第6話 森と狼
ブクマ有難うございます!
はい、森を舐めてました。キツいです。
今、私は北の森の奥の方、多分北ですね、はい。北上しています。このまま直進し続けると海に出る筈です。その前に僕は疲労骨折しそうですが。
道が平坦じゃないとこんなに辛いんですね。
森に入ってしばらくは完全にオフ状態だった。周りの狩人達も談笑していた。俺もセリーナの重装備をからかったりして過ごした。
10分ほど経って、突然周りの雰囲気が変わった。狩りは完全に初めての俺でもわかるくらい、空気が張り詰めた。
ちなみに俺とセリーナはこの時点で息切れを起こしていた。
本体の前方を歩いていた偵察隊がアディルに何事かを報告したところから、一気に始まった。
「バッファロー4匹だ!リエス隊は獲物を引きつけろ!ヘクト隊は正面で牽制だ!」
……森に牛?その辺はよくわからないが、4人1組の隊が2つ走り出し、森の中へ消えた。
我々も駆け足で近付く。すると、少し開けた場所に出た。そこには巨大な牛がいた。
地球のものとは比べ物にならないほど大きく、真っ直ぐに伸びたツノを2本持っている。
これがこの世界の標準的な生物ならば二度と狩りなんか行きたくない。
「よし、終わったな」
「え?」
アディルの言葉にバッファローを注視する。すると、今まで戦っていた人達がバッファローから離れ、4匹に一斉に矢が射掛けられるところだった。矢が異常に早いから、なんらかの魔法が掛けられているのだろう。
「ガアアアアアア!!!」
哀れな牛達はあっという間に全滅した。
何コレ……思ってたのと全然違う……。
いや、これは狩りだ。勇者がダンジョンに潜るのとは違うのだ。
速やかに、安全に、効率的に狩る必要があるのだろう。
現実を知った。
それから小一時間して、遂にその時がやってきた。
「ショウ、あれを狩ってみようか」
「えっ……」
アディルが指差したその先には、こちらに背を向けた狼のような生き物がいた。
全長3メートルもあろうかという巨体。開いた口から覗く牙は、返しがついている。噛まれたら牙が抜けずに死ぬのだろう。
「イヤです。まだ死にたくないんです」
「大丈夫。ショウの魔法なら余裕さ。一撃で倒せる」
割と本気の懇願だったが、あっさり流された。
周りに視線をやり、助けを求めるが、みんな微笑んでいるだけで反応がない。何故だ。
「おっ、こちらに気づいたか。じゃあ、宜しくな」
「えっ、待って」
みんな退避した。本当に頭おかしいのではないだろうか。セリーナも逃げやがった。
逃げようにも膝が笑って動かない。
巨大な目が俺を睨んでくる。どうやら狼は俺に狙いを定めたようだ。
14歳で死ぬのか……。せめて日本に帰りたかった……。
どうせ死ぬなら、全力で抵抗しよう。そもそも何でこんなことになってんだっけ?
「グォアアアアアアアア!!!」
狼が咆哮を上げ、こちらに向かって駆け出す。巨体のくせに速い。そしてうるさい。
ああ、お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください……。
そんな事を考えている場合じゃないので、テレビで見たハリケーンのような、強大なエネルギーをイメージ。さらに方向を設定し、イメージに魔力を付与する。この辺は感覚でやっているから上手く説明できないな。
魔力はもちろん今すぐに使えるやつ全部。そうでもしないと狼は死なないと思う。
「おりゃあ!」
我ながら悲しくなるほど間の抜けた声と共に左手を振りかざす。左手から一気に膨大な何かが体外へ流れ出る感覚。反動は上手く消せたみたいだ。
次の瞬間、空気が震えたのがはっきりと見えた。
その波は辛うじて視認できる速さで狼に突っ込む。
勝ったな。
「やった!」
しかし、波が狼にぶつかっても、奴は倒れない。
……失敗か?
そして突然、狼の巨体が横に広がったように見えた。
「グガァ———」
狼が消えた。
は?
これが、俺の初めての狩りになった。
後からセリーナに聞いた話によると、あの狼はバッファローより少し強い位の雑魚だったらしい。セリーナでも別の個体を楽に倒せたみたいだし。
狼が消失した後、俺は里に戻された。アディルいわく、加減を知らない俺が戦うと獲物がとても利用できる状態じゃなくなってしまうらしい。
初めてだから加減できないのは仕方ないよね。
護衛の人と一緒に帰る道は危険がなくて快適だったが、別れ際に「里であの魔法を使ってはいけない」と言われてしまった。
生き物を消す魔法なんて、俺も使いたくない。
部屋に戻って服を着替える。ナベル翁に事の次第を伝えたが、彼は驚かなかった。よくある事なのかもしれない。
さて、対狼戦の振り返りをしよう。
まず、俺と狼が一対一で睨み合った。
狼が突進して来たから、魔法を行使した。
魔法は、ハリケーンのように強大なエネルギーをイメージした。打ち出された魔法は狼に直撃。少し間をおいて狼は消えた。消える直前に、奴の体が歪んだように見えた。原因は知らん。
特訓の成果も出た。きちんと無反動かつ完全なルート制御で魔法を行使できた。
日々の練習の成果が出たのだから、成功と言えなくもないだろう。
明日から威力の調節を練習すれば、より完璧になれる。そして早くここを出て、日本へ帰る方法を探すのだ。
「只今戻りました!」
階下からセリーナの声が聞こえた。
大分機嫌が良さそうだ。きっと狩りを楽しめたんだろう。
それを少し羨ましく思いながらも、俺はセリーナに会いに食堂に向かった。
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