第11話 取引
最後から大分間が空きました。すみません
今、私の目の前に広がっている光景は異様な物です。
まず、おっさんが土下座しています。私相手に。
そして、その後ろに赤毛のおっさんが立っています。土下座している方より年上に見えます。
意味わからん。この世界にも土下座という概念はあったのか。
「取り敢えず、立ち上がってください」
土下座してるアルペンハイム氏に声をかける。そもそもなんで頭を下げられているのかが分からない。
「あ、ああ……」
彼はゆっくりと立ち上がる。
じゃあ後ろのおっさんは置いといて、話を聞こう。
「何で土下座を?」
「え、何も知らないのか?」
「……はい」
そうか、と言ってアルペンハイム氏は語りだした。
昨日、ヴィア家の食堂で行われた会議で、アルペンハイム氏は様々な話をした。内容は、世界情勢だったり、最新技術だったりと雑多だったが、全部エルフの知らない森の外の話だった。
そしてその中に西大陸に囚われたエルフの話があり、当然騒ぎになったらしい。俺には一切聞こえてなかったけど。
その後彼は食堂から出た。その時、セリーナがついてきた。
「西大陸ってどんなところなんですか?」
この質問を皮切りに、セリーナは外の世界に関して質問しまくったらしい。そしてお人好しのアルペンハイム氏は全部答えた。
そして今日、セリーナは忽然と姿を消した。
「今考えると、あの子の質問には何か意図があったようにも思える。気付けなかったのは俺のミスだ」
という事らしい。
うーん、アルペンハイム氏に全ての責任があるとは思えない。それに、今更それについて話し合っても無駄だしな。
それに、良い事もある。
「状況はわかりました。セリーナは多少なりとも外の世界の情報を知っているんですね?」
「ああ、そうなるな」
彼がセリーナに話をしてくれたお陰で、少し彼女の生存率は高まったと思う。
セリーナの事だ。アルペンハイム氏が何も教えてくれなかったとしても出て行っただろう。
「じゃあ、アルペンハイムさんは悪くないです」
「……そう言ってもらえると助かるよ」
じゃあこの話はおしまいだ。
「聡明な子だ」
「え?」
めっちゃ低い声が聞こえた。多分赤毛のオッサンから出たんだろうけど、一瞬ビビった。
「私はキサギ王国海軍第一艦隊司令官のバーダーだ。……あー、つまりこいつの上司だ」
「ショウです。初めまして」
二人の服装を見比べてみる。同じ鎧だが、バーダーの右腕には何かの紋章が彫られている。あれが階級を表しているのだろうか。
そして、この人は姓を言ってくれたのか名を言ってくれたのかがわからない。まあいっか。
「丁度、里に頼み事をしに行く予定だった。案内を頼む」
「わかりました」
ナベル翁に似た、有無を言わせぬ口調だ。流石は艦隊の指揮官だ。エルフの里でイケメンを見慣れてしまったせいか、カッコいいお顔はしていないように感じるが、頼もしさはすごい。
結局軍船は見れなかったが、また機会はあるだろう。
みんな無言で森を歩いています。暇です。質問します。
「あの、バーダーさん。質問いいですか?」
「……私に答えられることなら」
「頼み事って何ですか?」
さっきから地味に気になってたんだよな。
「船の修理を手伝ってほしいのと、修理するために木材を売ってほしいのだ」
「なるほど」
至極全うな理由だった。
段々森の密度が小さくなっていく。そろそろ森を抜けるな。
……あ、そうだ。
「一応、お二方を里に入れてもいいか聞いてきますから、ここで待っていてください」
「承知した」
「了解」
確認は大事。うん。
無事にナベル翁から許可をもらい、二人を食堂に連れてきた。まだ昼の鐘までは時間があったが、ライアン先生に残れと言われた。だから俺は今食堂にいる。
部屋に入って早々にアルペンハイムがナベル翁達に土下座してひと騒動あったが、今は収まっている。
さっき急に気づいたんだが、今日の未明のセリーナ出奔を何故アルペンハイムが知っているのだろうか。質問したら、彼は昨日この家に泊まっていたらしい。早朝に船に戻ったらしいから、俺とは一度も会っていない。全く気が付かなかった。
「さて、バーダー殿、頼みとは何ですかな?」
こういう場を仕切るのはナベル翁の仕事だ。エルフ側からは、ナベル翁、オルト、ライアン先生、そして俺が参加している。キサギ側は、バーダー、アルペンハイムの二人だ。
「船体修理のために、人と木材がほしい。木の値段はこれから交渉していきたい」
「人を貸すのは構いませぬが、木材に関しては問題がありますな」
「問題とやらをお聞かせ願おう」
お互い無表情。こういう話し合いとかは笑顔でやれって、職場体験の時に先生に言われた記憶があるが。
「我々長耳族は他の種族から距離を置いています。貨幣は不要なのですよ」
「……成程」
ライアン先生が答えた。確かに言われてみるとそうだな。他の集落との交流が一切ないならお金は不要だ。
元の世界だと、帆船には豪華な装飾品や宝石が積まれていた、なんて話を聞いたことがある。こっちの世界ではそういうのはないのだろうか?
「軍船だからな。キサギの通貨以外、渡せるもので、価値のあるものがない。困ったな」
「では、こちらから条件を提示させてもらおう」
オルトさんも硬い口調だ。みんなセリーナ出奔から立ち直ったのか?いや、流石にそれはないか。でも、みんな落ち着いていて、余裕があるように見える。なんだろうね?
「条件?」
「簡単な話だ」
里の三人が一斉にこっちを見た。え?え?何ですかね……?
「この子を船に乗せてほしい。ウェストポートまで」
「それだけか?」
「うむ。この条件を呑んでくれれば、人、木材ともに供与しよう」
「……取引成立だな」
……は?
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