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第4話 勇者ピンチ! いやマジで!

 さて、何匹のモンスターに遭遇したのでしょう。


 俺はもう限界です。


「はあ……はあ……ライルおまえっ、剣があるんだから戦えよ!」


「だってええ、怖いんだみょん! げほっ」


 今イラっとするような言葉が入ってたな。無償にライルの顔面をハリセンでぶっ叩きたくなってしまった。


 さっきから何匹ものモンスターに遭遇しているが、ライルが剣を抜いたのは最初の一匹だけ。もうあんな怖い思いはしたくないらしい。


 本当にこいつ勇者なのか?

 何度この疑問を抱いたことか……。


「あ! あそこ見て陸! なんかお店みたいなところがあるよ!」


 ライルが指さす先には、木で出来た小さなお店があった。


「おおっ! あそこでマラーナへの道をきこう!」


 俺とライルは一目さんに店へと走った。


 だが俺の目の前を走っていたライルが、急に視界から消えた。


 ……いや、消えたんじゃないな。


 転んだ。


 ……はあ。なんてダサいんだ、こいつは。そしてなんてマヌケなんだ、こいつは。惚れぼれするほどマヌケだよな。うん。


「痛いよ……」


「はいはい、ほら立ちなさい」


「うう……抱っこ」


 俺は氷のように冷たい目でライルを見おろした。


 するとライルは一瞬にして飛び起き、


「さあ、行こうか陸!」


 と、右腕を高々と挙げて俺にそう言った。



 半泣きの笑みで。



 ということで、再び木の店に向かって走り出した俺とライル。


「すみませーん。誰かいますかあ? いたら黙っててくださあい。僕が探してみせるから!」


 なに言ってんだこいつ。


 ……ばか?


 ライルは


「うしゃしゃしゃ」


 と、ものすごく変で不愉快な笑い声を発しながらレジの裏や棚の後ろをあさっていた。


 こんな奴は相手にしない方がいいんだ。

 相手にすると絡まれるに違いない。


 よし、無視だ。


 ……ん? ライル、なんかへろへろになってる。顔も真っ赤にして、なぜか色っぽい動きで俺のところまで歩み寄ってきた。


 ものすごい。

 え、なにがって、顔だよ。


「よおー、兄ちゃあん。男前やないけえ」


 絡まれたー!


「ら、ライル?」


「ちゃうわ! おのれ、わしのことライル言うたな? ちゃうちゃう! わ・し・は"勇者"ライルやー! うえええええ」


「お前に勇者と名乗る資格はない! ……ってどうしたライル!」


「気持ち悪い……吐くでーおんどりゃあ」


 てめーが一番気持ち悪ィよ!


 ……って、


「ばかやろー! ここで吐くなー! ベンジョへGO!」


「ベンジョオ? ベンジョってこれかあ? うううう……」


「だー! やめえええええい! それは俺の足の裏だあああ!」


「んージャスミンのにおい……うっ、ニオウヨ!」


「るせー! おらおらジャスミンのにおいだぞゴルアア!」


 足の裏を思いっきりライルの鼻につけてやった。


「ぐふっ……! お母さん助けてええ! うわああん!」


「俺の足は泣くほど臭いかテメエエエエ!」


「臭いよおおおお!」


 しばらくこんなやり取りをしていたら、ふいに背後で足音がした。ぎし、ぎし、とゆっくり足音は近付いてくる。


「ああ……そこの勇者、わしがとっておいた酒を飲んだな」


 いかにもジイサンって感じの声が聞こえた。この声で美少女とかだったら笑うよな。爆笑もんだよな。ていうかその美少女が哀れだ。いや、わしとか言ってる時点で美少女じゃねえよな。……いやいや、美に一人称は関係ねえんだ!


 ……なに言ってんだ、俺。


「オジイタマ……ぐーぐー」


 寝やがったよ、ライル。


「す、すみません」


「いやいや、かまわんよ。もちろん弁償はしてもらうがな」


 あんた今『かまわんよ』って言ったじゃねえか! 全然かまわんことないじゃねえかクソジジイ!


