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クロノブレイク0~可哀想な小山田くんの話~  作者: えんぴつ堂
狂戦士
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狂戦士


 ああ…またこの夢。



 僕は、じりじり痛む頭を抱えた。



 いや、『夢』というには少し御幣があるかもしれない。



 僕は、いつものように真っ暗な空間に立っていた。


 目の前には、青い半透明の球体。


 中には、羽をもがれ背中から血を流し横たわる小さく哀れな精霊。


 


 名前はリリィ。


 


 時と時空を司る女神クロノスの加護を受けた精霊。


 僕らの関係は、魂を混ぜ合わせる事で僕を主、リリィを従とした契約__『精霊契約』を交わした間柄だ。


 正に僕らは、『一心同体』互いに離れる事は出来ずどちらかが死ねばもう一方も死ぬ。


 本来、精霊契約は契約に十分な素養を兼ね備え何より契約する精霊との信頼関係が必要になるが、僕とリリィの場合は違った。


 姉さんを連れ戻す為、羽をむしり契約を迫る僕を前に相手に直接攻撃する術を持たないリリィは精霊契約に応じることで素養の無い僕の自滅を計ろうとしたが僕は乗り越えた。



 これは、リリィにとってかなりの誤算だっただろう。




 結果。


 


 魔力も気力も持たない僕と契約した哀れな精霊は、傷も枯渇した魔力も回復することは出来ず未だに血を流し続けている。



 契約者が魔力を持っていないんだ、回復できる訳も無い。




 さて困った、今回ばかりは精霊の力が必要になると言うのに。




 ガイルを体よく寝かしつけた僕は、ミケランジェロに乗り一人崩落したエルフ領の首都へと向った。



 「う ぐすっ…ふううぅぅぅぅ…」




 俺は、嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるリーフベルの背中をさすっていた。




 「おいおい、泣くなよぉ~」




 泣きじゃくる女ってのは、そそる…そそるけども!!




 もっと泣かせてやりたいと言う湧き上がるような衝動を抑え、目の前の美少女エルフを慰める。




 兎に角、誤解を解かないと…これ以上追い回されるのはごめんだ!!




 「悪かったよ…言いすぎたよ…」




 ポンポンと、背中を叩く。




 「ぐすっ…いいえ、貴方には感謝しています…」




  涙で腫れあがった深い緑の瞳が、俺を見上げる。



 「貴方はっ…ぐじゅっ…私の長年の心の闇を消してくれた…いいえ闇で無いと教えてくれた」




 リーフベルは、そっと俺の手を握る。



 「おおう…!? いやっ、参ったなぁ~」




 が、俺を見上げる瞳から大粒の涙が零れた。




 「貴方は恩人です、ああ…でも、でも…女神様は何と…」



 不意に伸びた手が、俺の首筋に触れた。



 「うわっ!」



 ひんやりとした感触が皮膚を撫でる。




 「使命の為には、恩人の貴方を殺さなければならない…!」





 は? しまっ________




 「コージ!!!!」





 俺の背後から黄色い閃光が奔る!



 


 「がはっ!??」




 俺の手の触れていたリーフベルの体がビクンと跳ね、白目を向いて真後ろに倒れた。


 

 え? 何?



 「動くな!!!」



 振り向くと、レンブランがコッカスに跨り決死の表情を浮かべ猛然と此方に向かってくるのが見える。




 んう?



 何でそんな顔してんだ?




 「レんっごぶしゅ!?」



 あれ?



 「ゴッポッ! ブブブッ!!」



 俺の言葉は、まるで炭酸飲料をストローで吹いたようにゴボゴボとおよそ声とは言えない音に変わる。



 俺は、自分の首に触れた。



 手は鮮やかに赤く染まり、ポタッと雫が朝露に濡れた草に落ちる。



 いつの間にか、コッカスから飛び降りたレンブランがブクブクと赤い泡を吹く俺の首筋に素早く手を当て押さえつけた!




 あっコレ。




 ガチでヤバイやーつーwwwww




 


                     ***








 「かはっ!! ごほっ! ごほっ!」



 


 朝露の匂いの漂う爽やかな森でDrレンブランによる開放的な手術が、麻酔無しの激痛の中修了した。


 


 「ふぅ。 大丈夫、傷は塞さいだよ~全く無茶するなぁ~」



 レンブランは、俺の首から余分な糸を切った。




 皮下20針。


 頸動脈縫合、声帯の修復及び器官からの血液の摘出。




 うん、激痛とか生易しいもんじゃなかったね!



 日本語って痛みに対する単語もっと増やした方がいいと思うよ!



 てか、何なの? 何で麻酔とか無いの?



 つーか! 



 この世界に来てからというもの、キバだらけの巨大ニワトリに脇腹かじられ内臓デデ~ンの挙句今後は頸動脈ザックリってか!




 何なの?



 俺、この世界にとって完全部外者だよね?



 俺、ゆーしゃとか違うし!


 まおーとか知らねーし!


 この世界が滅ぼうが関係ねーよ! 



 マジ帰りたい!!




 ぶちっ




 「げふっっ!?」



 「あっ、ごめ~ん」




 顔が笑ってるぞ!



 この、マッドサイエンティストめ!!




 「は なせ よ」




 俺は、両腕を踏みつける巨大ニワトリを睨みつけた。




 コッコココッココッ




 コッカスは、さも愉快そうに喉を鳴らす。


 


 この野郎~…いつかチキン南蛮にしてやんぞクソが!

 



 「どけて、コッカス!」



 レンブランの命令に、コッカスは渋々太い足の指を退けた。




 「で マジ……かんべん…」


 「喋んない方がいいよ」




 Drレンブランは、縫いつけた傷に謎の薬を塗りこむ。




 「あち"ち"ち"…」



 「全く! コージは無茶する…こんなに脆いのに」 



 レンブランがぶちぶちと、小言を言いながら俺の首の傷を観察する。




 そうだ…リーフベル…は…?




