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クロノブレイク0~可哀想な小山田くんの話~  作者: えんぴつ堂
狂戦士
8/25

イレギュラー

 ------------------------------------------------------ 

 やっと、見つけた精霊の国への扉が向こう側から破壊された。


 お陰で、このエルフの首都から姉さんを追うことが不可能になってしまい途方に暮れたが嬉しい誤算もあった。


 それは、リリィとの精霊契約を完璧なものにする事が出来たからだ。


 これで、姉さんの今までの詳細や次の目的地など精霊だからこそ得られる情報が手に入る!


 少々高くついたが、魂を3分の1消費した甲斐があったというもんだ!


 姉さんの情報を人通り確認した僕は、ずっと気になっていた事をリリィに尋ねた。

   


 『それと、後一つ』


 『何でしょう?』


 『僕と一緒に、この世界へ来たはずの小山田についてだ』


 リリィが沈黙した。


 『どうした?』


  僕の質問に、明らかに動揺しているのが伝わる。


 『…申し訳ありません…何のことでしょう?』


 今度は、僕が動揺する番だった!


 『…何って…あの時僕と一緒にいた奴だぞ?』


 動揺を隠せない僕に、リリィがとまどう。


 『確かに、あの日ご主人様と一緒にいらした? ええ…覚えておりますが…』


 『だったら!』


 『ご主人様が、この世界へお渡りになった時…私は気を失っておりました…あの時『魔方陣』が発動したのは一重に『意思の力』』


 『意思の力? 何だソレ? 火事場の馬鹿力って事か!?』


 『それは何とも…ただ言えることは…』


 リリィは言葉を詰まらせた。


 『構わない言え!』


 『精霊契約をしていない者が、あの空間を無事通り抜ける事は出来ません…勇者様でもない限り…恐らくは死んでいるかと』


 それは無い!


 少なくとも小山田は、生きてたどり着いているはず…でなければ…!!!



 「ヒガ? どうした? 怖い顔して…美人が台無しだぞ?」


 振り返ったガイルが、聞き捨てならない事をいった気がしたが僕の耳には届かなかった。


 「…なんでも…ない」


 煮え切らない疑問が渦巻き、珍しく大盛りに盛られた炊き出しに喜ぶことも出来ず只栄養を取る為に口に流し込んだ。

 ------------------------------------------------------








 「わりぃ、先行ってくれ!」

 

 「はっ? コージ!?」


 ボクは、敵に向って駆け出した背中を呆然と見つめた。


 意味が分からない!


 今にも壊れそうなくらい脆い体に魔力もなにも無い癖に、自分一人でどうにか出来ると思っているの?

 

 「っもう!!!」


 猛然と向ってくる、コージにリーフベル、メイヤは魔法による総攻撃を開始した!


 「ファイヤーランス!」

 「ダイヤモンドミサイル!」


 効果が無い事は分かっているはず…コレは悪魔で時間稼ぎに過ぎだ!

 

 その証拠に、二人の背後でカランカが泣きじゃくる勇者を抱いたまま折れた大剣を構える。


 もう直ぐ、カランカの間合いに入る。


 一切魔力を使わず純粋な剣技による一撃!


 魔力による攻撃を一切受けないこのコージと言う名の謎の種族は物理攻撃には弱いと彼女なら気づいてる!


 「ライトニングレイ!」


 リーフベルが、空に向って手を突き上げる!


 カッと空が光り、まるで雨のように光の粒がコージに向って降り注ぐ!


 「どわっ! いてっいててっばよ!!」


 一粒一粒が凝縮された高濃度の光属性の魔力の集合体で、触れれば肉を溶かし骨をも貫く威力だと言うのにそれをまるでゴミでも叩くように払いながら前進するコージ。


 「化け物…!」


 「用意はいいれちか! カランカ!」


 呻くカランカにメイヤが視線を送りそれに頷く。


 「ウォールミスト!」


 メイヤが、詠唱すると辺りが何処からともなく濃い霧に包まれる!


 「うお!? 何だよコレ!?」


 突然辺りが一寸先も白く見えなくなった事に、コージはうろたえ足を止め立ち尽くす。


 白い霧に赤子のような鳴き声が響く。


 コージは『マジですか!?』とか『眼鏡超曇るんですけど!!』などと、悪態をつきながらそれでもどうにか前に進もうと足を動かした。


 今だとばかりに勇者をリーフベルに預け、カランカは地を蹴る!


 濃い霧の中、魔力を一切発しないコージの位置を捉えるのは剣士としての経験から来る予想と勘!


 白い霧に揺らめく黒に折れた大剣が振り下ろされた。


 ズパン!


 黒い影の胴から首が飛ぶ。


 「________なっ!!」


 が、手ごたえが明らかに違って彼女はうろたえる!


 そして、背後に気配を感じ_______バチッ!


