第1話 日曜日の災難
夢でも見てるんじゃないかと思った。たった今目の前で起こっていることが信じられなくて、何度も何度も自分の頬を叩いたりつねったりしてみる。痛みを感じるからどうやら現実のようだ。
……現実。これが?
「お願いだよう! 僕をどこかに隠してええ」
涙ぐみながら俺の目の前で土下座してそう叫んでいる奴は、なぜかRPGに出て来る勇者のような格好をしていて、なぜか自分のことを『勇者のライル』と名乗った。そして泣きながら『マラーナと言う国から逃げて来たんだ! 今モンスターに追われてて……。ど、どうか助けて下さい!』と言って来た。
マラーナなんて聞いたことないな。えっと、モンスターって言うのは、あのRPGとかに出てくるモンスターのことかな? いやいやいや、それはありえない。絶対ない。……じゃあ、モンスターと勇者とマラーナと言う国をどう説明出来る?
……説明なんて出来ない。
だって、この世にはモンスターも勇者もマラーナと言う国も存在しないのだから。
ライルは俺の腕にしがみつき、意味のわからない言葉を発しながら泣いている。ところどころで『モンスター怖いよう。めそめそ』と聞こえるのは気のせいか。
「……よくわかんないんだけどさ、取りあえず俺は一体なにをすればいいんだ?」
「ぼ、僕を守って……」
「……」
「……しくしく」
腕にしがみつくライルの目をごしごしと拭っていると、どこからか犬が唸るような音がした。その瞬間ライルは一瞬びくりと体を震わせ、硬直した。
ん……まさか……。
俺はおそるおそると視線を横に向けた。するとそこには、俺の勉強机の上に乗っているピンク色の変な生き物がいた。
な、なんだあれは!
「モモモンスターだよ!」
「ぬわにいいいいい!?」
自称勇者は一般人の俺の後ろに隠れ、俺に指示を出す。
「さあ、戦って!」
ふざけるなあああああああ!
「一般人の俺にどうやって戦えって言うんだよ! 俺は一般人だぞ、一般人! しかもまだ中学生だ! 中学二年生! やっともうすぐ中三になるって言う若造なんだよ! そんな俺にどうやってモンスターに立ち向かえと!? え!?」
「こ、怖いよ……」
怒りをなにかにぶつけたくなった俺は、一番近くにあったピンク色のクッションにパンチを食らわした。だがそれはクッションではなく、モンスターだったと言うオチなんだけど。
……。
…………え。
「のわああああああ!」
「うわわわわ! モンスターを殴るなんてなに考えてるんだよう!」
「知るか! て言うかあんた勇者だろ!? 倒せよ!」
「無理だよう! 怖いもん!」
「ふっざけんなてめえええええ!」
「ひいいいいい!」
今日はせっかくの日曜日。ゆっくり出来る日なのに、なぜか俺は今、自分の部屋で自称勇者ライルといっしょにモンスターから逃げ回っている。
なんてついてないんだ……。
部屋中を駆け回っていると、勇者の背中に大きな剣があることに気がついた。かなり洒落たかっこいい剣だ。
こいつ……なぜそれを、つ・か・わ・な・い・ん・だ!
「おいライル! 剣を抜け!」
ライルの背中を指差しながらそう叫んだ。
「嫌だよう! 君がやってよ!」
モンスターの口から群青色の光が放たれた。
な、なんなんだあれは!
「無理に決まってんだろボケ! て言うかあの群青色の光はなんだ!?」
「ボケじゃないもん! 勇者だもん! んでもってその光は毒だから当たったら死ぬかもね!」
ライルに向って突進する。
「それを早く言えええええええ!」
「うわああああ! 怖いよおお!」
見た目は俺と同い年のように見えるが……どうしてこいつはこんなにガキなんだ? こんなんが勇者でいいのかよ、まったく。
そんなことを思っている間にも、じょじょにモンスターは迫ってくる。とは言っても、ここは俺の部屋だし、さほど広くもないからすぐに追いつかれるのだけど。
ライルは真っ青になって震えている。
こいつ、どうにかしないとな……。全然勇者らしくない。
俺はライルの腕を掴んで俺の前に立たせた。
「さあ勇者よ! 戦え!」
「うわああん!」
無理やり剣を抜かせて、構えさせる。おお、なんか様になってんじゃん。勇者っぽいじゃん。震えてるところが惨めなんだけどな……。
モンスターは目をぎらつかせながらライルに近付く。
「ま、魔風神!」
両脚をがくがくさせながらライルはそう叫んだ。すると剣に風がまとわりつき、ライルが剣を大きく振るとその風がモンスターに向かって飛んで行った。そしてそれはモンスターを切り刻んだ。
すっ……げえ。
「お、お前すげーじゃん!」
「ふ……ふははあ。みじん切りにしてやったぞ!」
みじん切りて……。
「ま、まあ、ともかく、勇者っぽかったよ! お前強いじゃん!」
ライルは頬を染めて俺を見上げた。
「これからもその調子でガンバ! さあ、マラーナへ帰れ!」
「うわあああん!」
こうしてライルは、なぜか俺の家に寝泊まりすることになった。
なんでだよ!
やたらと会話文が多くなってしまいました……すみません。評価やアドバイス待ってますので、よろしくおねがいします!……ちなみに『勇者、只今逃走中!』は最初、ジャンルはファンタジーにする予定でした。