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始めの七神からの告白

 大それた事を聞かされた為、未だ動けない青年騎士へ大神官が声を掛ける。

「ハール殿…いえ、ハールトバム様。

考える時間はまだ沢山ありますから、御ゆっくりと御考えになって結論を御出し下さいませ。」

ルシフの騎士から、ルシフ王の後継者としての扱いに変えた大神官へ、青年騎士は困惑顔を向ける。

彼が口調と敬称を変えたのなら、大神官も後継者と認めた事となる。

ルシフ王になる全ての条件が整った為、ハールトバム自身の意思でその事を決めれば、後継者として王宮へ住まう事となるのだが、体の不調で起き上がる事も儘ならなくなった祖父を置いて、王宮へと移り住む訳には行かない。

せめて祖父の体調が良くなり、共に王宮へと引っ越しが出来るようになるまで、決断を伸ばす事を決めた。

しかし…それは、長く続かない事を彼は知らない。

祖父の体は既に老いと言う不治の病に侵され、その命が空前の灯となっている事をハールトバムには判らなかった。


 自分の身の上に降り掛かった、事の次第の大きさに頭を抱えたハールトバムは、やっとの思いで家に帰った。

家にはまだ祖父の見舞い客がいる様で、話し声が聞こえている。近所の人か、何時もの人達だと思いながら、祖父の部屋の扉を通り過ぎようとした時、中から彼を呼ぶ声が聞こえた。

「ハールや、今帰ったのか?」

祖父の声に、はいと短く返事をして自分の部屋へ戻ろうとした彼であったが、祖父から再び声が聞こえる。

「丁度良い機会じゃ、此方へおいで。」

他ならぬ祖父に招かれた為、仕方無く部屋へ入る。そこには七人の人物が、祖父・ガリアスのいる寝台を囲む様に佇んでいた。

彼等は全員、異なる髪の色と瞳の色をしており、その顔も似ていなかった。血族と思われない彼等の中に、先程神殿で釘付けとなった神像にそっくりな人物もいた。

「ハールトバム…だったな。」

彼等の中の一人、左右で金色と黒色に分かれた珍しい髪と同じく左右で違う青と紺色の瞳を持つ人物が、ハールトバムへ話し掛ける。その細身の騎士服を着込んだ厳しい目の男性…確か、空の神だとハールトバムは思った。

「あの…私に何か、御用ですか?クリフラール様、そして…七神の御方々。」

相手が神々と判っている為、何時もの口調で話せなかった彼の対応で、質問を投げ掛けられた空の神は苦笑する。

「その様子だと、サニフから伝えられたらしいな。

俺達の用件は只一つ、ハールトバム・ジェスタラーク、そなたをルシム・シーラ・ファームリアの王として任命する。

只…断る事は可能だ。これは我等の希望であり、願望だからな。」

始めの七神の纏め役である空の神から言われ、息を呑むハールトバムへ、今度は祖父の言葉が耳に届く。

「ハール、いや、ハールトバム様。

この老いぼれの、最後の願いを聞いて下され。

如何か、神々の許へ行く私に替わって、サニフラール様とヴァルトレア様を御支えして、このルシム・シーラ・ファームリアを神々と共に御守り下さい。」

珍しく寝台の上で体を起こし、真面目な顔で告げる祖父の言葉に驚いたハールトバムは、勢い良く祖父がいる寝台へと駆け寄る。

「な・何言ってるんだよ、じっちゃん。まだまだ長生きするんじゃあないか!」

孫から言われた返事に対して首を横に振り、静かに薄紫の両眼を閉じる。

「確かに儂は、成人したハールの晴れ姿や、一人前の騎士になる姿を見るまで死にとうない。じゃがな、体がそれを待ってくれんのじゃ。

だからせめてもの願いで、その大切な儀が終わるまでと、ナサ様からの御迎えを待って貰てるんじゃ。」

聞きたくない真実だったが、本人から突き付けられてしまった以上、否定も出来なかった。只…目の前が霞み、ぼやけて全く見えなくなった彼へ、神殿で見たあの像にそっくりな金髪碧眼の神の声が届く。

「ハール、アスは、古い体を脱ぎ捨てて新しい体を得るんだ。だから…心置きなくそれが出来る様、そなたも成人の儀を頑張るんだぞ。」

未だ捜しているあの人に似ている神に告げられ、ハールトバムはその神へと視線を上げる。声も、体格も違うのに、覚えているあの人に言われた気がした為、素直な言葉が出る。

「取り乱して、申し訳ございません。

ジェスク様、それから他の七神の皆様方、祖父の…転生が…何事も無く無事に終える様、宜しく御願いします。」

やっとの思いで言えた言葉に、大きな暖かい手が彼の頭の上に乗る。

覚えのある手より大きく、同じ暖かさを秘めた手。

その手の温もりに触れたハールトバムの目から、涙が溢れそうになるが敢えて我慢する。すると、再び声が聞こえる。

「ハール、アスとはまた会える。

姿は変わっていようが、アス自身は変わらない。生まれ変わっても、お前に会いたいと願っているからな。」

優しい光の神の声に自然と頷いたハールトバムは、祖父が佇む部屋を静かに出て行き、自分の部屋へと戻った。

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