 背中から突き抜けるような電撃に、彼女は膝から地面に崩れ落ちる。


 「君にこんな事、出来ればしたくなかったんだよ…」


 彼女の意識が飛ぶ寸前に聞こえた何処か悲しげな声。


 「何故だ…? アタシは 声 知って____」


 地面に崩れ落ちた彼女。


 …お陰で、ローブとお気に入りの枕が使い物にならない。


 「はぁ…コージ…全く世話が焼けるな…弟がいたらこんな感じなのかな…?」


 ボクは、一寸先も見えない白い霧に耳を立て鼻をひくつかせる。


 「あっちか…」


 その方向からするコージの匂いに向って、ボクは小走りで駆けて行った。


 

               ◆◆◆




  うぎゃぁぁぁぁぁん!!!

         うぎゃぁぁぁぁん!!



 真っ白な霧に、赤ん坊の泣き声が響く。


 「~~~何も見えねぇ!!!」


 俺は、自分の腕をぶんぶん振り回しながら取り合えず前に進む。

 

 もう自分が、どの方向から来たのかさっぱり分からない!


 …もしかした、らとんでもなく見当違いな方向に向って歩いているのではないかと心配になる。


 泣き叫ぶ赤ん坊の声は、物凄く近くに聞こえる気がするがどう言う訳か方向がハッキリしない。


 確かに普段物音のみで方向を判断するなんて事滅多にないし、こんな深い霧だって始めてだからなぁ…。


 兎に角、適当に腕を振りまわ_________んう?


 振り回していた右手が、何かさらりとした物に触れる。


 「ふえぇ!?」


 すると、可愛らしい声と共に突然今まで立ち込めていた霧が嘘のように晴れ辺りがくっきりと浮かび上がる。


 「え!?」


 「なん_____!?」


 「うきゃっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」 


 霧が晴れ、俺の視界が捕らえたのは手の平に絡む銀色の美しい綿毛のような髪と泣き叫ぶ赤ん坊を抱き驚愕の表情を浮かべる緑。



 あっ…どぉーもー。 


 固まる三人、泣き叫ぶ赤ん坊。


 「あっ…あっ…!!!」

 「そんな! 何の気配もしなかったのに!?」 


 赤ん坊を抱くリーフベルが驚愕の表情を浮かべ、背後からなので表情までは分からないがメイヤはガタガタと震える。


 「め メイヤを放して!」


 リーフベルが、少し距離をとりながら臨戦態勢を取る。


 その表情は正に、人質に取られた仲間を助け出さんとする決死の表情________って!


 「貴方の事は少なくとも悪い存在じゃないと思っていたのに!」


 まるで、信頼していた者に裏切られたように涙を溜める美しい瞳。


 え"?

 何コレ?

 もしかしなくても、俺_______!?


 「完璧悪役だよ、コージ」


 リーフベルの背後でふとましい影が、不機嫌そうに呻く。


 「な…!」

 「おっと、動かないで」


 レンブランは、背後からリーフベルうなじを掴む。


  「ボクの魔力なんて、君たちに比べたら弱いものさ。 だけど様は使い方でね、この神経の集まる首の辺り…ここに圧縮した雷撃を加えれば君の首から下を使い物にならなくする事くらい簡単なんだよ!」 


 「ひっ!!」


 まるで、昆虫を解剖する少年のような笑みを浮かべるレンブランとは対照的に身動きを封じられたリーフベルの顔に恐怖が浮かぶ!


 うわぁ~…レンブラン超楽しそう…べっ、別に羨ましくなんか無いんだからね!!


 「さ、コージの望みは君の抱えている勇者だ…あの子を殺されたくなかったら渡して貰おうか?」 


 レンブランの冷たい声が、リーフベルを更に追い詰める。


 「黒髪のあんしゃん」


 メイヤは、自分の髪を掴む黒髪の少年に話しかける。


 「わえわえは、魔王を倒す為女神様によってえやばえた守護者でち! 勇者はこの世界の希望! そえを奪うのがどーゆー事か分かってまちか?」


 その言葉に、俺はようやく自分のしでかしているこの状況を把握した。


 この三人の女は、この世界を救う為旅する言わば『勇者一行』これから様々な試練を乗り越え魔王を倒さなければならないだろう。


 かと言って、レンブランの妹を殺そうとしたり窓も無い部屋にこんな小さな子を入れとく理由にはならないが…もし、そんな世界の運命を賭けた冒険の途中に勇者がいなくなったら?


 間違い無く、このイズールとか言う世界は困った事に…つか、滅ぶよね?


 「うん、コージの突飛な行動には驚かされるよ…まさか勇者を誘拐しようと思い立つなんて! ボクにはとても出来ないや」


「誘拐って…まあ、そうなるのかな? …そう言う割りに、かなり貢献してるぜ? お陰で俄然此方が有利ですw」


 俺とレンブランの会話に特に反発するでもなく、沈黙するメイヤとリーフベルに対して赤ん坊は相変わらず俺のほうに手を伸ばし力の限り泣き叫ぶ。


 「ふふ…君たちさ、時間稼ぎのつもりなら諦めなよ? あの女剣士ならほら向こうで伸びてるからさ」


 顎でしゃくって見せる方向に目をやると、そこには折れた大剣を握り締めたまま地面に横たわるカランカの姿が見えた。


 「そ そんなっ!!」


 その姿を目の当たりにしたメイヤは、銀色の髪を震わせる。


 ソレは怒りなのか恐怖なのは背後からでは分からないが、メイヤの表情を見ることの出来たリーフベルはいよいよ青ざめる。


 「あ 大丈夫、死んでないよ! 気を失ってるだけだからね!」


 「っ…おまい達…!」


 メイヤが、肩を震わせ声を押し殺す。


 「そんな顔しないでよ、ボクとしてはガリィに手を出さなければ君等も勇者の事もどうだって良いんだけど…コレばっかりは…」


 緑色の瞳が『どうする?』っと、聞いてきた。

 

 ゾクッっと、俺の背中に甘美な痺れが伝う。


 ふは…何コレ?


