第5話 一年後
俺がこの世界に来てから約一年が経った。未だに訳の判らない事だらけだが、二か月目あたりからは全て考えないようにした。魔法が存在する時点で地球人には理解不能だ。
魔法に関しては、正直よくわからん。
一年間ずっとセリーナとライアン先生のもとで修業を積んだが、あまり上達した実感がない。魔力量は増えたし、制御出来るようにもなった。だが、それだけだ。
俺の魔法がセリーナのそれよりも高威力な理由も多分判明した。イメージできるものの違いだった。
俺は地球の映画などで「爆発」とか「砲撃」を知っていた。だが、セリーナは生まれてから一度も森の外に出たことがない。だからイメージ出来るものも限られてくる。どうもそこに違いがあるようだ。
そんなセリーナだが、彼女も成長している。
初めは俺が行使する強力な魔法に嫉妬して、ライアン先生の授業では大分精神が不安定だった。魔法の練習の度に俺にちょっかいをかけてきたりもした。セリーナがそんな状態だから、彼女との魔法の特訓は中止された。
俺が来てからひと月ほど経ったある日、限界を迎えた彼女が自室に引き籠った。普段から俺なりにフォローしていたのだが、嫌いな奴に何を言われても心に響かなかったのだろう。「可愛いから大丈夫ですよ」だけでは限界があったようだ。
引き籠りはその日の午前中にあっさりと終わった。引き籠りとは呼べないかもしれない。話を聞いてやって来たライアン先生が扉越しに何かを言ったのだ。その後数分したら食堂に降りてきた。
「強力な魔法だけが優秀だとは限らないんですよ」
ドヤ顔でそう宣告してきたセリーナは、少し前まで自信喪失で部屋に閉じこもっていたとは思えないほど偉そうだった。そして可愛かった。先生凄い。
それからセリーナは変わった。先生の授業にも真面目に取り組み、特訓も再開された。彼女は自分の魔法の威力を高めるのに執着するのを止め、精密さを高めようとしたのだ。そして彼女にはその才能があった。特訓の途中に突然氷の彫像を創りだしたときは驚いた。何故彫像が俺を模した物だったのかは分からない。
セリーナの成長に焦りを感じた俺も色々やってみたが、どれも失敗した。俺は細かいことが苦手だからな。中学校でも実技の成績は壊滅していたし。
そして今日、俺とセリーナは森の奥に行く。里の若者と一緒に狩りをするのだ。
森に行きたい、とセリーナがナベル翁に頼み込んだ結果、「次の狩猟隊に混ざってもいい」とお許しが出たのだ。なんでセリーナが俺も一緒に行けるようにしてくれたのかは知らない。
「ショウ、緊張してるか?」
話しかけてくれたのは初日にお世話になったアディルさん。彼が狩猟隊のリーダーらしい。実力はわからないが、風格はある。
「いえ、むしろ楽しみです」
「ははっ、油断して怪我したりするなよ?」
「了解です」
魔物が楽しみで仕方ない。どんな奴がいるのだろうか。
ちなみに今はセリーナを待っている。寝坊しているようだ。
以前寝坊した彼女を起こす為に部屋の扉をノックしたら何故か怒られたから、それ以来近づかないようにしている。
「すみませんっ遅くなりました」
あ、来た。
え、フル装備?
全身を何かの皮で出来た鎧っぽいもので覆っている。あれを着ていたから遅くなったのか。丈夫そうだが、小説とかだと初期装備だ。大丈夫なのだろうか。
俺?俺は制服です。大分小さくなってきました。多分攻撃喰らったら一発で死ねます。まあ他のエルフ達もそこまで厳重な装備って訳じゃないから大丈夫だろう、多分。
「よし、じゃあ行くぞ!」
アディルさんの掛け声で我々は森に入った。
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