第8話 使者
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「ショウ、何かいます!」
「了解です」
やっと来たか。
よし、じゃあ準備しよう。
ターンしてセリーナの横に立つ。確かに、草むらから規則正しい音が聞こえてくる。足音かな?
「しっかり見ててくださいね」
「当たり前です」
相変わらず偉そうな態度だ。いい加減デレてほしい。
ここでカッコよく敵を消したら惚れてくれるかな?惚れられたところでどうこうするつもりも無いが。
「……大型じゃないかも?」
えっ?セリーナの呟きがすごい気になる。
「大型とは?」
「あの狼のことです。でも、目の前の魔物は違うみたいです」
「何故分かるんですか?」
「あなたより耳が良いですから」
得意げに鼻を膨らませてドヤ顔を作るセリーナ、カワイイです。そしてエルフの聴力すごい。
そんなことを言っている間に、魔物はかなり近づいている。木々が押しのけられる音が聞こえてくるくらいだ。
「あと少し……」
見えた。……人型?魔物だよな?
イメージに魔力を付与。音の正体に向けて左手をかざす。いつでも行使できる。
「うおっ、長耳族⁉︎」
「いきますよ!喰ら———えっ?」
は?
鬱蒼とした森の茂みから姿を現したのは、鎧に身を包んだおっさんだった。
「待て待て待て待て!俺は怪しい奴じゃない!」
「怪しいですよ!」
おっさんの不審者テンプレにセリーナがきっちり突っ込む。こういう流れ、好きです。
が、剣を持って金属製の鎧を着込んだおっさんはどう見ても怪しい。
そしてこの人イケメンだな。ラテン系って感じだ。偏見を前面に押し出すと、マテ茶飲んでそう。
「お前達こそなんでこんな所にいるんだ!女の子二人じゃ危険だぞ!」
「俺は男だ!」
コイツ、ヤッパリ消シテヤロウ。
当然ノ報イダ。
「セリーナ、よく見ててくださいね。今からあいつを消しますから」
「はあ⁉︎」
「ショウ、流石にそれはダメです!」
知るか!こいつは俺の心の傷を抉ったんだ!クラスの男子の前で女子に間違われる辛さ、お前に分かるか?いいや、分からない!分かるはずがない!
「いや、あいつは消します」
「もういいです」
後頭部に衝撃を受けた後、俺の意識は闇に吸い込まれた。
「将なんか死ね!」
「三隈こそ死んじまえ!」
小学校での三隈との喧嘩は日常茶飯事だ。小6にもなって幼稚な罵り合いだとは思う。でも僕はこんなやり取りにも何か落ち着きを覚える。
「こら!」
「げっ」
校長に見つかった。
この先生は女子ばかり贔屓するから嫌いだ。
「君、そんな言葉使って、恥ずかしくないの?」
「いやでも」
「でもじゃありません!」
これだからこの小学校は嫌いだ。初めからこちらの話を聞く気がない。
まあ、今回は僕らが悪い。でも僕はああはなりたくない。
三隈が怒られるのは喜ばしい事だが。
校長がこちらに向き直る。
「それに、君も」
「はい」
え?急に優しい声だ。気持ち悪い。
「女の子がそんな汚い言葉を使ったら駄目でしょう?」
……またこれか。
近所の人も、先生も、みんなそう言う。何故みんな間違えるの?
僕は、俺は———
「俺は女じゃない!!!!!!!」
「わかりましたから黙って下さい」
ん?ここは森?小学校の廊下じゃなくて?
……夢か。最悪な夢だ。
てか、おっさんにおんぶされてる。硬い鎧の上からだと地味に痛いな。
隣を見ると、セリーナが並んで歩いている。特に拘束されたりとかはないようだ。じゃあおっさんは無害なのかな?
いや、鎧と剣だよ。騎士っぽいイケメンだよ。無害感ゼロだよ。
「もう大丈夫なので降ろしてください。ありがとうございました」
「ああ、無理はするなよ?」
気遣ってくれるあたり、本当に良い人かもな。
降ろしてもらう。ずっと足が宙に浮いていたから、 若干感覚が無い。
取り敢えずいくつか質問しよう。
「どちら様ですか?」
「俺か?俺はドミニク・アルペンハイムだ」
「騎士さんですか?」
「違うぜ」
え、違うの?