 まるでこの場を支配したような高揚感!



 震える銀髪の幼女に、恐怖に引きつる僧侶、圧倒的な魔力と身体能力をもつ彼女達の命は何処にでもいるような平凡な少年に握られている。


 「わかった…勇者をあなたに…!」

 「リーフベル!!?」


 レンブランにうなじを掴まれたままリーフベルは、赤ん坊をそっと地面に降ろす。 


 俺は、もう少し虐め足りない気持ちを押し殺しメイヤを開放して赤ん坊に駆け寄る。



 「うぎゃぁぁん! うに"やぁぁうぅぅぅ…」


 「よーし! 泣くな、怖かったなぁ~」


 抱き上げ、軽く背中を叩くと赤ん坊は嘘のように泣き止む。


 その様子を見ていたリーフベルは、訝しげに眉を潜めた。


 「相変わらず良い感…いや洞察力がいいのかな?」


 背後で獣人が喉を鳴らす。


 もはや、りーフベルにはレンブランの話など耳に入らず食い入るようにお少年と勇者を見比べる。

 

 「大方、君の予想は当ってるし仲間の事が無くてもコージに勇者を渡したのは正しいよ…ボクとしては迷惑この上ないけどね!」


 「ああ! そんなっ…!」


 既に、レンブラン手から開放されているにも関らずその場に立ち尽くし言葉を失うリーフベル。


 「永久の輪廻を歩む勇者と言えど、再生されてしまえば外見や基本的な組織はその再生させた種族に既存する。 まぁ、かなり変質してるみたいだけど結論から言えばあの子を成長させることが出来るのは同じ種族であるコージだけだよ」


 「ウソ!!」


 「ボクも、こんなの初めてのパターンだからびっくりしたけどさ! なんせあの子の『主食』はコージみたいだし、だから…今にもナイフで襲い掛かろうとしてるあの小さい娘は止めたほうが良いよ?」


 しれっと、レンブランが指を指した先にはこれぞチャンスとばかりにナイフを構えたメイヤが赤ん坊に気をとられた少年の背後に迫っていた。


 「メイヤ! ダメぇぇぇ!!!!!」


 リーフベルが叫ぶと同時に、地面を蹴ろうとしたメイヤの足に地面から植物の根のような物が飛び出し絡む!


 「リーフベル!? 何するれち!?」


 「うお!? なんだ? 仲間割れか!?」


 しゅるしゅると植物の根で拘束されていくメイヤに、状況を飲み込めない俺は慌てて距離をとる!


 「誰の所為でこんな事になったと?」


 仲間割れか? 


 などと、的外れなことを言うこの謎の少年をリーフベルは睨みつける。


 彼は一体何者で、何処から来たのか…勇者を再生させ魔力を一切持たず魔力を一切受け付けないという事意外に詳細は一切不明だがコレだけは確かな事がある。


 認めたくない。


 認めたくないが、コレは紛れもない事実だ。


 今、この瞬間。


 世界の運命が、唯一勇者を成長させる事の出来るこの少年に握られていた。


                ◆◆◆



 う~ん…コレってどういう状況だ?


 木の根に絡まれ身動き取れず、悪態をつく魔女っこ幼女。

 地面に倒れピクリとも動かないセクシーダイナマイツな剣士。

 今にも爆笑しそうなのを堪える隠れドSの獣人。

 そして、俺を睨みつけながら幼女を拘束する植物の根を操っているだろう僧侶エルフ。


 「世界の運命を握った感想は如何ですか?」


 リーフベルは、丁寧な言葉を使いつつも其処には言い表せないような怒りを織り交ぜた。


 は? 世界の運命? 何言ってんの?


 「どーゆー事れちか!?」


 身動きの取れないメイヤの問いは、リーフベルの表情を更に硬いものにした。


 「貴方の目的は何? どうして、こんな事をするんですか!?」


 「はぁ? 目的?」


 まるで、詰め寄るような問いに俺は混乱する。


 「貴方のした事は世界を滅ぼしかねない程の危険に晒しています! とぼけるんですか!?」


  怒鳴ったリーフベルの声に、ようやく泣き止んでいた赤ん坊が今にも泣き出しそうな顔する。


 「お前等なぁ~世界がどうとか、そんなモンの為にレンブランやガリイちゃんを殺そうとしたりこんな赤ん坊をまるで物みたいに扱うとか! そっちの方がどうかしてんじゃねーのか!?」


 「『そんなものモノ』 …? この世界には、何千何万という生命が息づき循環しているんですよ? それらを守る為、脅威を除くのは当たり前じゃないですか!」


 リーフベルは、さも当然のようにまくし立てる!


