

 『どうやって撃つのだ?』


 興奮気味になったペリーが勢い込んで尋ねる。


 『えーと、まずはそのレバーを押し上げ、後方に引き……』


 手取り足取り教えた。

 

 射撃許可が下り、ペリーは銃を構えた。

 1発、そして次弾を装填し、2発、3発と撃っていく。


 『何という速さなのだ! それに薬莢も自動的に排出されるとは!』


 そう叫びながら、瞬く間に5発を撃ち終わる。


 『これは素晴らしい銃であるな!』


 大層感心した様子であった。


 『結果はどうだ?』

 『きっと全部外れてますよ……』

 『何か言ったか?』

 『いえ、何も。』


 そして結果が表示された。


 『見ろ! 全て的に当たっているぞ!』

 『何ですと?!』


 そんな馬鹿な筈はと思い、望遠鏡を覗く。

 途端にワナワナと肩を震わせ、絞り出す様に言う。


 『嘘だ……。初めて撃った筈なのに……』

 『馬鹿め! 年季が違うのだ!』


 胸を張るペリーの結果は、真ん中は外れていたものの、5発全てが的に入っていた。

 

 『何故だ! あれだけ練習したのに!』


 松陰は思わず叫んだ。

 哀れみを込めてペリーが告げる。


 『下手な者は、いくら練習しても下手なままだぞ? 諦めた方が身の為だ。』

 『何を言うのですか! はっ?! ま、まさか?!』

 

 何かに気づいたらしい。


 『どうした?』

 『私の結果が一つだけだったのは、5発全部が同じ個所に当たったからでは?』

 『そんなバカな事がある訳なかろう!』


 俗に言うピンホールショットであるが、可能性はゼロでは無い、かもしれない。


 『現実を見ろ! 仮に同じ所に当たっていたとしても、狙った的からは外れているのだから同じ事だ!』

 『ぐっ! 尤もな事を言ってくれますね……』


 ペリーの言葉にそれ以上の反論は出来なかった。




 『しかし、この銃が素晴らしい事は認めるし、我が軍にも欲しい所だが、銃だけでは軍艦には勝てんぞ? 分かっているのか?』


 ひとしきり国友銃を堪能し、初めの建物に戻ったペリーが切り出した。

 椅子に座って冷ました茶をすすり、休憩している。

 この銃が日本の隠していた力であるのは理解したが、銃だけでは大砲の前には蟷螂の斧だ。

 

 『それはその通りでございますね。』


 涼しい顔のまま答える。

 その様子に、隠しているのは銃だけではない事を予感した。


 『まだ何かあるのか?』

 『それも御推察の通りでございますよ。』


 休憩を終え、今度は別の場所に移る。

 そこは何も無い荒れ地であった。

 ゴツゴツした岩の多い、広いだけの広場である。

 唯一、土手らしき物が築かれていた。


 『ここでは何を見せてくれるのだ?』

 『ダイナマイトの爆破実験です。』

 『ダイナマイト?』

 『ニトログリセリンを珪藻土に染み込ませ、固形化した物です。』

 『ニトロ、何だって?』

 『論より証拠ですね。』


 そう言い終えると松陰は合図を出した。

 今度は自分では取り扱わず、人にやらせるらしい。


 『ダイナマイトは非常に危険なので、慣れた者に任せます。』

 『うむ。』 


 離れて見ていると、何やら地面に穴を掘り、何かを埋めている様であった。


 『ダイナマイトを地中に設置し、爆破させます。これがダイナマイトの模型です。』

 『大きくは無いな……』


 それは大き目の蝋燭くらいで、一方の先からは糸らしき物が出ていたが、それが尚更蝋燭に見える。


 『蝋燭な訳は無いよな?』

 『冗談がお上手ですね。』

 

 準備が整い、皆が土手の裏に避難する。

 松陰は導火線に火をつけた。

 白煙を上げて火が走っていく。

 暫くし、強烈な爆発音と併せ、空気が振動した。


 『何だこれは?!』


 爆破の後を見に行ったペリーが驚きの声を上げる。

 そこには、人が隠れられそうな程の穴がぽっかりと開いていた。


 『たったこれだけの大きさで、これほどの威力なのか?!』


 模型を手に呆然とする。


 『では、次に行きますよ?』

 『まだあるのか?!』


 立ち尽くすペリーに告げた。




 『これはロケットです。黒色火薬の力で推進します。』

 『おお! かなり飛んでいくな!』


 発射したロケットは、あっという間に空の彼方へと消えて行った。

 花火自体はアメリカも盛んであり、松陰が飛ばした物と同じ様な品はある。

 そうではあるが、一回り大きいので飛距離もそれなりであった。

  

 『このロケットにダイナマイトを組合わせるとどうなるでしょう?』

 『何?』

 

