第7話 全身黒の男、ダルマ!
「ぐ……はあはあ……誰か持っ……」
「持たないわよ。スカイコースはまだあなたが主人だと認識してないの。ちゃんとパートナーだと認めてくれるまで、ずーっと重いままなんだからね!」
「追い打ちをかけるな……ぜえぜえ」
めちゃめちゃ重いスカイコースを持って長いこと森の中を歩いてるんだけど、さっきから全然マラーナっぽいものが見えてこない。
本当にこっちであってんのか?
だんだん不安になって来た。
そう言えば、武器は最初みんな重いんだよな? だとしたら、ライルもこの試練に耐えたってわけか? あの臆病で弱虫で貧弱なライルが?
マジかよ。
俺はムキになって足早に歩き始めた。
ライルが耐えたんだから、俺にだって耐えられるはず。
そう言い聞かせて俺はがむしゃらに歩いた。
のだが。
「も……もう無理」
「なっさけない男ね。じゃあちょっと休憩しましょ」
「わーい! 休憩だあ!」
ライルは無邪気に笑って影になっているところに座った。
俺は物凄い勢いで倒れこむ。
っはああ……疲れた。重い。暑い。しんどい。眠い。寝たい。帰りたい。……帰りたい。
「――その剣は、マラーナ国の勇者、ライル様ですね」
寝転がっているとどこからかそんな声がした。ジュン子はすぐさま立ち上がり魔法の杖らしきものを構えた。
「……誰!?」
「だあれー? 僕って有名人? えへへ」
ライルは呑気だなおい。
「ライル様――」
その声はどこから聞こえてるのかわからなかったが、いきなり目の前のライルの隣に声の主は現れた。時間がとまったかのように、俺は動けなくなった。
こいつ、どこから――!?
声の主は全身黒といういかにも怪しい姿で登場した。しかも目が隠れていて、にやりと笑った口元だけが見えているから余計にあやしい。
ジュン子は真っ青になって杖を振った。
「死んで下さい」
「え? ふえ? わっわわ、うわあああん! 陸助けてえええ!」
泣き虫ライル登場……。
全身黒の男は剣を取り出した。そしてその剣をライルの頭めがけて振り下ろした。
「げ! ライル!」
ライルに剣が突き刺さろうとした瞬間、真っ赤な光が全身黒の男を包み込んだ。
「ダルマ! ライル様には指一本触れさせない!」
え? ダルマってこの怪しい男の名前?
ちなみに男って言うのは声的に男かなと思っただけで、本当は女かもしれないんだけど。
「っく……あなたもいたんですか、ジュン子さん」
「あんな派手なカッコしてんだから一番最初に気付くだろ」
と、思わずツッコミをいれてしまった俺。口をおさえたときには時既に遅し。ダルマという野郎と(おそらく)目があってしまった。目は見えないが、ダルマは確実にこっちを見てる。しかも口元はもう笑っていないから恐ろしい。
「あ……あなたは……」
「な、なんだよ」
「…………誰ですか」
「ぐはー!」
俺はなにを言われるのかドキドキしてたから、期待はずれな言葉に結構なダメージをくらった。
「……ていうか、お久し振りですって言ってたけど、ダルマとジュン子は知りあいか?」
「まあね。昔一度戦ったことがあるの。りんごの取り合いでね」
ただのガキじゃねえか。
「久し振りに実ったりんごをとろうとしたら、同じくりんごをとろうとしてたダルマの手にあたってね。それで戦いになったのよ」
呆れていると、ライルがものすごい速さで俺のもとまで走って来た。そしてスカイコースを持ってへろへろな俺に抱きついて来た。もちろん俺とライルは倒れた。
「んだよ! なにすんだよ!」
「うわああああん! ごわがっだよおおお!(こわかったよおおお!)」
「わかった! わーったから、はーなーせー!」
「いやだあああ! もう僕はキミから離れない! はなさない!」
「ドラマの見すぎだ馬鹿野郎! クサイセリフ言ってんじゃねえよ気色悪い!」
俺とライルが暴れている間、ジュン子とダルマは戦っていた。
御苦労さまです……俺はなにも出来ないから。
ライルのケツをぶっ叩きながら戦いを眺めていると、背中にかけてあるスカイコースが脈を打った感じがした。
……なんだ? 気のせいか?
気にせずにライルの腰をくすぐっていると、やはりスカイコースが脈を打った。今度は確実に大きく。
これはもしや……俺に、戦えと?
その問いに答えるようにスカイコースは再び脈を打った。
「おいおい……嘘だろ?」
「うひゃひゃひゃ! えひょひょひょひょ!」
腰をくすぐって大爆笑しているライルの背中にあるライグリーも脈を打っていた。
これは確実に戦えと言ってるな。
……。
……わかったよ。
「おらライル、剣を抜け! 行くぞ!」
「うわああああん!」
「泣くな! ライグリーが呼んでるぞ!」
「……む」
ライルは恐る恐る剣を抜いて見つめた。やはり脈を打ってる。しかもさっきよりも大きく。俺もスカイコースを持ってみる。脈はさっきよりも激しくなっていた。
……やるか。
「よっしゃライル! 行くぞ!」
「……うえええん」
俺はクソ重いスカイコースを持ちあげ、両手でぶん投げた。
「うりゃああああ!」
スカイコースは回転してダルマのもとへ勢いよく飛んで行く。だが、ダルマの手前でへろへろと落ちてしまった。
「んなっ……」
「陸はまだまだ修行をしないとだめみたいだね」
「うるせー!」
悔しくてずかずかとスカイコースを拾いに行く。
俺は忘れていた。
スカイコースがダルマの手前で落ちたことを。
気がつくと俺はスカイコースをとる前にダルマの腕の中だった。
いろいろ言いたいことあるけど、とりあえず一言。
気色悪いんだよばーか!
「陸!」
「うわあああん! 陸が捕まっちゃったああ! しくしく」
「ふふふ……陸、というのですか。ライル様、この方はお借りていきますよ。あなたが死ぬまで……ね」
「んだとゴルアアア! ふざけんなてめー!」
「口の悪い仲間ですね。少し乱暴かもしれませんが、少々修行をさせておきます。ライル様にふさわしい仲間になれるように」
ああ? どういうことだ? ライルに死んでもらいたいくせに、俺をライルにふさわしい仲間になれるようにするって……言ってることがおかしくないか?
「どういうことよ。死ねって言ったりライル様にふさわしい仲間になれって言ったり」
「……いずれわかります」
そう呟くと、ダルマと俺のまわりが黒い渦に包まれて、やがて俺は意識を失った。意識を失う寸前、ライルの声が聞こえた気がした。
「絶対、ぜったいに助けに行くからね! 陸――」
ああ……なんかコメディーからかけ離れているような……気がする……。
コメディーなんですけど……ファンタジーみたいになってしまいました。すみません。もともとファンタジーにする予定で書いてたものなので(開き直りやがった!)。さて、ライルに思いっきり戦わせたい真島です(反省してるのか?)。