 まるで、話にならない。

 この世界の連中とは、分かり合える気がしねぇ!!!!


 「じゃぁ、お前は世界を救う為に自分の家族とか大切な人を差し出せとか言われたらそうするのかよ!」


 俺の問いに、リーフベルは口ごもる。


 そーだ、そーやって少しは人の身になって考えてみろ!!


 「そーゆー、あんしゃんには何か考えがあるんれちか?」


 スパンっと音がして、木の根が切り刻まれ拘束されていたメイヤはローブに付いた土を払いながら立ち上がる。


 いや、無いけど?


 俺は、咄嗟に出掛かった言葉を飲み込む。


 「もし、今ここで狂戦士を倒しておかなかったら勇者様は完全体になれないし仮に魔王を倒しても輪廻に戻らりてしまっては誰も狂戦士の暴走をとめらえないれち!」


 はぁ?


 何言ってんだコイツ?


 俺は、耳を疑った。


 「お前、今なんつった?」


 「何がれちか?」


 メイヤは、俺の問いに訝しげに眉を寄せる。


 「勇者が魔王を倒して…何だって?」


 「…? 魔王を倒せば勇者様は輪廻に戻られるれち! ましゃか、あんしゃんそんな事も知らんれちか?」


 信じられないと言う表情を浮かべるメイヤを尻目に、俺はレンブランのほうを見る。


 レンブランは、俺の無言の問いにゆっくりと頷いた。


 視線を落とすと、腕の中の赤ん坊はいつの間にか寝息を立てている。


 「勇者は…この赤ん坊は、魔王を倒せば……死ぬのか?」


 「そうだよ」


 いつの間にか俺の直ぐ隣に移動したレンブランが、その問いに答える。


 「その子が、完全体になって魔王を倒せば外観を模った器は壊れて元の『在るべき所』へ帰って往くのさ…ボクらの死の概念とはかなり違うけど」


 「そんなっ!」


 「本来、勇者は魔王との決戦までの道のりの大半を従者に守られながらあの封印結晶の中で過す…そして、この世界を構築する7属性の精霊獣を倒しその力を吸収して『完全体』になる」


 其処まで言うとレンブランは拳を握り締めいつも浮かべる温和な表情とは一転、憎悪に満ちた瞳でリーフベル、メイヤそして寝息を立てる赤ん坊を睨みつける。

 

 「ガリィの事だって、君等にとっちゃこの勇者の糧でしかないんだろう?」


 レンブランのふとましい腕に小さな稲妻がバチバチと火花を散らす。


 「そんな事…」


 「そりの何処がいけないでちか!」


 何事か答えようとしたリーフベルの言葉を、メイヤが遮る!


 「あの獣人は、もう元には戻らんれち! どんな方法を使ったか知らんれちが、そんな方法では長くは持たないれち! いっそ殺してやったほうが_____」


 「黙れ!!」


 怒りに身を任せ地面を蹴ろうとしたレンブランの肩を、俺は素早く掴んだ。


 「放せ!」

 「レンブラン、俺決めたよ」


 俺は、血走ったライトグリーンの瞳を真っ直ぐ見つめる。


 「勇者、マジで誘拐するわ!」


 少年の黒い瞳に、驚愕の表情を浮かべる獣人の姿が映った。




                ◆◆◆




 「「な!!」」


 俺の言葉に、外野の二人がハモる。


 「コージ…本気なの?」


 レンブランの瞳が揺れ、ようやく搾り出した声で問う。


 「そんな事したら、世界は滅ぶよ?」


 「滅べば良いんじゃね?」


 俺は、事も無げに答える。


 「貴方!! そんな事が許されると______」

 

 「黙れよ」


 キャンキャン吠えるエルフの言葉を遮り、睨みつけて黙らせる。


 「何が世界の為だ…聞いてて頭に来るんだよ…!」


 俺の腸は煮えくり返っていた。


 正直、こんなに頭にキたのはクリア寸前のゲームのセーブデータを従兄に消された時以来だろう。


 「…何で、世界を救う為に勇者が死なねばならない? どうして、ガリィちゃんが狂戦士だからと殺されなきゃいけない? …他の誰かが平穏無事に生きる為に誰かの犠牲が当たり前なんて俺は認めねぇ!」 


 俺は、ポカンと呆けたように俺を見ているリーフベルとメイヤから視線をレンブランに戻す。


 「レンブラン、良かったら俺と一緒に来ないか? 俺とレンブラン、ガリィちゃんに赤ん坊4人でさっ、比嘉と霧香さん探しに行こう! つーかお願いします!」


 「コージ…君って奴は…」


 レンブランが呆れたようにため息をつく。


 「自分がどれだけ無茶な事言ってるか分かる? まるで子供じみてる…滅べば良いなんて、勇者を攫うなんて、『世界』に対する戦線布告もいい所だよ!」


 『けど…』っと、レンブランの険しかった表情に笑みが浮かぶ。


 「…最高だよ、コージ! 今でのどんな瞬間より!」


 「ほっ…よかったぁぁぁ! 断られたらどうしよう思ったぜ~」


 俺は、玉のように吹き出た冷や汗を吹く。


 ここで、断られてたら恥ずかしすぎて死ねる!