 「ああ、彼女ならほら」



 俺の表情に察したレンブランが、顎で指す。


 そこには、何処から持ってきたのかぶっとい鎖でグルグル巻きにされたリーフベルが見えた。



 「だいじょぶ なのか?」


 「呆れた~首切られたのに敵の心配?」



 レンブランが呆れて様にため息をつきながら、俺の首に包帯を巻く。


 


 「ホント、コージってお人好しだね…今までどうやって生きてきたのさ!」


 


  ギリッっと包帯がきつめ巻かれた。



 

 「今、君に死なれる訳には行かないんだよ」




 え?



 緑の瞳は何処か、思いつめたような色を浮かべた。




 それって、どういう______





  ぺた



 俺の頬に冷たいモノが触れる。


 

 「あーうー」



 「こら、駄目だよ! コージは怪我してるんだから!」



 亜麻色のふわふわの髪に、それと同じ色の瞳が嬉しそうに微笑み俺の頬を叩く。



 黒い箱から救出した赤ん坊は、顔色こそあまり良くないが小さな手で地面を掴み______?



 え?



 もう、ハイハイ出来るの?


 赤ん坊ってこんなに早く育つモンだっけ?



 

 「あなた達…こんな事をして、タダで済むと思ってるの!」



 少し離れたところで、ぶっとい鎖にぐるぐる巻きにされているリーフベルが俺たちを睨みつける。



 

 「へぇ~」



 レンブランが、俺の頬に触れる赤ん坊を抱き上げた。



 

 「この子、本当に『勇者』なんだね~」



 赤ん坊は、嬉しそうに手足をバタつかせる。



 「アナタ! どういうつもりなの?」



 リーフベルは、此方を睨み付けたままもぞもぞと体を動かしどうにか体を起こす。




 「…ボクの部屋見たんだ? 酷いなぁ…」




 ゾクっと、背筋に冷たいものが走る…!



 なんだ?



 レンブランの瞳から、先ほどまでの『優しさ』が消え失せる。




 「あーうー」



 あどけなく微笑む赤ん坊の首に、レンブランのふくふくとした手がそっとそえらえた。




 「な!?」



 「動かないで、少しでも妙な真似したら『勇者』が死ぬよ?」



 レンブランは、微笑んだままリーフベルを見据える。



 

 「じ、自分が何をしているか分かっているの!? もし! 勇者に何かあれば世界が…このイズールは!!」




 「…くくく…あはははははは!!!」



 「な、何が可笑しいの!」



 突如、笑い出したレンブランにリーフベルは怪訝そうに眉を寄せた。




 「分かって無い! 君達は何も!!」




 レンブランが声を荒げた瞬間、森の木々の隙間からその背後に赤い炎の塊が放たれた!




 「あぶねぇっ!!!」




 地面に転がっていた俺は、何とか立ち上がり迫る炎の塊の前に立ちはだかった!




 ゴウウウウウウ・・・・フシュン!




 炎は、俺の眼前にせまった瞬間飛散して消える。




 「え? こ_____」



 俺は、振り向きざまに渾身の力を込めてレンブランをぶん殴った!




 ガクン

 


 っと、レンブランの頭がのけぞりその体はバランスを崩す!



 俺は、力の緩んだふくよかな腕から赤ん坊をもぎ取るように奪った!




 「何考えてんだーーーーー!!!」




 「い…痛いよ、コージ」




 レンブランは、さも痛そうに拳のヒットした鼻をさする。




 「嘘付け! 効いてねーだろ?」




 俺の右手は手首からズキズキと痛む…レンブランの顔はまるで分厚いタイヤを殴ったような感触で拳の方が負けてしまったらしい。



 全力で殴ったのに、レンブランにはダメージらしいモノは感じられないなんて…化物かよ。



 「やだなぁ~冗談だよ~」



 「目がマジだったぞ!」



 レンブランが、取り繕うとするが流石の俺も今しがたこの獣人が何をしようとしたかくらいは分かる!



 

 レンブランは、赤ん坊を殺そうとした________!




 「あ、次が来るよコージ」



 「げっ!!?」




 先ほど、炎が放たれた場所から今度は先端の鋭く尖った巨大な氷の塊がまるでミサイルのように此方に向ってくる!




 「うほぉぉぉぉぉ!?」




 ゴカッ パキィィィィィィン




 炎の時と同じく、氷も俺の眼前で飛散し砕け散る。





 「ふわぁぁ~流石だねコージ!」



 「流石じゃねーよ! マジびびるから!」



 


 俺とレンブランは、炎と氷が放たれた方角のひときは太い木を凝視した!




 しんと、静まり返った森の木々を風が揺らす。




 ジャリ




 「「!?」」




 背後からした金属音に、俺とレンブランは振り向く!



 そこには、鎖で簀巻きにされたリーフベル____の傍らにいるのは?


 リーフベルの背後にしゃがむ影。


 アレで隠れているつもりなのか、ボロボロのローブの裾にフワフワの髪がリーフベルの腰の辺りからはみ出ている。





 「っ…逃がさないよ!」




 レンブランの手の平から、黄色い閃光が放たれる!




 「____光の道、我求む道を示せ____てっ転移れちっ!」

 



 フシュンと二人の姿が消えたのと同時に、閃光が地面を叩いた!



 「空間魔法…流石『鍵』なだけあるね」





 レンブランは、冷たい声で言うとくるりと俺の方を向いた。



 

 「れ レンブラン」



 「じゃ、ボク等も行こう。 魔法専門のあの二人ならともかくあの大剣の女騎士に襲って来られたら厄介だからね」




 パシ

 


 差し出されたレンブランの手を思わす払い、俺は後ずさった!




