第6話 武器だって生きてる
ジイサンが薬草とりから帰って来たらしい。行きはひどく落ち込んでいたのに、ジイサンはなぜかものすごくテンションが高かった。
なにしでかしたんだ。
「ふはははは! これでわしもフッサフサになるわい! ふぇふぇふぇ」
「あら、よかったわねジイサン」
「よかったねえオジイタマ! えへへ」
「……ここはよかったなと言っておくべきなのだろうか」
ジイサンのフッサフサ姿なんて想像出来ない。
俺だけだろうか。
やっぱりジイサンは頭のテッペンがツルツルで、周りが白髪ってのが一番ジイサンらしい。らしく生きねえと。らしくさ。
「さあて、おぬしらはなぜこの店へ来たんじゃ?」
その言葉で俺とライルは(やっと)我にかえった。
「そ、そうだった! オジイタマ、僕らマラーナへ行きたいんだけど、道がわからなくて……」
「それではあたしがライル様と男子中学生をマラーナへと案内します。いえ、させてください。あたしは一秒でも長くライル様のそばにいたいのです!」
よくもまあ、そんな恥ずかしい台詞をさらっと言えるな。
これも女王様のお力ってか?
……関係ねえか。
「ありがとう、ジュン子ちゃん!」
「あああ……ライル様があたしのことを『ジュン子ちゃん』って……幸せっ!」
「……」
恥ずかしいこと言われてんのに、ライルも平然とした顔してるし。
もしかしてライルはこんな恥ずかしい言葉を言われ慣れてるのか?
まさかな。
「それではさっそくマラーナへ出発しましょう」
「よろしくね、ジュン子ちゃん」
ライルが笑顔でそう言った。
ジュン子は満面の笑みで喜んだ。
「よろしく」
俺が笑顔でそう言った。
「では、出発!」
無視。
「あ、そうだ、男子中学生の名前と武器を教えて」
ジュン子が俺を見てそう言った。
ん? 武器?
「唐沢陸。武器は持ってない」
そう言うと、ジュン子は目を大きく開いて大声を出した。
「ええええ!? 武器なしでよくここまで来れたわね!?」
「うん」
「……あ! ライル様が一緒だったからね!」
いやライルは全く役にたってないんだが。
まあいっか。
ジュン子は納得したように笑顔でうなずくと、いつのまにか床で寝ていたジイサンの上に立って棚の上を物色しはじめた。
ひでえ……! ジイサン大丈夫かよ!?
だがジイサンはぴくりとも動かない。
……まさか、既に死……いやいやいや、ないない。それはない。
ばかか俺は! なんて不吉なことを考えてるんだ……。
思いっきり顔を左右にふって不吉な思考をかき消していると、ライルがものすごい笑顔で俺を見てひとこと、
「ばかみたいだね!」
……。
……。
……。
「よし、これがいいわね。陸……って、あれ? ライル様、どうしたんですか?」
「ううううう……なんでもないよう……痛いよう……」
「陸……あんた何したのよ」
「別に」
ジュン子になにされるかわからないから、ライルの太ももを思いっきりつねってやったって言うのは内緒だ。
ものすごく地味で、でも残酷な痛みを与えてやった。
「陸、あんたに良い感じの武器があるから、あげるわ」
武器って……俺が使うの?
「え、あ、ありがとう」
「なにお礼言ってんのよ、気持ち悪いわね」
ひでえ。
「これよ」
そう言って渡された武器は……
「ブーメラン?」
俺の慎重なみに大きいブーメランだった。
「――って、重っ!」
「ああ、使ってるうちに軽くなってくるわよ。武器も生きてるからペットみたいなもんなの。主人を信頼し、パートナーと思ってくれるようになれば、そのブーメランも軽くなるわ。ただし軽いと感じるのは主人のあなただけ」
へえ。武器って生きてんのか。すっげえな。
俺はばかみたいに重いブーメランを背負った。
修了式に荷物をいっぺんに持って帰るときの半端ない重さに似てる。
「なあ、このブーメランとライルの剣、名前ってないわけ?」
そうジュン子に問うと、ジュン子は思いだしたように手を叩いた。
「忘れてた! あんたのブーメランの名前はスカイコース。ライル様の剣の名前は……」
ジュン子はライルの背中にある剣を見て固まった。
そして悩み始めた。
どうしたんだ?
じょじょに困った顔になっていくジュン子をみて、ライルは笑顔で言った。
「あ、この剣は特別なんだ。僕の父さんが僕のためだけにつくってくれた、特別の剣。名前は、ライグリー」
そう言ったときのライルは物凄く嬉しそうだった。
こいつはきっと、父さんのことが大好きなんだろう。
ライルについて知ったことがひとつ増えたな。
「じゃあ武器の準備も整ったし、行こっか!」
「そうですね!」
「ん」
俺たちはジイサンに『マラーナへ行きます』と書いた置き手紙を残して店を出た。
しかしスカイコース重いな。