 それは恐ろしい想像である。


 『内部に詰める火薬の量によって、飛距離は簡単に伸ばせます。さっきお見せしたロケットで、普通の大砲くらいは飛ぶでしょうか。そして、目標にぶつかった衝撃で、内蔵されたダイナマイトが爆発します。』

 『まるで炸裂弾だな……』

 『そうですね。曲射砲などで発射する炸裂弾と似ていますが、こちらに大砲は必要ありません。』

 『成る程……』


 ロケットは筒に入れて発射したが、それは大きくも重くも無かった。

 持ち運びは容易である。


 『大砲と違い、どこに飛んで行くのか若干不安な面はあります。ですが、それを補う長所も持っています。飛距離や携帯性などですね。また、目立たずに目標を攻撃する際は、大砲では不可能でもロケットなら可能です。』

 『大砲を持ち運ぶのは簡単ではないし、丸見えだからな。』

 『はい。ですから小さな漁船に隠し、油断した敵の軍艦に近づき、至近距離から攻撃する事も可能です。その場合、まず外す事はありません。』

 『うむ。』


 小さなダイナマイトでも驚く程の威力であった。

 それがロケットにくっ付いて飛んで来るなど悪夢である。

 軍艦といえど、まともに喰らってはただでは済まないだろう。

 また、長崎港でも横浜港でも、ペリーらの艦隊に興味を持った漁民らは、自分達の小さな舟で近寄り、コミュニケーションを図ってきていた。

 そんな中に、ロケットで攻撃する意図を持った存在が入っていたら堪らない。

 警戒して近寄らせないにしても、ロケットの飛距離では無意味だからだ。 


 『ん?』


 ペリーはふと気づいた。

 ロケットとダイナマイトが実用化され、その運用法まで考察されているとすれば、どうして自分達は攻撃されなかったのか、と。

 もしも漁船に紛れ、至近距離からロケットを放たれていれば、自分は今ここに立っている事は出来なかっただろう。 

 爆発炎上し、海の藻屑へと消えるサスケハナ号の姿がアリアリと思い浮かび、ペリーの背筋に冷や汗が流れた。 


 『何故、我々を攻撃しなかった?』


 やっとの思いで口にした。

 持っている力を過信し、日本を侮り、開国するという宣言を半ば無視し、強引にやって来たのは自分達だ。

 しかし日本人は、撃退など造作も無かった筈であるにも拘らず、大人しく受け入れてくれたばかりか歓迎までしてくれた。

 開国に際しては、対等ならという条件を付けられたが、日本が持つ力を知った今なら分かる。

 将軍のあの強気な発言は、力に裏打ちされた自信であったのだ。

 それも当然な程に、日本が持つ力は強力であった。  


 『奄美沖で閣下らを見つけられて、本当に安心しましたよ。』


 ペリーの質問には直接答えず、そう口にした。

 続ける。


 『もしも閣下が直接江戸を目指していたら、大変な事になっていましたよ。』

 『それはまさか……』

 『どこの国にも強硬派はおりますでしょう? 我が国の場合、江戸城で昼食を用意して下さった斉昭様なのですが、あの方でしたら、このロケット砲で閣下らを攻撃すべしと主張されていたでしょうね。』

 『それは真か?!』


 ペリーは驚いた。

 誰よりも打ち解けて言葉を交わした徳川斉昭が、まさかその様な人物とは思えなかった。

 アメリカの肉料理について質問され、艦隊付きの料理人に会わせて欲しいとまでお願いされていたからだ。

 将軍の言葉で険悪な雰囲気となってしまった為、それは果たされていない。


 『それは閣下が我が国の仕来りである、異国の船はまず長崎へ、を守って下さったからですよ。そうでなく、直に江戸に出向いていた場合、まず間違いなく閣下らは攻撃されていたでしょうね。』

 『そうであったのか……』


 ゴクリと息を呑み込んだ。


 『しかし、どうして我々を探す事をした? 日本の力を国際社会に誇示する、良い機会であったろう? 二度とおかしな真似をする輩は出なくなるぞ?』


 助かった身としては、そこが気になった。

 持っている力は示さねば、軽んじられるのが弱肉強食の国際社会である。

 厄介事を未然に防ぐには、〆る所ではきちんと〆ないといけない。

 日本を軽んじた自分達が口にして良いセリフでは無いが……。

 そんな質問に、松陰はペリーの目を見据え、答える。


 『百年後の日米同盟の為でございます。』

 『百年後の同盟?』

 『そうでございます。』

 『うぅむ……』


 思いもかけない言葉に、ペリーは言葉を失った。

ロケットにダイナマイトを乗っけて安全性が保たれるのかは知りません。


民衆に紛れての攻撃は、現代ですと国際法違反ですか。

南京事件でいう便衣兵でしょうし。

当時でも西洋国家同士なら問題となりそうですが、開国もしていない日本ならば・・・


次話でペリーは帰国します。

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