 「コージ?」



 「お前、なんか恐ぇよ! 一体何で!」





 俺は、腕の中の赤ん坊をしっかりと抱き寄せる。



 


 「『恐い』 ボクが?」




 ふっと、呆れたように目の前の獣人は笑う。




 「大丈夫! ボク、その子の事は殺すかもだけどコージの事は絶対に殺さない…必ず守るよ?」




 獣人は、まるで小さな子供を諭すようにゴロゴロと喉を鳴らす。




 な…何言ってんだよコイツ…?




 「だって、コージは魔力も無いし体だって脆いし武器としては魔力に対して一切影響を受けない事だけど…ソレは同時にその『恩恵』にも預かれないって事みたいだし、その子抱えてたんじゃ『友達』を探す所か生き残れないよ?」




 『さっ』と、小さく呟き獣人はそのふくよかな手を俺に伸ばす。





 「答えなんて分かり切ってるじゃない? 手を取ってよコージ!」




 レンブランの言う通りだ。


 悔しいが、俺一人では赤ん坊を抱えてなくたって到底生き残れない。



 ましてやこの状態で、二人を探す事なんて無理だろう。




 あ"あ"!!!



 霧香さん! 比嘉ぁ…何処に居るんだよ!





 俺は、差し出されたふくふくしい手を取った。





 「いい子だね、コージ」




 レンブランは緑色の瞳を細くした。




 

 「ああ、お前の言う通り俺は一人じゃこの世界で生き残れねぇ…そういう意味で本当に世話になってるし感謝してる…けどな_____」




 俺は、満足げに微笑むレンブランの手をありったけの力で握り返す。




 「もし、この赤ん坊に何かしてみろ…お前を絶対に許さねぇ…!」




 「うん、わかった! 気おつけるよ」



 

 レンブランは、にっこりと人懐こい笑みを浮かべた。






                      ********







 「あーうー」



 俺の腕の中で、赤ん坊は力なく笑う。



 

 「ねぇ、コージ」



 コッカスの手綱を握るレンブランが、前を見据えたまま振り向かず俺に話しかける。




 「その子、放って置いても長くは生きられないと思うよ」



 「っ!」




 レンブランは、悪びれも無く言った。




 「そんな顔しないでよ~『勇者』であるその子が何でそんな中途半端な状態なのか知らないけど、食べ物を摂取できない以上『生物』として生命維持が困難なのは仕方ないじゃないか!」 



 



 レンブランは間違っていない。



 ついさっき殺しかけたとは言え、その前は徹夜でコイツの食えそうな物探してくれてたし…たぶんやれる事は全部やってくれたんだと思う。


 

 けど!



 顔面蒼白の赤ん坊は、もはや虚ろな瞳で俺を見上げる。




 多分…コイツがこんななのは、俺の所為だ!



 四角い箱の中での事を思い返しても、この赤ん坊が入っていたあの植物のようなものは俺が触れてから発動したとしか思えないし姿形がこの世界に存在しない筈の人間と変わらない事からほぼ間違いないだろう。




 「なぁ、何か他に栄養を取らせる方法とか無いか? そう…例えば点滴みたいな!」



 

 「テンテキ? なにそれ? 聞いたこと無い! どんな方法なの?」



 前を向いていたレンブランは、こちらを向き興味津々に瞳を輝かせる!



 「え~っと、何て言うか…栄養の入った袋とかから管と針を使って直接流し込むみたいな?」



 「何それ! 超斬新!! え? 腕とかに刺して血以外の物を体に直接入れるって事!?」



 ぐいぐい食いついてくるマッドサイエンティストは、もはや前など見てはいない!




 「前見ろよ! それに、ちゃんとそれ様に作られてる物だから! いきなりそこら辺の物注射したら死ぬって!」



 な~んだ、っと言うとレンブランは再び前を向き少し考える素振りを見せた。




 「…少し違うけど、栄養というか生命力を分ける方法なら…在るには在るけど…」




 「マジか!?」



 「けどね、治癒魔法はボク使えないしとなると…やっぱり…」




 レンブランは、言葉を詰まらせる。



 「勿体つけんなよ!」



 「…与えればいいんだよ…生命を『命』そのものをね」





 は?


 命を与える? 




 「あんまりお勧め出来ない方法だよ、与える側は寿命削れるし受け手との相性が悪かったらそれこそ両方死んじゃうかもだからね」


 「それってどうやんだ?」


 「ええ? まぁ…一般的にには術式描いて手かざしかな? もっと効率よくするなら口移しとかだけど…って! うえぇぇぇ!?」


 


 嫌な予感がしたレンブランが振り向くと、そこには赤ん坊にディープキスする浩二の姿があった。



 

 「ちょっとぉぉぉ! 何考えてんさぁぁぁぁ!!!」




 レンブランは、走らせていたコッカスを急停止させた!



 そして、なおも赤ん坊から唇を離さない浩二に、ため息をつく。




 「コージ、気持ちは分かるけど…そんな事しても無駄だよ『命』を分けるなんてそうそう簡単に_________」




 レンブランは目を疑った!



 突如、赤ん坊が淡く光りだし蒼白だった頬に赤みが戻り力なくうな垂れていた手足が動きを取り戻す。




 「不味い! コージ! それ以上は駄目だ!」




 慌てたレンブランは、少年の腕から赤ん坊を取り上げる!



 じゅぼっと、妙に卑猥な音を立てようやく二人を引き剥がしたレンブランは固まったように動きを止めた少年の頬を叩く!



 

 バチン




 「いてぇぇぇ!!!」


 「信じらんない! 行き成りなにしてんの!? ボクの話聞いてた!? 頭に綿でも詰まってんの君!!!!」


 

 浩二は、『口の中切れたじゃねーか!』と悪態をつきながら殴られた頬をさする。



 「全く君って奴は_________」



 「きゃっきゃっ」



 レンブランの腕の中で、赤ん坊が笑う。



 「嘘っ!」



 「おお! うまく行ったじゃん!」



 呆然とするレンブランの腕から、すっかり血色の良くなった赤ん坊を受け取り心底嬉しそうに抱きかかえる少年。



 その姿になおもレンブランは、驚きを隠せなかった。






 信じられない…!


