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第3話 異世界へ出発!

 嗚呼……とても憂鬱だ。


「早く行こうよ、陸!」


 とてつもなく憂鬱だ。


 どうして……どうして俺がマラーナへ行かなくてはならないのだ!


「なぜだあああ!」


「ブルーラムネとか、いろいろ買わなくちゃいけないから、早く行くよ!」


「一人で行けよ!」


「やだよ! マラーナに行く途中はモンスターがたくさん出る森を通らないといけないんだもん!」


 あんなにたくさんあったブルーラムネを、俺が飼っている黒猫の渡辺(わたなべ)さんに与えすぎて、もう少ししか残っていないというのだ。


 なんで基調なアイテムを猫に与えるんだ、この馬鹿! しかも、どうやら渡辺さんは、体力を回復するためのブルーラムネを気に入ってしまったらしい。


 ……はあ。仕方無いか。


「しょうがないな……まったく。ほら行くぞ」


「わあい!」


 万歳をしながらジャンプしているライルの服を引っ張って外に出た。だが、すぐに肝心なことに気がつき、玄関前で立ち止まる。


 そ、そう言えば……


「マラーナも、モンスターが出る森も……異世界?」


 どうやって行けばいいのかわからない。


「異世界だよ。とりあえず爺婆公園(じいばあこうえん)に行って!」


 爺婆公園とは――近くにある、まどろむためだけに造られた公園だ。よくお年寄りの方がベンチに座っている。


 あそこに行ってどうするんだ? あんなとこ、なにもないだろう。


 だけど仕方ないから爺婆公園まで向かうことにした。



 *



 爺婆公園には、二人の老夫婦(だと思う)がいた。その二人以外には人がいる様子はない。


「さて、これからどうするんだ?」


 そう問うと、ライルは背中の剣を抜き、空に掲げた。


平家(ひらけ)、飼い猫の名はゴマ!」


 開けゴマをちょっといじっただけの呪文かよ……。


 だがダサい呪文とは不釣り合いな、やたらとデカイ羽根つきのドアが現れた。


 すっげ……。


「じ、爺さん! あれは一体なんじゃ!?」


「おおお……ついにわしらにも迎えが来よったんじゃ……」


「爺さん……」


「婆さんや……」


 背後で老夫婦のそんな会話が聞こえた。恐る恐る振り返ると、手を繋いで見つめあっている二人が視界に入った。


 ……。


「さあ行くよ、陸!」


「お、おう」


 ライルが俺の手を引いて、ドアを開けた。物凄い光が放たれる。


 うおお……まぶしい……。


 俺はライルに手をひかれて、光のなかへと入って行った。だが、まぶしすぎてなにも見えない。ただライルの手に触れている感覚があるだけで、地面に足がついている感覚がない。


 浮いてるのか?


 恐る恐る下を見てみるが、やはりなにも見えなかった。唯一見えるのは光だけ。


 しばらく目を瞑っていると、地面に足がつく感覚がした。


「ついたよ! ここが僕の住んでいた異世界!」


 ゆっくりと目を開いていく。目を完全に開くと、そこはなんの変哲もない、ただの森だった。ただ、ひとつだけおかしなことがある。


「……なあ」


「ん?」


「あれ、なんだ?」


 鳥のような、でも鳥とは言えない、怪物のような……変な生き物が飛んでいた。


「ああ、あれはモンスターだ……ね……」


「……」


「こっちに……むかって来て、るよね……」


「こっちにむかって来てる……な」


「あれは……獲物を見つけたときの目だよね」


「どんな目だ……」


「あんな目だよ……」


 ライルは空を飛ぶ鳥のようなモンスターを指差した。


「逃げろおおおおおお!」


「うわああああああん!」


 こんなさっそく現れなくてもいいじゃねえか! 少しくらい異世界とやらを満喫させてくれたっていいじゃねえか! 神様のばっかやろーう!


「れ、連雷斬!」


 ライルが剣を抜いてそう叫んだ。剣は雷をまとった。そしてその剣を振りまわすようにライルが連続斬りをする。するとモンスターはダメージを食らってその場に倒れた。


「う、うりゃあああ!」


 半泣き状態のライルが、モンスターにむかって走っていく。


 って、なんで半泣きなんだよ! お前はダメージ食らってないだろボケ!


「怖いよう! お母さああん!」


 ライルはそう叫びながらモンスターに剣を振りおろした。


 ……幼稚園児か。


「ぐふうっ」


 モンスターは変な呻き声を上げて消えた。


「やったなライル!」


「う、うん! しくしく」


「泣くな! モンスターって死ぬと消えるのか?」


「しょうだよ……めそめそ」


「……」


 臆病な勇者の面倒をみるのは疲れる……。





「なあライル、どのくらい歩けばマラーナに着くんだ?」


 泣きやまないライルの手をひきながらそう問うた。


「わかんにゃい……」


「……え?」


「僕、モンスターから逃げて道に迷っちゃって、陸の世界に行っちゃったんだ。だからどうやってここに来たのかわかんない……」


「……てことは、お前、マラーナの場所……わからないのか?」


 立ち止まる。沈黙が訪れた。ライルを見ると再び涙が復活していた。涙腺ゆるっ!


「わかんない……」


「ごるあああああああ!」


「うわああああ! ごめんなさあああい!」


 俺、異世界の森で飢え死になんて絶対いやだぞ!


「お母さああん!」


 渡辺さあああん(猫)!

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