 てゆーか、別のリアルな問題こんな世界で俺一人とかガチで死ねる!


 「まっ、コージの仲間を探すってのは最初にボクが言い出した事だし行かないなんて言ったらコージなんてこの世界じゃ生き残れないもんね!」


 「あはっw ごもっともです」

 

 こりゃ、当てにしてたのばれてますよね。


 「さ、何がともあれ先ずここから逃げなきゃね!」


 レンブランと俺は、既に臨戦態勢に入った勇者の従者達を見据えた。


 さて、どうしたもんかね…?


 「逃げられると思っているんですか! 先程は不意を突かれましたが、私達とあなた方では実力が違います! 諦めて下さい!」


 「テラワロスw! そーいう事言うのは、鼻血を拭いてからにしなっての! この腐女子が!!」


 俺の言葉に初めて鼻血に気づいたリーフベルが、『ひゃう!?』っと手で鼻を覆う。


 つーか、さっきの俺とレンブランの会話で何でそこまで萌える事が出来んの?



 腐女子パネぇぇぇ!!


 「リっリーフベル!? 何があったんれちか!? あんしゃん! 一体何をしたれちか!!!!!」


 メイヤは、滝のように鼻から血を吹き膝を着く仲間の後頭部をトントンしながら俺を睨む!


 「腐腐…俺はそいつの心の扉を開いたまでさ…キラッ☆」


 「ココロノトビラ? 何ソレ! 一体なんの呪いなの!?」


 レンブランが、興味津々に瞳を輝かせる。


 「いやぁ…実はあのおん_____」


 「いっ! 言わせません!!! タイダルウェーブ!!!!」


 手で鼻を押さえたまま、リーフベルが魔法を放つ!

 すると雨なんていない筈なのに、まるで空間から突然現れたように細かい水の粒が現れ一気に凝縮されたかと思うとまるで大きな津波のように俺たちに襲い掛かる!


 俺は当然のように、寝ている赤ん坊をレンブランに預け津波に対峙する!


 ゴブシュゥゥゥゥウゥゥッゥ!!!!


 巨大な津波は、俺の眼前で放射状に裂けそれ以外の周辺は木の根すら残さず押し流された。


 「はぁ はぁ…押し流す位は出来ると思ったんですが…!」


  衣服すら汚れの無い俺たちを凝視して、リーフベルが苦悶の表情を浮かべる。


 「化けモンれち! せめてカランカがいれば…!」


 メイヤが呟く。


 っか、こんな派手な攻撃しやがって!


 もし、避けた魔法が放射状に飛散しなかったら剣士は今頃流されて木に突き刺さっていただろうに!


 まっ、何がともあれ時間稼ぎは十分だ。


 全くもって、良いタイミングというか少女達の背後に迫る白い影をちらりと見る。


 俺に、気を取られている少女達はその迫り来る脅威に気付く素振りは無い。


 ソレは、ある一定の距離に近づくとその牙だらけの口ばしを大きく開けた!



 「撃ってコッカス!」



 レンブランの激が飛んだ! 


 ピキャァァァァァァァァァァァァァア!!!


 「な!?」


 メイヤが振り向いたときには、空間に展開された魔方陣を突き抜け何倍にも膨れ上がった石化光線が眼前に迫る!


 「メイヤ!!」


 白い閃光が直撃する瞬間、リーフベルがメイヤの腕を掴む。


 メキッ!

  パキッパキッ!!


 閃光が直撃した周囲をまるで殻が張るように岩が張り付き、徐々に二人の姿を覆い隠していく…やがて大きな半円形の岩の塊が形成された。


 「おい! あれ、ヤバくねぇ?」


 「大丈夫、咄嗟に結界を張ったみたいだから…あの位じゃ時間稼ぎが関の山だよ」


 レンブランは、微笑みながらクルルルウルル…っと喉を鳴らすコッカスの顎から伸びる赤いひだひだを撫でながらすぐ側に形成された岩を眺め


 「この程度の事で魔王をどうにかしょうだなんて、笑えるよね」


 っと、ごく小さな声で呟いた。


 怖っ!

 レンブラン目が笑ってねぇ!


 「さ、突破されるのも時間の問題だし取り合えずここから離れた方がいいね」



 此方に向かってレンブランが手招きし、コッカスに乗るように__________



 『させませんよ』




 ソレは、まるで空間に響くような不思議な声だった。




 「あ れ?」



 足を一歩踏み出した。



 その瞬間、なんの脈絡もなくそこは______。



 「『そこは、真っ白な空間だった』だと?」



 見渡す限りの真っ白な世界。


 果てが見えない。


 可笑しいよね? 俺さっき迄森に…。


 「コージ」


 直ぐ傍にいたレンブランが、抱いていた赤ん坊を俺によこす。


 「ごめん、ちょっとお願い…あとリュックも」


 「ああ」


 真っ白な空間には、俺とレンブランそして赤ん坊の三人しかいない。


 …コッカスや岩の中に閉じ込められた二人も背後で倒れていた女剣士もいない。


 「コレって…?」


 「コージ、ボクから出来る限り離れて!」


 レンブランはそう小声で言うと俺に背を向け、突然に声を荒げた!