 術式無しで直接生命力を、自分の命を流し込んだって言うのか?


 でも、コージからは魔力の反応なんて無かった筈だし…何より、ほんの少しでも『自分の命』を消費したって言うのに何でそんなにピンピンしてんのさ!?




 「全く…君には驚かされるよ、コージ」




 レンブランが、なんとも言いがたい表情で俺を見る。



 目の前で死に掛けてる奴がいて、方法があるなら助けるのは当然だと思うんだが…やっぱり今般的な考え方の違いって奴なのか?




 「…とにかく、その方法かなり危険だからもうやらないでね」



 「え、そうなのか?」



 「…人の話ちゃんと聞いてよね」




 不機嫌そうに眉を寄せたレンブランは、コッカスの手綱を引き走らせる。




 「なぁ? 今何処に向ってるんだ?」



 「う~ん、とりあえず魔力の感じる方向かな~君の友達が空間魔法とかでこの森に飛ばされて来たなら必ず魔力の痕跡が残るからね…」




 そう言うと、レンブランは何やら物思いに深けているのか黙り込んでしまった。



 俺は、赤ん坊をあやしながらふとましいレンブランの背中を見る。



 この世界に来てから、本当に世話になりっぱなし…てーか!


 

 レンブランにしてみたら村をたたき出されるわ命を狙われるわ人生滅茶苦茶状態になってんだ…きっと精神なんてボロボロだろう。


 だから、赤ん坊を殺そうとするなんて血迷った行動に出ようとしたのかも知れない。




 …早く比嘉と合流して、俺が別の世界から来た事を村の連中やあの女三人組に説明して早くレンブランを元の生活に戻してやらないと________




 ゴロロロロロロ…




 「?」



 よく晴れ渡った青空に鳴る不釣合いな音に、俺は西の空を見上げた。


 西の空には、黒々とした雨雲が見えるんだけどソレはパリパリと音をたて雷と思われる黄色い筋がまるで生き物のように雲中を走り回る。



 なんか変じゃね?



 雨雲にしては、規模が小さいように思えるし色だって黒すぎるそれに________




  カッ! と、一瞬空が白く染まる!




 「っ!?」




 ほぼ同時に、まるで空を砕くような轟音とともに大気が揺れ衝撃で木々がなぎ倒される!



 

 「うわぁ!?」



 俺は、赤ん坊を抱いたままコッカスの背中から投げ出された!

 


 地面に背中を強打し、俺は呻き声を上げる。


 背中から落ちたお陰で、赤ん坊は無事だが衝撃で息が上手く出来ない…。




 「ごほっ! なんでこんなんばっか…!」



 「うあぁぁん」




 投げ出された衝撃に驚き、赤ん坊が泣き声を上げる。



 

 「ごほっ…ゴホッツ! 大丈夫か…?」




 俺は、胸に赤ん坊を乗せたまま何とか上体を起こした。


 


 「よーしよし、泣くな~驚いたな~」




 泣く赤子の背中をさすりながら辺りを確認する…いや驚きだね。



 木々はなぎ倒され、土がむき出しなったそこはまるで荒地だ。


 それより、この森にきて二度目の大爆発こんな通常ならありえない異常事態に俺が慣れてしまったと言う事が何よりの驚きだ。


 まぁ、内臓縫われたり首切られたりとかリアルに死にかけたりしたら大抵の事じゃ驚かなくもなるわ!


 それにしても一体何が…あっ!



 レンブラン!



 それとあのクソ鶏! 何処行った!?




 辺りを見回すが、レンブランとコッカスの姿が見えない。



 

 「レンブラーン!」




 取り合えず、大声で名前を呼ぶ。



 もし無事なら俺に見つける事は出来なくても、ぎゃん泣きする赤ん坊の声たどってレンブランなら直ぐ此方の位置が分かる筈だ!

 


 

 パキッ!



 背後で枝の折れるような音がした。




 「良かった! 無_________」



 

 俺は、時が止まった様に固まった。



 振り向いた俺の目の前にいたのは、金髪の腰まである長い髪をなびかせくるりとカールしたけも耳にふさふさの尻尾の全裸の美少女。



 しかし、何故だろう?



 全裸であるにも関らず、全くエロスを感じないだと!?



 俺は不能にでも成ったんだろうか?




 「グルルルルルルルルル」




 けも耳全裸少女が唸り、視線が俺を捕らえ金色の瞳には無数の赤い血管が走る!



 あ。



 死んだコレ。






 「駄目だ!」




 俺の眼前にふとましい背中が割ってはいる!




 「レンブラン!」



 今にも飛び掛って来そうな全裸少女の前に立ちふさがったレンブランは、身じろぎ一つせず相手を凝視する。





 「ガリィ…ボクだよ! 分かる? お兄ちゃんだよ…!」




 丸い背中は、苦しそうな今にも泣き出しそうな震えた声で少女に言った。




 「ガリィ…!」



 レンブランは、唸り声を上げる全裸少女にじりじりと近づく。




 お兄ちゃん…って…?



 俺は、村の牢屋で聞いた筋肉マッチョの言葉を思い出した。




 太い足がずずっっと、地面を進むたび血走った金色の瞳が険しさを増す。




 「ぐるるるるるるるぅぅぅぅぅぅ!!!」




 バチィ



 レンブランが、手を伸ばし頬に触れようとした瞬間派手に弾き飛ばされる!




 「っ!」


 「おい! 大丈夫かよ!」




 俺は、派手に吹き飛ばされしりもちを突くレンブランに駆け寄った!




 「大丈夫…!」




 苦痛に顔を歪めうずくまるレンブランの右手が、激しく焼け焦げ所々炭化している!


