第10話 出発準備
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「おはよう。ショウ、起きて」
「ん……え?」
何故か部屋にライアン先生がいる。彼の家はここではないから、明らかにおかしい。それに、先生の表情は少し曇っている。
階下が少し騒がしいな。聞いてみよう。
「おはようございます、先生。何かあったのですか?」
「……緊急事態さ」
その間は何ですかね……。
「取り敢えず、着替えて下に来てね」
「あ、はい」
先生ののんびりとした口調はいつも通りで、緊急性を微塵も感じさせない。が、表情は相変わらず暗いから、何かが起こっているのは確かだろう。軍船の話かな?
じゃあ着替えるか。
エルフの標準服であるいつもの革ジャンに着替えて食堂に降りる。階段に向かう時にチラッとセリーナの部屋を覗いたが、もういなかった。なんか彼女の部屋が異様に整理されていた。いつもあんなだったっけ?多少違和感を覚えるが、今はそれどころじゃないな。
階段を降りる。やはり少し騒がしいな。
……オルトが怒鳴っているのか?
「———あの場に居させるべきじゃなかったんだ!」
「じゃがセリーナは実の娘じゃ。知る権利はあった」
「それに、彼女も知りたがっていたしね」
オルトが叫んで、ナベル翁がそれを宥め、ライアン先生が翁に追従する。そんな流れだな。
オルトがあんなに感情を露わにするのを見たのは初めてだ。本当に何があったんだ?
「あの、おはようございます」
「ああ、ショウ。おはよう」
返事をしたナベル翁も心なしか疲れているように見える。昨日の会議から夜通しここに居たとかじゃないよな?
ライアン先生が立ち上がる。
「朝食を出してこよう」
「あ、ありがとうございます」
それも大事だが、先に事情を聞いておこう。
「何があったんですか?」
「セリーナがいなくなった!」
……は?
セリーナが?なんで?
「詳しくは後で話すから、取り敢えずこれを食べて」
先生に棒状の何かを渡される。
見た目は、シリアルを固めたみたいなやつだ。
かじる。なんか、味がしない。
「よし、じゃあ説明しよう」
「……はい」
いつの間にか食べ終わっていた。
3人から説明を受けた。ほとんど何もわからない。
ただ、セリーナは自分からこの里を出たらしい。
昨日、食堂会議でアルペンハイム氏は西大陸の話をした。彼は軍の任務で何度か西大陸に行った事があるのだ。
彼から、囚われのエルフの話が出た。西大陸のどこかに、奴隷となったエルフがいるという噂だ。それを聞いて、その場にいた誰もが皆、その奴隷がオルトの妻、セリーナの母であると直感したらしい。
「長耳族の中で、里にいないのは娘だけじゃ」
これはナベル翁の言葉だが、まあ、そういう事らしい。
事情はなんとなくわかった。
セリーナは少し自信過剰で人を見下すような態度を取る奴だが、悪い奴じゃない。探し出す方法はないかな?GPSは無いもんな……。
「捜索隊を出そう」
オルトが切り出した。まだ感情的になっているようだ。
すぐにライアン先生が口を開く。
「だが、我々は長耳族だ。人族の国を旅する事は不可能に近い」
「お前は出来たんだろう⁉︎」
「私だから出来たんだよ」
どういう事だ?人族の国を旅するのは禁止されているのか?それに、先生だから出来たってどういう事だ?
ますます混乱してきた。
「我々の容姿のことを忘れてはならん」
「ですが!」
「一人のために皆を危険にさらすような行動は良くないよ」
あー、なんとなくわかったわ。
エルフはその美貌のせいで他の種族から狙われるのだろう。だから人里離れた森で排他的な生活をしているのだ。うん、多分そうだろう。
他の種族から狙われる恐れがあるから、捜索隊を出すのは危険なのだ。
でも、セリーナがどこかで慰み者になるのも嫌だな。魔法の師匠だし、最近はそこまであいつから不快な言動は出なくなったしな。
よし、ここは俺が一肌脱ごうじゃないの。
「あの、僕が行きましょうか?」
「……いや、君はまだ幼い」
……まあ、そう来るよな。
「ですが、僕は人族です。皆さんに比べて道中の危険は少ないでしょう」
「人さらいは子供も狙うぞ?」
人さらい?え、そんなのがいるの?
それは聞いてないなぁ……。
「……ショウに任せよう」
「父さん!?」
ナベル翁は賛成してくれたが、人さらい……。なんか急に行きたくなくなってきた。
いや、友の一大事だ。覚悟を決めよう。
「じゃあいろいろ話すことがあるから、昼の鐘まで遊んでおいで」
先生の笑みは朝より元気そうだった。話が一歩前進したからだろうか。
セリーナが居なくなった今、この里に友達などいないので軍船の方まで行ってみることにした。
危険?知らんよ。
森の中を進んでいるのだが魔物に全く遭遇しない。何か法則があるのかな?晴れの日は出現しない、とか。
少し開けた所におじさんが二人立っている。アルペンハイム氏と似たような鎧を着ているから、キサギ王国の人かもしれない。
「止まれ!」
髭の濃い方に呼び止められた。もしかして入れない?
取り敢えず身元を明かそう。
「里から来ました」
「里?」
あれ、知られてない?
「長耳族の里です」
「貴様は人族だろ」
「……ドミニク、言ってた、人族、かも」
「多分それです」
髭の薄い方の言葉が聞き取りずらいな。訛りとかそういう感じかな?謎翻訳は万能じゃないのかもしれないな。
「何をしに来た」
「アルペンハイムさんに会いに来ました」
「……わかった。連れてく」
髭の薄い方に案内されて先へ進んだ。
「本当にすまなかった!」
「……え?」
案内されて砂浜まで連れて来られたが、軍船は見れなかった。別の所に停泊しているのかな?
そして、アルペンハイム氏は来て早々俺に頭を下げている。理由が見当たらない。
その後ろにいる厳つい赤毛は誰ですかね……。
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