 「そこにいるんだろ! 出て来なよ!」


 その声は、白い空間に波紋のように木霊する。



 『ふふふ…』



 まるで、包み込むような優しげな微笑がかえりふわりと真っ白な空から輝く羽が降って来た。



               ◆◆◆




 ボクは、コージを出来るだけ離れるように促した!


 こんな隠れる所も無いような平坦な場所で無意味な事は分かってる!


 でも!


 真っ白な空から降り注ぐ羽が、ボクの頬を掠めるとジュっと音を立てて肌を焼く。


 「いつもながら迷惑な羽だね」


 ボクは、この迷惑な羽の主に話しかけた。


 『やはり、アナタでしたか…』


 降り注ぐ羽が、風を巻いて集まり飛散する。


 そこに現れたのは、一人の女。


 真っ白な肌、赤い宝石のような瞳に地面に付くほどの白銀の光を放つ美しい髪を素肌に巻きつけるように纏う。


 そして、その背中には六枚の翼_______。


 「久しぶりだね…いや、始めましてかな?」


 ボクの言葉に、赤い瞳は微かに揺れる。


 『諦めなさい…アナタがどんなに足掻こうと理は覆らない』


 「そうかな? 今回は、かなり良い線行ってるよね? そんなに焦った君を見たのは初めてだよ…クリス?」

 

 ボクに名前を呼ばれると、まるで苦虫でも噛み潰したようにクリスは眉を潜めた。


 「何を驚いているんだい? ボクは全て覚えているよ? もう何千回も繰り返してきた事じゃないか?」


 『イレギュラーめ…!』


 赤い瞳が険しい眼光でボクを睨み、鈴を震わせるような低くも美しい声が呻いた。



 「うぅ…あぅぅ」


 「しーしー! 良い子だから泣くな~」


 突然、ボクの背後で少し距離を取っていたコージに抱かれている勇者がぐずりだす!


 その声に反応し、それまでボクに気を取られていたクリスの視線がついに勇者を捕らえてしまった!


 『コレは一体…!』


 勇者の有様を直視したクリスは、その美しい顔に驚愕の表情を浮かべる。


 どうやら、コージの事なんて眼中には無いらしい。


 「へぇ~、時と時空を司る女神クロノスの加護を受けた精霊である君にも分からない事があるんだね~」


 『貴様! 自分が一体何をしたか分かっているのか!』


 クリスは、声を荒げる!


 ま、その件についてはボクが何かした訳では無いのだけれどね。




 始まりは何時だっただろうか?

 此処に来たのは、もう何度目になるだろう?


 数えることすら辞めてしまったこの瞬間を振り返る。


 この白い世界で光り輝く聖剣が薙いだ時、成す術もなく光となった妹は勇者の一部となりボクの世界は終わりを告げた。

 


 世界は救われた筈だった。

 

 が、ある日目を覚ますとボクは何故か生きていた。


 『自分は、時を繰り返している』


 そう気付くのに時間は掛からなかった。


 ボクは抗う。


 ある時は、勇者の従者となり。

 ある時は、村を焼き払い。

 ある時は、精霊に戦いを挑み。

 ある時は、知識のみを貪り。

 ある時は、愛する女性と仲間を皆殺しにし。

 ある時は、自分自身を殺して見せた。


 そう。


 何度も何度も…2000回くらいまでは数えた気がする。



 だが、何一つ結果は変わらなかった。


 もう、諦めよう。


 どんなに抗っても妹は助からない。


 今度は、何もせず安穏と日々を送ろう。


 そう決めたら、『奇跡』が起こった!


 ボクん家のトイレを破裂させた黒髪の少年。


 彼は、今までただ繰り返されるだけのはずの場面をその場に居るだけで全てを塗り変える!


 今まで、一言一句違えることなく繰り返された人々の会話は否応なしに変化しその行動は突飛なモノへ変わり決まりきった未来はまるで濁流に飲み込まれたように激動し何千回と世界を繰り返してきたボクでさえ彼が起した変化を予測する事は不可能だ!



 ああ…!

 コージ! 

 君の言うとおりだ!

 決まりきった結末や避けられない運命なんてクソくらえだ!!!


 ボクは、白い空間に佇む鋭い眼光を放つ赤い瞳を見つめた。


  そんな中、只一つだけはっきりしている事がある。


 ソレは、極めて不本意なことに今日此処でボクが死ぬと言う事。


 悔しい…。


 ボクは、コージが造り出すであろうこの先の世界をもう見る事は叶わないのだ!


 クリスが、いつものように詠唱を始める。


 いつものようにボクを殺して、いつものように勇者にガリィを殺させる気だろう。



 だが、そうはさせない!


 きっと、ボクが何千何万と世界を繰り返して来たのはこの瞬間の為だ!



                ◆◆◆





 眩い閃光に舞い散る羽。


 ソレは一瞬の出来事だった。



 「なん だよ…コレ…?」


 真っ白な空間に飛び散る『赤』。


 突如大量の吐血をし、丸々としたふとましい体はゆっくりと地面に横たえる。


 「レンブラン!!!」


 俺は、倒れるレンブランに駆け寄った!


