第7話 森の中で
ブクマありがとうございます!
狩りから数日経った。
あの日以来、俺はセリーナに魔法を教えている。例の生き物を消す魔法だ。
だが、俺も意図して使った訳じゃないから、教えようがない。
「魔力を全力で、全て放出するんです」
「やってますよ!」
もともとプライドが高い彼女にとって、俺に教えを乞うのは屈辱的なことなのだろう。
深緑色の目に涙を浮かべながら「お、教えて、くだ、さい……」なんて言われたら断れなかった。何かに目覚めそうになったのは内緒だ。
……てか、まだデレてくれない。1年間頑張っんだけどな……。
そんなこんなで、セリーナに消除の呪い(仮称)を教えることになったのだ。嫌いな奴に頭を下げてまで学ぼうとするその姿勢はすごいと思う。
だがしかし、セリーナは未だにそれを使えていない。恐らく、まだイメージ出来るものが無いせいだろう。この差はやはり大きいのかもしれない。
一度、それっぽいのはあった。
教え始めて2日目くらいの日、いつも通り森で練習していた。安全のためだ。人を消したら洒落にならんからな。
セリーナは未だに悪戦苦闘していた。そもそも脳内イメージなど感覚的なものが重要な一次魔法は、人に教えるのが難しいと思う。呪文だけの二次魔法はもっとやりやすそうだ。
「はあっ!」
セリーナの魔法は、対象の木に何の変化も及ぼさない。実際には何か起こったのかもしれないが、確認できない。
「また駄目ですか……」
セリーナはよく頑張っている。昨日も魔力が枯渇するまで練習し続けた。魔力が枯渇すると、人は気絶するらしい。倒れた彼女を家まで運ぶのにどれだけ苦労したことか。
そして恐らく、セリーナが消除の呪い(仮称)を使えないのには理由がある。
「ショウ、早く実演して下さい!」
てっとり早く習得させるには、俺が実演してセリーナにイメージする素材を見せれば良いのだ。それは昨日も言われたが、未だに一歩踏み出せずにいる。
「木を消したら怒られそうなので嫌です」
「でも!」
「嫌です」
流石に意図的に何かを消したら怒られそうなんだよなあ。
魔法を初めて使った日、俺は木を粉砕したようだが、あれは事故だ。俺のせいじゃない。うん。
その辺の話は昨日説明したはずだが、お忘れになったのかな?
「じゃあ、森の奥に行きましょう」
「もりのおく」
まって何なのこの娘。
そんなに死にたいの?
テンプレ感がすごいな。
「魔物なら、いくら倒しても怒られないでしょう?」
「死んじゃいますよ」
「私達なら大丈夫です!」
だいじょばないんだよなあ。
ちなみに、魔物っていうのは人に害を与える生き物、アンデッドの類いのことだそうだ。この世界にはゾンビとかもいるらしい。発生するポイントは大体判っているが、それ以外は一切不明。どうやって増えているのかもわからないらしい。
奥に行くのは流石にまずいな。どう説得しようか。
「少しだけですから!」
「先っぽだけ、みたいな事言われても困ります」
「えっ、なんですかそれ」
セリーナに性知識が無いのは確認済みだ。これで誤魔化せるかな?
「そんなことより、どうしても見たいんです!」
ですよねー。
「嫌なら来なくてもいいですが、私は行きます」
「は?」
それは本末転倒過ぎやしないか?バカなの?
いやでも本当に危険なのかな?落ち着いて考えよう。
昨日、消除の呪い(仮称)を何度も使ったが、俺の魔力は枯渇しなかった。それに、セリーナを連れて狩りができるくらいだ。敵は弱いだろう。
……行ける、か?
うん、あまり深くに行かなければ大丈夫だろう。
「じゃあ、少しだけですよ?」
「本当?やった!……あ、いえ、じゃあ行きましょうか」
感情を露わにして、それに気付いて慌てて取り繕う。可愛い。
子供らしい部分もあるんだな。
もう20分くらい歩いたかな?この辺でいい気がしてきた。
あとは待つだけか。索敵はしっかりやらないとな。
「じゃあこの辺で」
「魔物はいませんよ?」
「待っていれば来るでしょう」
「そうですか」
それだけでセリーナは理解したらしく、こちらに背中を向ける。賢い子だ。セリーナがこちらに背を向けたのは、ライアン先生に教わった警戒態勢をとるためだ。背中を合わせて、前方を警戒する。それだけ。
「やましい事を考えたら刺しますよ」
「セリーナは可愛いからやましい事を考えちゃうかもしれませんねえ」
少し尖った氷の棒で背中を刺されました。痛かったです。しかし、同世代の女子と背中を合わせるなんて経験はなかなか出来ないだろう。貴重な体験だ。
ちなみに氷の棒はセリーナが魔法で作り出したものだ。質量保存の法則はガン無視である。
しばらく待ったが、何も来ない。場所が浅すぎたか?もう少し奥まで行った方がいいかもな。
そう思った矢先。
「ショウ、何かいます!」
森の奥を見ていたセリーナが声を上げた。
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