「……ぬ。おぬし、今……クソジジイと思ったな?」


「んなっ……!」


「ふふふ……わしのことをクソジジイと思ったやつはすぐわかるんじゃよ。わしの頭のテッペンがセンサーで光りよるからな! がはははは!」


 それはセンサーで光ってんじゃなくてハゲて光ってんだよジイサン!


 おめでたいジイサンだぜ。


「ところで、弁償って……」


 恐る恐る訊くと、ジイサンはめちゃくちゃ恐ろしい笑みを浮かべた。


 ひとことで感想。

 きめぇ。


「そこのおねんねしとる勇者が飲んだ酒にはな、めったにとれん薬草が入っておるのじゃよ。育毛剤になる薬草じゃ」


 気にしてたんだ。


「おぬしも必ずハゲる……必ず……必ずな……」


 怖ぇよ!


「ハゲとはな、がんばった人に与えられる神様からの褒美なのじゃよ!」


 開き直りじゃねえか!


「じゃあなんでジイサンは毛を生やそうとするんだよ!」


「うぐっ……も、もう一度人生をがんばってみようと思ったからじゃ!」


「一度挫折したのかよ」


「ああ……ま、まあな。猫に……猫に、逃げられたんじゃ」


 ……あ? 猫?


「ジイサン」


「なんじゃ」


「人生そんなに甘くねえんだよ! 猫に逃げられたくらいで挫折してんじゃねえよ! 世の中にはな、もっともっと辛い人だっているんだよ! なんだよ猫くらい! 猫くらいいい!」


「じゃあ貴様のウチの渡辺さんをかっさらってやる! 覚えておけ若者!」


 なんで渡辺さんのこと知ってるんだあああ!

 めちゃくちゃ怖ぇよ!


「……こほん。それで? その"育毛剤になる"薬草をとりに行けばいいんだな?」


「そこは強調せんでええんじゃボケ!」


「ふっ」


「くっ」


 勝ったぜ。


「負けるわけにはいかん! ……ならば、この勇者と≪ピーーーー≫してやる!」


「ぐはあっ! や、やめろジイサン! それはだめだ!」


「ふ……ふはははは! 勇者、すまないな! この憎たらしい若者に勝つためなのじゃ!」


 ジイサンはひきつった笑みを浮かべながらぐーすか寝ているライルを抱き起こした。


「ぎゃー! ライルを返せ! ライルにそんなことはさせない!」


「なんじゃ! おぬしらデキておるのか! ……ならばなおさら」


「やめんかああああい! てか俺らは男同士なんだからデキるわけねえだろ!」


 ジイサンはライルに顔を近づけた。

 じょじょに、じょじょに、その距離は縮まっていく。


 や……っべぇ。


「ライル起きろおおおおおおおお!」


 さて、ここからはスローモーションでお送りしよう。



 *


 俺とライルの距離は布団二枚分(数字であらわすよりわかりやすいだろ?)。


 ジイサンとライルの……その……唇の距離は、消しゴムを二日間使ったくらい(ちょっと無理があるか?)。


 俺はライルに手を伸ばしながら走る。


 ジイサンはにやりと笑った。


 俺は叫び続ける。


「らああいいいるううう(スローモーションなのでこんな感じで)! おおおおきいいいろおおおお!」


 ライルが少し目を開けた。


 だが、ライルとジイサンの……あの、唇の距離は、消しゴムを使いきる一週間と二日前くらいの長さ(これは複雑すぎ?)。


 ライルはばかだ。


 この状況を把握するのには、俺の予想では『ハゲクソ変態ジジイやめろやボケ!』をゆっくり三回言ったくらいの長さ。


 そう。

 相当長いのだ。


 さて、どうする。


 このまま走ったってライルとジイサンの……く、唇はぶちゅーっとなっちまう……。


 どうする。どうするんだ俺!

遅くなってすみません!

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