 抱いていた赤ん坊を地面に降ろし、息苦しいそうに小刻み震える体にそっと触れる。


 「ゴホッ!! ゴホッ!!」


 激しく咳き込んだレンブランは、更に大量に吐血した!


 「うわぁ! どうしよう! 俺、何すれば良い!?」


 「ヒュー…はは…こ ジ…落ち着いてっ…ヒュー」 


 レンブランは、息も絶え絶えに力なく微笑む。


 「落ち着けるか!! 全然だいじょばねぇじゃんか!?」


 「はは…なんて顔してるんだい…?」


 「笑ってる場合じゃねぇだろ!? どうすれば良い? 何がいる? どうしたらお前を助けられる?」

 

 俺は、背負っていたリュックを下ろし手を突っ込み掴んだものを手当たりしだいに引っ張り出す!


 「コージ」


 レンブランが、俺の学ランの裾を掴む。


 「ボクは もう、助からない…」


 既に血の気の引いた顔が、『もう手遅れだ』と小さく呟く。


 「止めろよ! そんな事言うなよ!! 怪我なら俺のほうが酷かったじゃん! 諦めんなよ! きっと何か方法が…!」


 「コージ」


 取り乱す俺を、緑色の瞳が見上げる。


 「君に ボクの知識を全部あげる…ソレでなんとか生き延びるんだ」


 「何言ってんだよ…?」


 「…勘違いしないで…コレは取引だ」


 レンブランの眼光が鋭く光る。


 「ガリィを…妹を…守って欲しい…せめてあの子が殺される心配の無くなるまで…」


 「レンブラン…!」


 「ソレが出来ないなら、何も上げられない…そうなれば この空間からの脱出も出来ずに君は野たれ死ぬんだ」


 『どうする?』っと、緑の瞳は試すように俺を見据える。


 「馬鹿野郎…」


 俺は、学ランの裾を握っていたレンブランの手を取る。


 そんなの、答えなんて分かり切ってるじゃねぇか…!


 白くなった唇が『ありがとう』と、微かに動いた気がした瞬間レンブランが俺の手を指が折れるのではないかと思うくらい強く握り返す。


 「いっ?!」


 苦痛に顔を歪めた俺を見て、緑の瞳が今度は『ごめんね』と呟いた。





 バチッ!




 一瞬にして何かが体を突き抜けて、目の前が暗くなる。


 「う あぁ? あ"、あ"、やめ…ゴポッ」


 胃の中のモノを全てぶち撒け、俺の体はレンブランの横に倒れビクビクと痙攣を起す!


  『ごめんね…これが最善策なんだ』


 頭にレンブランの声? が響く? 011000101101 0・? なんnだ?これぇぇ1100101101*


 真っ暗な空間で身動き取れない中、ぞわぞわと体中の穴という穴から雪崩れ込む 0と1  頭 痛い?


 なにコレ…え…痛い?



 ちょと待って!!


 ビキッと、内側から脳が膨張しうたような錯覚に襲われる!






 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 



 誰かが叫び声を上げている。


 自分を掴まえる腕に、噛み付き引っかいて逃れようとするがそれは叶わない。


 『ごめんnね、コージには魔力で継承が出来ないからこうするしかnいんだ00101mすkしだから』



 もう止めてくれ!!! 頭が破裂する!!! もう入んない!!!


 懇願も虚しく、許容を超えて雪崩れ込む0と1。


 聞き覚えのある声は、オロオロしながら何度も謝る。


 謝るくらいならもう止めてくれ!!



 【ダウンロード残り50%】



 振動に咥えて、まるで機械のアナウンスのような音。


 俺は、叫び声を上げながら雪崩れ込む何かを追い出そうと地面に頭を叩きつける!



 【ダウンロード残り30%…20%…10%…】



 ビキビキと目の奥がどうにかなりそうな位痛い!!!




 【0%…ダンロードは正常に完了しました】




 そのアナウンスが流れた瞬間、苦痛が嘘のように晴れ俺は地面に頭突きをしたまま動きを止める。


 額から溢れる血に、涙と鼻水…体の主要の穴と言う穴から体液が漏れる。



 どうしよう…俺、もうお婿に行けない…!




 「…てめ…っ!」



 辛うじて、意識を保った俺は右手を拘束しているこの苦痛の元凶を睨む。


 「ぁ…」


 そこに在ったのは、血の気の引いた青白い顔に苦しいそうな表情で浅く呼吸を繰り返すふとましい体。


 先ほどまで指が折れそうな位力強く握られていたその手は、その力を失いパタリと地面に落ちる。


 俺は、地面に落ちた手を掴まえ力の限り握り締めた!


 「れ んぶら ん…」


 掴んだ手の平に、チリチリとした感触が流れる。


 『驚いた…君って…本当に異世界から来たんだね!』

 

 頭の中に声とも文字とも取れない何かが木霊する。


 『ごめんね もう、体が持たなくて…脳に直接電気信号を送ってるんだ』



 戸惑う俺に、すまなそうにレンブランは【言った】。


 『異世界なんて本当にあったんだ…凄いや…コージには驚かされてばかりだね…』


 苦しそうに呼吸を乱しながらも、その瞳は俺の傷を縫ってる時よりも輝いている。


 『悔しいなぁ…もっと君と一緒に居られたらもっと色んな物が見れたろうに…』


 レンブランに何か言わなきゃいけないのに、俺の口は只ぱくぱくと動くだけで肝心の【言葉】は抜け落ちてしまう。


 言いたい事が山ほどあるのに何一つ口から出てこない!