 


 「うわっ、ひでっ! 何処がだ大丈夫だよ!?」




 けも耳全裸少女は、唸りながら一歩また一歩と此方に向ってくる!




 「そんな…! 早すぎる!」




 自分の怪我の苦痛など、気にも留めていないように緑の瞳は迫り来る金色を切なげに見る。


 


 「おい…あのBカップ、妹なんだよな? 何でお前にこんな事____つーか逃げないとヤバくね?」




 レンブランには悪いが、向ってくる全裸Bカップにはとてのもじゃないが『理性』が在るとは思えない!





 「ガリィ!!」





 俺の言葉に耳を貸さず、焼け焦げた手を妹に伸ばす兄。





 「止めろ! どう考えても危険だ!!」





 赤ん坊を片手に抱え、空いた方の右手でレンブランの肩を掴んだがビクともしない!




 あ"あ"あ"あ"! こんな時にあのクソ鶏は何処行った!!!




 「がああああああああああああああああああ!!!!!」




 全裸Bカップが雄たけびを上げると、森全体が揺れ大気が震える!




 金の髪は逆立ち、その白い肌にはまるで小さな雷のようなものが這いソレが両手の平に集中していく。






 あは★ オワタ\(^o^)/





 妹は、兄とその他向けて両手を突きだす。



 

 その手に集まった黄色く輝く稲妻の塊は、兄とその他に向けて無慈悲に放たれた。






                      ******************






 迫る黄色い稲妻!


 

 逃げられないと判断した俺は、片手で赤ん坊をもう一方の手をレンブラン首に回し硬く目をつぶった!



 もはや、自分の未知なるこの能力に頼るしか無い!




 思わず俺は、『神』に祈った。





 ……………何故か、爆笑されて『テラワロスwwwww』と言われた気がしてムカついた。





 「______聖なる光の盾_____ガディアンシールド」




 まるで歌うようなソプラノが、空間に響く!




 ガガガガガガガガガガガガガガガガ




 次の瞬間、強いフラッシュを連発したような目蓋の閉じた目も眩む程の光と激しく何かがぶつかり合うような鈍い音。



 どの位続いたか…ようやく静かになり、俺はそっと目を開けた。



 赤ん坊は、驚いたのかきょとんとした顔をしていたが無事。



 レンブランも黙ってはいたが、回した腕が上下したので息はしてる。



 そして_________。




 「リーフベル? …助けてくれたのか…?」




 レンブランの肩越しに捕らえた鮮やかな緑が真っ赤な顔で振り向く。




 「かっ! 勘違いしないで下さい! あっ、貴方は恩人です! せめて、私の手で殺します! こんな所で『狂戦士』になんか殺させません!」


 



 『狂戦士』という言葉に、レンブランの左手が微かに動いた気がした。




 「レン________?」



 「止めな、獣人」




 レンブランの脳天すれすれに、大剣が突きつけられる。




 「流石ですね…『大剣の鍵:剣士カランカ』」




 レンブランが冷たい声で言った。




 あれ程の長身とダイナマイツボディにも関らず、こんなにも近づくまで俺はともかく気配に目ざといレンブランに気がつかれないなんて!!


 

 コレが、『気配を消す』ってヤツかぁ~生で見れるとかマジ感動!




 「コージ、なんでにやけてるのか知らないけどコレかなり不味い状況だよ」



 「うえ!? マジで!?」




 まっ、そらそうだわな…。



 俺たちを殺そうとしてる女たちに加え、何故か理性を失い殺意むき出しのレンブランの妹…うん、助かる気がしねぇ!!!




 「獣人、殺す前にお前に聞きたい事がある」


 


 脳天に大剣を突きつけたカランカが、殺気に満ちた目でレンブランを見下ろす。




 「もしかして、ボクの研究の事? 説明した所で巨人のそれも出来損ないの亜種なんかに理解出来ないと思うけど?」




 レンブランの言葉に、カランカの瞳が赤く染まり剣の持ち手に力が篭る!




 「わぁぁぁぁ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 多分、きっと! 悪気はなっ無いと思いますぅぅぅ!!!」




 今にも突き刺さんとするカランカの大検に、俺はレンブランの頭を赤ん坊ごと抱き寄せ平謝る! 




 「もごもごう"も"も"も"? う"も"(頭に詰まってるのは筋肉なんじゃないの? 低脳)」



 「斬る」



 「何言ってんの!? 馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 すがるような気持ちでリーフベルの方を見ると、涙溜めながら鼻吹いてた…この腐女子め!!

 



 「カランカ、今は狂戦士に集中するれちよ」




 殺気を撒き散らすカランカを諌めたのは、綿毛のようなふあふあの髪の幼じょ…幼児だった。



 確か、名前は…?




 「改めまちて名前を…女神様より『魔力の鍵』を仰せ付かった魔道士:メイヤともうちまち」



 幼児…メイヤは、ふわりと頭を下げた。

 


 おおお、妖精さんだぁ~。



 メイヤその見た目は、ファンタジー御用達の妖精そのもので背中に羽が生えてれば完璧だったろう。




 レンブランが俺の腕をパシパシ叩く。



 おっと、腕で鼻と口がうまってたな!




 「けほっ! ボクは______」


 「知ってまち、レンブラン・ガルガレイ______なかなか…いえ驚かされたれち! あの蓄積されてた膨大な研究資料、ありを作るには通常設備の整った中央でも何十年もの月日が必要れち! そりを村から一歩も出ずどうやっ」

 

 「言いたいことはそれだけ? 本題に入ったら?」



 レンブランが、メイヤの言葉をさえぎる。



 「ま、ガリィがそんなに待ってくれるとは思えないけどね?」




 あ、レンブランの妹! 空気になってた!?




 「ぐるるるるるるるるるるるる…があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




 空気扱いが気に入らなかったのか、レンブランの妹:ガリィちゃんは自分の肩を抱き呻る!



