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第2話 そもそも地球じゃなかった

ブクマ、評価(する価値もない)、ありがとうございます

 夢を見ていた。日本から遠く離れた地で、ホームステイ生活を送る夢だ。このネタはもういい。

 目を開ける。やっぱり日本じゃなかった。例え外国でも日課は欠かさない。


「知らない天井だ」


 よし、頑張ろう。

 ナベル翁は今日は忙しくなるとか言ってたはずだ。それに加えてここがどの地域に属しているのか調べよう。アジアだといいが……。

 昨日は仕方なくワイシャツに制服のズボンで寝た。寝にくい。着替えとか貰えないか聞いてみよう。


 やることもないからボーッとしてたらドアがノックされた。いつの間にか我が剣ももとに戻っていた。

 初めてのシチュエーションだな。いつも学校ではノックする側だからな。


「どうぞ」


「おはよう。調子はどうじゃ?」


 ナベル翁が入ってきた。どうせなら美少女がよかった。まあこの家ではまだ彼しか見ていない。もしかしたら孤独な老人なのやもしれぬ。介護は嫌だな。

 そんなのはどうでもいい。


「おはようございます。調子はすこぶる良いです」


「それは良かった。この年になると目覚めが早うなってな。いっつもこの時間は一人なんじゃよ」


 どこの国でもそういうところは同じなのか。何故彼は普段自分だけが起きている時間に俺の部屋に来たんだ?まさか夜這いか?朝だけど。


「ちょいと忠告じゃ」


 何の?


「もうじき孫が起きる。あの子はちょっと変わった性格をしとるが、気を悪くせんように頼むぞ」


「へぇ、了解しやした」


 忠告が必要なくらい面倒なやつなのか。嫌だな。


「ああ、父さん。ここにいたのか。お、君がお客さんだね。僕はオルト・ヴィア。よろしくね」


 ナベル翁の後ろからイケメンが入ってきた。当然耳が長い。父さんってことは次世代の長になるのか。

 うん?昨日俺がこの家に入ったとき、オルトは寝ていたはずだ。何故俺の正体がわかったんだ?


「ショウです。お世話になります。何故僕がお世話になることを知っていたのですか?」


「部屋にいるからって寝ているとは限らないよ」


 じゃあ顔だけでも出してくれれば良かったのだ。しかし、皆早起きだな。ナベル翁が早起きだって話だったが。


「オルトは珍しく早いのう。どうしたのじゃ」


「今日の巡回は僕だからね。ついでにセリーナも起こしたよ。これで遅刻は避けられるはずさ」


「ようやくか。よし、少し早いが朝飯としようかの」


 知らない人出ましたー。セリーナってのが孫のことかな?

 我が心に潜みしコミュ力よ、今こそ解放されん!その偉大なる力をもって、孫と国交を樹立せよ!


 クソ暑い中、学ランを着て食堂へ向かった。






「誰ですか?この人族」


「はじめまして、ショウと申します。今日からしばらくこの家に滞在させて頂くことになりました。よろしくお願いします」


「あっ、男でしたか……」


 食堂には長テーブルがあって、七脚の椅子が配置されている。そして、正面には超絶美少女がいる。凄い。凄すぎる。こんなことがあっていいのか。否、これは毎日の生徒会労働に対するご褒美だ。そうに違いない。

 目の前の少女は、美しい栗色の髪をショートヘアにしている。耳は長いから違和感しか感じないが、それすらも彼女の美貌を引き立てているように思える。眠そうな目は深緑色で、ジト目っていうんだろうか。背はそこまで高くない。百六十センチ位かな?

 ただ、不機嫌オーラがすごい。


「よくわかりませんが、私の勉強の邪魔はしないでください。私はあなたみたいな親元離れてろくに勉強もしない馬鹿とは違うんです」


 確かに勉強は嫌いだが、初対面でいきなり馬鹿呼ばわりは腹立つな。美少女でも、この性格じゃあ嫁げんだろう。何歳だか知らんけど。

 一気に朝食を平らげたオルトが口を開いた。ちなみに今日の朝食は、サラダと塩味のスープ、丸パン一つだ。日本の食の豊かさを思い知る。


「そうだ、ショウもセリーナと一緒に賢者の所へ行ったらどうだい?」


「賢者?」


 オルトによると、賢者とは森の外で活動し、里へ帰ってきた老人の総称で、将来外の世界に出たい子供たちに色々なことを教えているらしい。学校みたいなもんか。この教育制度はナベル翁が作ったらしい。

 森の外で活動してたってことは、ここがどこなのか具体的に教えてくれるかもしれない。


「はい、行きたいです」


「嫌です」


 セリーナに拒絶された。何でじゃ。


「こんな頭の悪そうなのを連れて歩いたら私まで笑い者にされてしまいます」


「おぅ……」


 すごいなこいつ。自意識過剰なのか、それとも本当にこいつの頭がいいのか判らんが、大した自信だな。だがな、俺はこう見えて生徒会長で成績も学校屈指だから、それなりに勉強はできるんだ。

 まあ、無理にとは言わんさ。


「じゃあ、いいです」


 残念だが仕方ない。俺もこんな面倒な奴と一緒にいるのは嫌だ。親が居なくなったらさらに本性出たりしそうだし。


「セリーナ、彼を連れて行ってあげなさい」


 突然ナベル翁が口を開いた。

 当然セリーナは拒絶する。


「でもお爺様、この人は――」


「一緒に、行きなさい」


 有無を言わせぬ口調だ。これが里のトップに立つ男の迫力か。やっぱり公立中学の生徒会長とはわけが違う。カッコいい。



「うっ……わかりました」


 いやだわあ。すんごいいやだわあ。きょうさぼりたいわあ。

 そんな顔をしている。綺麗な顔がもったいないな。


「うむ。よろしい」


 ナベル翁怖い。






 飯食ってすぐに出発した。賢者は徒歩五分くらいの所にある木の陰にいた。一人で地面に座っている。アディル氏と同年代くらいじゃないだろうか。二十代そこらって感じだ。本当に彼は賢者なのだろうか。あ、イケメンだ。