 早く言わなきゃ!


 レンブランが…レンブランが…。


 『ごめんね…痛かったでしょ?』


 緑の目が細くなって俺を見る。


 「いてぇよ…何が最善策だよ馬鹿…!」


 何かが決壊したように、俺の目から涙があふれる。


 『ごめん』


 青白くなった唇が小さく動き、その直後レンブランは大きく息を吸った。


 俺を見つめていた目が光を失い、握る手は急速に体温を無くす。


 「あ 嫌だ! ちょっと待って…まだ!」


 それっきり、レンブランは動かなくなった。


 ああ 嘘だろ…? 何でレンブランが?


 探していた妹に会えたのに!


 きっと、これからガリィちゃんと二人で仲良く暮らせる筈だったのに!!


 俺は、半開きになっていたレンブランの目蓋をそっと下ろした。


 『貴様は何者だ…!』



 くぐもった声が、訝しげに俺に問う。


 俺に問うのは、視線の先に見える血の池蹲る赤い目に光る羽根の生えた女。

 

 アイツが、レンブランを殺した!


 許せねぇ!


 俺は、握っていたレンブランの手を離しふらふらと立ち上がる。



 『止めろ…来るなっ!!!!』



 女は、俺に向って大量の羽根を乱射するがそんな物は無意味だ。


 迫り来る羽根は、例の如く当る直前で消滅した。


 『何故…何故…!!』


 顔を歪め、這い蹲り逃げ出そうとする女の羽根を掴む!



 コロシテヤル。




 湧き上がるドス黒い感情。


 掴んだ羽根先端が、ジュウっと音を立てボロリとまるで消炭のように脆く崩れる。


 『ひぃ!!』


 「怖いのか? お前は何千回とレンブランを殺してきたんだろ?」


 赤い瞳は、殺されると言う絶対的恐怖に震える。



 …レンブランはな、もっと怖かったんだ…!!



 頭の中を0と1が渦巻く!


 レンブランの『記憶』が、フラッシュバックのように駆け巡る。


 ああ…頭痛がする…それに左目が焼ける様に熱い。


 ふと、俺を見上げていた女の顔が驚愕に染まる。



 『な…何だその『目』は…!?』


 目? なんの事だ? そんな事どうでもいい…。


 目的を達成するのにどうすれば良いのか、不思議と理解できた。


 脳内を渦巻く0と1は、遍く数字の羅列から答えを導きだす!


 俺は、それを口にした。


 「コード:10238 クロノブレイク」


 その瞬間、女のへたり込んでいた地面がバックり割れそこから現れた無数の黒い触手のような物がその華奢な体に巻きつく!


 女は、背中の6枚の翼を広げ空に舞い上がろうとするも触手に絡め取られソレは叶わない! 


 その体は、バックりと地面に開いた黒い裂け目へズブズブと沈んでいく。


 『私は! こんな所で屈する訳には行かない! この世界の為、女神様の為にも勇者を見守ら無ければならないのだ!』


 女の体が発光し触手を弾き飛ばそうとするが、その努力は虚しく散る。



 『何故! 何故解除できない!?』

 

 「当たり前だ…コレはお前が思っているような物じゃ無い」

 

 驚愕の色を浮かべた赤い瞳に映るのは、底冷えするような笑みを浮かべた黒髪に右目に黒を左目に明るい緑を宿した少年。



 「お前もう死ねよ」




 ドプン。


 


 っと、音を立てその白い体は黒い裂け目に沈んだ。

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 一筋の光すら射さない漆黒の闇。


 その闇の中で、淡く光る小石程度の小さな光はソレの手の平で震える。


 「ごくろうさん」


 その言葉を聞いた小さな光は震えるのを止め、まるで喜んでいるかのように瞬いた。


 「そうだ、終わったんだよ…後はアイツに任せてお前はゆっくり休むといい」


 優しい声がまるで波紋のように漆黒の闇に溶ける。


 すると、その小さな光は細い糸がはらりと解けるようにほどけ天へと昇る。


 手の平から旅立つその小さな光を、ソレはまるで慈しむように見つめた。


 「そんな顔をするなら助けてやればよかったじゃない?」


 光を見送ったソレの背後から、もう一つが訝しげに声をかける。


 「あなたの力があれば、それが出来でしょう?」


 ソレは、光が旅立った手の平を握り締めフッっと微笑む。


 「え~そんな事したら、小山田君が3つ目のオプション起動出来ないじゃん?」


 「…」


 『あーつかれた』っと、欠伸をしながら背骨を鳴らすソレの様子にもう一つは頭を抱えため息を付く。


 「俺は、可愛い小山田君の為ならなぁんだてするさ★ そう、何だってね…」


 小さく呟くソレの後姿に、もう一つは背筋冷たいモノを感じた。

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