 きつく抱きしめた滑らかな白い肩口に爪が食い込み、ぶつぶつと穴が開く!



 それと同時に体中にバチバチと無数の小さな稲妻が流れ、次の瞬間辺りが真っ白に染まる!




 「っく! 押さえ切れ無い!!!」




 パキィィン




 ガラスの割れるような音がしリーフベルが弾き飛ばされてた途端、激しい衝撃が俺たちを襲う!




 「がぁっ!」


 


 メイヤが、がくりと膝を着き苦痛に顔を歪めカランカに至っては剣を地面に刺し立つことさえままならない!





 そんな中で、風が強くて目ぇ開けにくいけど…俺平気!



 この二人と、モロになんか食らって痙攣してるリーフベルとかマジどうしたの? 



 てか、俺が凄い?




 光と衝撃が過ぎ去り、そこに残ったのは更に木々の吹き飛んだ赤茶けた大地と満身創痍の女達に無傷な俺達そして。



 呻る全裸のガリィちゃん。



 何故だ?



 全裸のけも耳ニャんコなんて鼻血もんなのにやっぱエロスを感じない…まさか俺マジで不能に…!




 「コージ、人の妹の全裸を凝視しないでくれる?」



 レンブランが不機嫌そうに呻る。



 「あ、ごめん」



 でも、たわわに実った形良い実りから目が離せないのは男の性ですよお兄さん。




 「で、どうすんだ? あれ? つか、何で怒ってんの? 兄妹喧嘩?」



 ガリィちゃんは、放電しながら血走った目で此方を見ている。



 刺客達が倒れたとして、殺る気満々のガリィちゃん。


 

 ピンチが回避された訳ではない!




 「コージ、君に頼みがある…と言うか君にしか出来ない事なんだけど…」



 「うん、すげぇやな予感! 断る!」



 「拒否=死在るのみだよ」



 あコレ、始めから拒否権は無いパターン?




                   バーサーカー

 「ボクの妹、ガラリア・ガルガレイは『狂戦士』だ」



 

 意を決したようにレンブランが俺に言った。


  バーサーカー

 『狂戦士』と聞いて、俺の脳裏に浮かんだのはRPGゲームによくあるバーサーク状態『コントロール不能になってひたすら攻撃ばかり繰り返す状態異常』それが目の前で…ヤバイよヤバイよマジで言ってんの!?



 アレって、敵味方関係ないよね!?



「10年前、村に大量の魔物が襲って来てね…目の前で両親を殺された…それを見た4歳だったガリィが『狂戦士』に覚醒して一瞬で全滅させた」



 ガリィちゃん凄い、最強の幼稚園児じゃん!



 「…けれど」


 レンブランの曇った顔に俺は、察する。


 

 「まさか…」


 「ガリィは追放され、この森に封印された魔物よりも危険って事でね」


 「4歳でこんな森に一人!? ひ ひでぇな!」



 やっぱ、言いだしっぺはあの村長のクソババァか?



 「僕はありとあらゆる手段を検討し、森の結界を突破しようとしたけど現実的な方法が見つからなかった…そんな時現れたのが君だよコージ!」



 「おっ、俺!?」


 「そうさ! どんな原理かは知らないけど、君には魔力…と言うか物理な力以外全てのエネルギーの影響を受けない! それどころか、魔方陣や結界と言った予め張られていた物さえ消し去る!」



 俺は、この森に来た時砕けたガラスのような物を思い出した。



 そう、アレはまるでこの森全体を覆うように…んう?



 「なぁ、レンブラン」


 「なに?」


 「もしかして、俺のこと騙した?」




 レンブランは、真っ直ぐ俺の目を見た。


 


 「結果的にはそうなった、ごめん」




 うえええええええ~まじかよぉぉぉぉぉ!!!!!




 って事は、この森に比嘉はいないって事だ! 




 「聞いて! 結果っ的にこうなってしまったと言うだけでコージの言ってた村の近くの森って此処しか無いのは事実だよ!」




  あからさまに落胆する俺に、レンブランは悪びれも無く言い放つ!



 え、マジで!?



 …でも、騙した事に変わりないじゃんか~!



 「という訳で、まずボクのお願い聞いてくれる? 終わったら君の仲間を探すよ! 約束だ!」



 『お願い』つーか『脅し』じゃねーか?


 

 拒否すれば死ぬし、逃げた所で俺一人では生き残れない…選択肢など始めからねぇわ!




 「……何すれば良いだんよ?」



 「そうだね、まず_____」


 「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




 動きを止めていたガリィちゃんが、再び雄叫びを上げその体に電流が走る!




 「コレ!」




 慌てたレンブランが、俺の手になんだか首輪のようなモノを握らせ変わりに腕から赤ん坊を引き取った。




 「何とかして、ガリィの首にそれ付けて!」




 そう言い放つと、レンブランは赤ん坊を連れその場から走り去った!




 「は?」




 え?


 何ソレ?



 もしかして指示は以上ですか? レンブラン将軍!?




 「死なない程度の怪我ならボクが治療するから! がんばって!!!」




 「頑張れじゃねーよ!! 自分の妹だろ! 俺に丸投げか________」




 トン


  

 え?



 背中に、手で軽く押されるような感触。



 次の瞬間、レンブランが何故全力で逃げたのか理解した。



 

 バチン




 「うぴゃ!」




 冬場のドアノブに触った時の静電気の10倍くらいの衝撃が、背中から全身に突き抜ける!




 変な声が出た…自己嫌悪!!!




 「うひょぉぉおおお!? 何すんの!? 何すんの!? マジびくっるて! カンベンしてよガリィちゃん!!!!」




  俺は、ビリビリする背中を掻き毟りながら後ろを振り向く。



 そこには、血走った目の全裸少女が逆立った金髪を振り乱し殺気の篭った目で俺を見る。



 嗚呼、きっと●ーパーサイ●●人の女子バージョンってあったらこんな感じだろうな…なんてどうでも良い事が脳裏に去来する。


 

 自分の攻撃に、ダメージを殆んど受けない様子の相手にガリィちゃんは少し警戒したのか自分からは仕掛けて来ないつもりらしい。



 さて、どうしたモンかねぇ…って!