 道中、食堂にセリーナの母親と祖母を見かけなかった事について彼女に尋ねたら、何故か無視された。触れてはいけなかったのだろう。


「おはようございます、師匠」


「うん。おはよう」


 師匠と呼ばれた賢者は笑顔で我々に座るよう促した。セリーナに師匠と呼ばれるくらいだから、きっと物知りなのだろう。

 師匠がこっちを見た。


「ん?君は見かけない顔だね。人族のように見えるけど……」


「はじめまして。人族ですが今日からしばらくここに滞在させていただくことになりました。ショウと申します。僕もヴィアさんと共に教えを受けさせていただくことになります」


「おお、男の子か。礼儀正しいね。僕はライアンだ。よろしく。ところで、君にはファミリーネームがないってことは貴族ではないのか。どこで礼儀作法を覚えたんだい?」


 え、どうやって答えるべきだろうか。まさか貴族だと嘘はつけまい。ってか人族ってなんだよ。


「どうせ馬鹿の一つ覚えでしょう」


「そんなところです」


 セリーナさんナイスアシスト。オンゴールっぽいけど。


「ははは、そうかい。じゃあ、早速始めようか。今日からショウも一緒に教えることになるなら、軽く復習しようか」


「はい」


 よし、ここがどかだか知ろう。







 しばらくして、俺は絶望のあまり素数を数えていた。時計がないから時間はわからないが、日は落ちそうだ。

 今日わかったことはこれだ。


・ここはどこ?

ライアン「じゃあ、僕らが住んでるこの森は、世界のどのあたりにある?」

セリーナ「イラストリアス海峡のトルネリア島北端。北は海、南はトルネリア王国領と接しています」

ショウ「ヨーロッパですか?」

ライアン「それはどこだい?」


・言葉について

ライアン「今我々が話している言葉は何語と呼ばれている?」

セリーナ「トルネリア語です」

ショウ「英語は使われないのですか?」

セリーナ「そんな言葉はありません。ふざけるなら帰ってください」


 他にも色々教えてもらったが、俺の知識と符合するものは一つもなかった。どうして長耳族(あんたら)人族(おれ)をわざわざ分けるんだよ……。

 異文化交流において一番重要なのは相手を理解することだって聞いたことがあるが、いくらなんでも難易度が高過ぎやしないだろうか。


「ショウ、大丈夫かい?」


 イケメンが覗きこんでくる。いいなぁ、俺もそういう美貌があればなぁ。

 今は集中せねばな。


「はい。大丈夫です。すみません」


「足を引っ張らないでください」


 セリーナさん怖いっす。一番苦手なタイプだ。よりにもよってコイツの家にホームステイとはな。悪夢だ。


「まあまあ。じゃあ、次行くよ……ああ、もうだいぶ暗いね。今日は終わりだな」


 「「ありがとうございました」」


 よし。帰ったら布団に入って泣こう。お母さん、お父さん。まだ、家に帰れないみたいです。

 ライアン先生が木の裏から木の棒を取り出した。アディル氏も持っていた。ってことは松明か。


「暗いから、これを持って帰りな」


 そして木の先端に空いている左手をかざすと、そこに火がついた。一瞬であたりが明るくなる。え?なんで?

 今、ライアン先生は左手に何も持っていなかった。素手であんなに早く火は起こせない。ってことはかざすとセンサーが感知して火がつく仕掛けとか?いや、なら木の棒に似せる必要はない。


「あ」


 俺が混乱している間に、先生が松明の炎を下の草に移した。山火事の原因の一つである。


「師匠、危険ですよ」


 セリーナがすぐに水で消火した。手から水が出たようにしか見えなかった。

 急に天地が逆さまになった。







「知らない天井だ」


「寝ぼけているんですか?」


 ここはどうやら俺の部屋のようだ。気絶してしまったらしい。まあ、それはいい。

 その直前に見たものは幻なのかどうか。そこが重要だ。

 どうでもいいが夜に年頃の女の子と部屋に二人きりとは。思春期男子憧れのシチュエーションだな。俺が興奮しないのは精神年齢が異常に高いからだろうか。

 まあいい。


「ヴィアさん」


「はい?」


「水を一杯、いただけますか?」


「はぁ。特別ですよ。……それと、家の中でヴィアは紛らわしいので、セリーナで良いです」


 そうデレつつ、彼女は空のグラスに右手をかざし、水を注いだ。わあ、夢じゃないけど、夢じゃなかった!

 手品か?


「セリーナさん、今、どうやって水を注ぎました?」


 セリーナは一瞬きょとんとして、一人で納得して、得意気な顔をした。面白い。百面相だ。


「人族が古代魔法と呼ぶ方法です。長耳族が独自に使う魔法ですね。人族のあなたは見たこともないでしょう」


 そして鼻を膨らませながらグラスの中の水を蒸発させたり注いだりした。口を開かなければ可愛い。

 ……いや、現実逃避は止めよう。

 長耳族(エルフ)、聞いたこともない大陸や地名、そして魔法と呼ばれる何か。そこから考えるに――――






 ここ、地球じゃない。

新たな生活を、状況もわからないまま送るショウに、現実が飲み込めるはずもなかった。だが、意外な才能は、彼を要注意人物にする。 次回「慣れない、魔法」

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