まあ、鎧は一般人でも着るかもしれないか。
「俺はキサギ王国海軍の船乗りさ」
「は?」
はい予想斜め上来ましたー。
軍人か。騎士は軍属じゃないのか?まあいいや。そしてトルネリア語が話せるんだな。
「どうして船乗りがこんな森にいるんですか?」
至極真っ当な質問だと思う。ここは人族からしたら未開の大地だし。道すら無いし。
アルペンハイム氏が口を開きかけた時、横槍が入った。
「質問ばかりでは失礼です。ショウは礼儀知らずですね」
……セリーナは本当にいい性格してると思うよ。
「まあまあ、別に俺は構わないから」
それでもアルペンハイム氏は気にせずに話してくれた。良い人だな。
彼の話を要約する前に、この世界の地理について説明しよう。
普通に方位の概念はある。俺の謎翻訳さんでは東西南北と表現されている。
トルネリア島を中心として各地の名称を決めたらしい。
島の東には東大陸がある。名前からして当たり前だ。様々な種族が暮らしているらしい。キサギ王国はこっちにある。
そして島の西に西大陸がある。これも順当。人族至上主義の風潮が強いそうだ。
その二つの大陸の間はイラストリアス海峡と呼ばれている。そこに浮かぶ巨大なトルネリア島が現在地だ。海峡には小さな島が他にも点在しているらしい。
そして北に大陸は無い。
南に南大陸。そのまま。世界最大の宗教の総本山があるらしい。テンプレ感すごい。
アルペンハイム氏の話を要約するとこうなる。
彼が所属する艦隊は、東大陸のキサギ王国からトルネリア島西側のウェストポートを目指していた。
島の北を回ってそこに行こうとしていたのだが、運悪く嵐に遭遇した。
高波に襲われて一隻の左舷が圧壊した。
危険だから北の森を抜けた所の入江に停泊。安全確認のためにアルペンハイム氏が上陸。森を進んでいったら俺たちと遭遇した。
そういうことらしい。
質問は山ほどある。何故他国の艦隊がトルネリア王国に来たのか、とか。だが、それを聞いたところで俺になんら関わりの無い話だ。
「———で、現地住民とのイザコザを防ぐために、今から挨拶に行くんだ」
「なるほど」
まあ、筋は通ってるか。
嘘を吐いているようには見えない。俺の目は信用なら んが。
「そうだ、さっきは悪かったな。女と間違えちまって」
「……別にいいですよ。いつもの事ですし」
ちらりとセリーナに目をやると、罰が悪そうな顔をした。彼女も初日に間違えたからな。
里に戻った。アルペンハイム氏はどこに連れて行けば良いのか分からないから、取り敢えず俺もお世話になっているヴィア家に連れて来た。
歩いている間ずっとアルペンハイム氏がうるさかった。
エルフはかなり閉鎖的で、縄張りに他の種族が入ることはかなり珍しいのだそうだ。
だからセリーナと一緒にいる俺を見た時も驚いたらしい。
……あれ、彼を連れて来ても良かったのかな?怒られないよな?
「ここが長の家です」
「立派だな」
「ふっ、当然です」
あー、どうしようか。
取り敢えず扉をノックしてみる。
「ああ、今行く」
セリーナの父、オルトが返事をした。
少しして、扉が開く。
「ああ、おかえり———その男は誰だい?」
「初めまして、エルフの長。私はキサギ王国海軍より参りました使者でございます」
オルトが唖然としている。それでもイケメンだ。
だがすぐに真剣な表情になり、数瞬の後、俺を見て言った。
「取り敢えず、ライアンを呼んできて」
その後、俺の知らない人達がヴィア家に来て、食堂で何やら話し合いをしたようだ。食堂の辺りが封鎖されていたから何があったか知らないが、セリーナは参加していた。何故だ。
それが終わって二階に上がってきたセリーナの顔は、ひどく青ざめていた。
何があったんだろうね?
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