 黄色い閃光が、岩を砕く!





 「うきゃー!! マジ止めて! ばちっってすんの嫌なんだよ!!!!」






                              ******************







 信じられない…!



 目の前の光景は、ボクの予想を遥かに凌駕する物だった。



 ガリィに追われ逃げ惑うコージ。



 連発される雷撃は逸れる事無く全てクリーンヒットしている。



 

 普通なら死んでるが、コージはそれを物ともせず『あべし!』とか『ぶべらっ!』など妙な叫び声を上げながら隠れる所さえ無い大地を闇雲に駆けずりまわってた。




 「狂戦士の雷撃を食らってるのに…なんであんなに元気がいんだ? ホント何者なんだい?」



 

 地面に体を横たえ、動くことすら出来ない『大剣の鍵』は呻くように問う。




 「さあね? それは、ボクも知りたい」



 ボクの答えに、はぐらかされたと思ったのかカランカは眉間に皺をよせ恨めしそうに睨みつけて来た。



 本当に知らないんだから、そんな目で見られても困るなぁ~。



 ボクは、おもむろに剣士カランカの足を掴む。




 「な! 何するんだい!?」



 「何って…取り合えず移動させるんだけど? こんな所にいたら巻き添え食らうよ? コージはともかくあんなの食らったらボク等じゃ一瞬であの世往きだからね」



 ボクは、抱いてた勇者をカランカの腹に乗せ両足を掴んでズルズル引きずった。




 「あいたっ! ちょ! もう少しましな方法無いのかい!?」


 「コレが最善策! ほら『勇者様』が落ちそうだよ? 支えたら?」



 ボクの言葉に背中と後頭部を地面に削られながらも、腹に乗せた『勇者様』を必死で支えるカランカの姿はなんとも滑稽だ。



相変わらす謎の悲鳴を上げるコージから少し離れたところの、地面にポッカリ開いた手ごろな穴にボクは勇者ごとカランカを投げ入れた!



 

 「ちょ!! ぎゃ!!」



 「カランカ!?」


 「勇者!!!?」



 突然、勇者を抱いて降って来た仲間に先に放り込んでおいたリーフベルとメイヤが驚愕を隠せない。


 

 「あんしゃん! なんのつもりでち!!」



 メイヤが、穴の縁から覗くボクに、鋭い眼光を飛ばす。



 「君たちを助けてあげる、その代わりガリィに…ボクの妹に手をだすな!」




 穴の中で身動きの取れない三人は、言葉を失った。



 少しの沈黙が流れ、メイヤが徐に口を開く。




 「そうでちたか…でちが、そりは無理な相談れち!」



 「レンブランさん! お気持ちは察します…しかし狂戦士は危険な存在…諦めて下さい!」




 メイヤの言葉にリーフベルも続く中、カランカだけは勇者を抱いたまま険しい表情を浮かべていた。




 「狂戦士が、どういう存在かあんしゃんなら分かるはずれち!」




 ああ、そうだね知ってる。



 『狂戦士』別名『バーサーカー』とは、神とやらの神通力をうけた戦士で自分自身に神の力を宿し戦うがコントロールは不可能で忘我状態となり、鬼神の如く戦うがそこに魔物は愚か生ける者全てが滅び去るという。


 

 つまり、目に付くもの全てを殺しつくす『化け物』…一度それが暴走すれば止める事等出来ない。



 だから、君達が殺しに来たんだろ?



 目の前で両親を殺され、僅か4歳で"『狂戦士』に目覚めたボクの妹。


 

 村を救ったにも関らず、恐れられ当時最も高い魔力を持った僧侶によって永遠に解けない結界の張られたこの森に封印されたボクの可愛い妹。





 「ふふふ…あはははは」


 


 突然笑い出したボクに穴の中三人が、引きつった表情を浮かべる。



 何も知らない愚かな女神の下僕達!



 君等にボクの気持ちが分かるかい?



 ああ、ボクは今まで神など信じてなかったけど今なら信じることが出来る! コレは奇跡なんだ!

 


 この止まった世界が、ついに動き出す…!


 嗚呼、コージ!


 ボクの希望…世界にとって君はきっと絶望なのだろう。




 だが、それがどうした! 



 世界がどうなったって構わない!"『今度こそ』ボクは妹を助ける!



 もう、死なせなどしない!





                     ***********************








 バチィッ!!




 「ぎゃぴぃ!?」



 もう、何度目か分からない背中から突き抜ける強力な静電気に又しても微妙な叫び声が口から漏れた!




 恥ずかしい!




 死のう!




 「ぐるるるるるるるる…!!!」



 逃げ惑う俺に、ガリィちゃんの雷撃は容赦なくぶち当たる!!



 

 「もう! 勘弁してよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



 つーか! レンブラン! 俺に丸投げとか酷すぎるっしょ!!



 先ほどの大爆発により、更に木々の一掃された赤茶けた大地に身を隠せそうな物など在るはすも無く俺は遠くに見える木々茂る場所目指してひたすら走る!



 こんな的になるような場所に居るよりマシだ!



 幸いガリィちゃんは、攻撃の効かない俺に警戒しているのか決定的な止めを指すような事はしてこない!


 

 とにかく、身を隠さないと・・・・!




 ガッ



 「いっ!?」



 地面から飛び出していた木の根に足を取られ、俺は派手にすっ転ぶ。



 

 「いでぇ~! あっ、足が…!」




 何という事でしょう!



 敵に追われてる最中にすっ転び足首捻挫のよくいる定番ドジッ子な俺ーーーーーーオワタ\(^o^)/



 倒れこむ俺の眼前に、稲妻を纏ったガリィちゃんが迫る!




 嗚呼…こんな時にすら形良い二つの揺れる果実から目が離せないなんて…コレが最後の光景になるとは!




 14年、いい人生だった…って!



 っんな訳ぬぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇえぇぇ!!!!!?????

 



 いや! 死ねないからね! まだ、ヤりたい事あるんです!



 エロ事もそーだけどさっ、いってみたい所…秋葉とか秋葉なんだけども!



 今度のゴールデンウィークにはマンガ同好会の皆で行こうと思ってたんだよ!



 聖地で生メイドとか、見たいじゃん!



 PCパーツとか、マンガ・ゲームとか漁りたいじゃん!



 それに、霧香さんと比嘉を見つけなきゃだし! 




 今はなんと言っても、目の前で雷撃の準備に入った全裸Bカップ…もとい!



 レンブランの妹。



 ガリィちゃんを助け無くてはならない…!




 「ちょ!! タンマ! 話せば分かる!!」



 地面にけつまずき、情けなくズリズリと後退する俺の胸に突きつけられる掌!


 


 「マジやめ…っつ! ああばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!」



 

 ビリビリと電撃が体を駆けるが、耐えられない程のモノじゃない!




 「ヴァ…ファイト~俺~…」




 俺は、痺れる右手で胸に置かれた電撃発生現であるガリィちゃん腕を掴んだ!



 

 「!!!?」



 その瞬間、ぴたりと電撃が止み逆立っていた金色の髪がふぁさりと揺れ血走った瞳が驚愕の色を浮かべる!



 

 

 え~っと、どうしよう…ハッキリ言ってノープランですよぉぉぉぉぉ!



 沈黙する、俺とガリィちゃん。




 すると突然、ガリィちゃんの背後からふとましい腕が伸びがっちりと体を拘束する!




 「コージ!! 今だ!」


 「っ…おおお!!!」




 俺は、ガリィちゃんの腕を握ったまま胸からずらし体制をくずした隙にその白い首にレンブランに渡された銀色の鎖で出来た首輪のような物をかける!




 ガチッ



 首に掛かると、鎖の端と端がはまるで生き物のように同化した。




 「ぎゃううぅぅぅぅ!?」



 鎖が首に掛かった途端、ガリィちゃんは地面に倒れちじこまるように体を丸め苦しそうにガタガタと震える。




 「うお!? 何で!?」



 「…これが、最善策なんだ…」



 

 レンブランは、苦しむ妹の傍に跪き背中をそっとさすった。




 「最善って…こんなに苦しそうなのにか!?」




 レンブランは、俺の抗議に耳を貸さずリュックの中からピンクのブランケットを引っ張り出し全裸のガリィちゃんを包む。


 


 「コージ、事情は後で説明する…今はここから______」


 「行かせないよ!」




 背後からする、聞き覚えのある声に俺とレンブランは顔を上げた。



 

 「…こんな事なら足ぐらいへし折っといた方が良かったかな?」



 冷たく言い放つレンブランの視線の先には、慢心相違ながらもリーフベル、メイヤ、カランカの姿そして。




 「うに"ゃぁぁぁぁぁぁ!!! うぎゃぁぁぁぁぁん!!」



 カランカに抱かれ、必死に俺のほうに手を伸ばし泣き叫ぶ赤ん坊_______って!



 「何で、赤ん坊があっちにいるんだよ!? テメッ! こっち向けコラ!!」



 「だって、ボクあの子嫌いなんだ」



 ガリィちゃんを抱き上げたまま、プイッっとそっぽ向くレンブラン。



 「はあぁぁぁぁぁぁぁ!? 理由になってねーよ!!



 何なの!? 乳児相手になにやってんの? てーか、あの女どもは乳児を窓も無いような場所に詰め込むような鬼畜ですよ!? 渡してんじゃねーよ!!」



 

 「赤ん坊ってのは一体何のことだい?」



 泣き叫ぶ赤ん坊を抱いたカランカが、さも意味が分からないと言う表情で俺に問う。



 はぁ? 頭大丈夫か?




 「ヘイ! ベイビー? ユーが逞しいお胸に抱いてるのはなんですか?」



 「『勇者』だ」



 カランカは、即座に返答した…あれ?




 「うん、だから赤ん坊だろ?」



 「コレは、『勇者』だ」



 カランカは眉を潜め…いや、カランカだけじゃないリーフベルやメイヤも全く同じ『コイツは何を言っているんだ?』って表情を浮かべる。



 え? 何? なんか俺、間違った事言った?




 「コージ…君、本当にアレが赤ん坊だって思ってたの?」




 やや後方にたっていたレンブランから、耳を疑うような言葉が漏れた!


 

 

 「は?」



 呆気にとられる俺を見たレンブランは、『ああ…そうか、記憶が…』と呟く。




 「…よく聞いて、確かにアレはコージと同じ種族の形状を取っているけど本質は全く別物だよ…状態はかなり不完全だけどね」



「ごめん! イミフ! 説明キボンヌ!!!!」



 「何ソレ? 故郷の言葉? 共通語で喋ってくれないと分からないよ?」



 

 「いい加減にするれち!! 『ライトニングアロー』!!!」



 痺れを切らせたメイヤが、何やら光の矢のようなモノを放つ!




 「うお!?」


 

  が、やはりソレは俺の眼前で飛散した。



 「くっ! 原理は分からんれちが、大した能力れちね…でも、狂戦士はこの場で殺すれち! そりは世界の為ひいては勇者の糧の為…死ぬれち!!」




 幼稚園児が、物騒なこと言ってるーーーーーーーーーーー!!!




 「今は引くよコージ!」



 「けど!!」



 カランカに抱かれた赤ん坊が、手足を無茶苦茶に動かし泣き叫びながら俺を見る。




 …ダメだ! 置いてけねぇよ!!


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