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クロノブレイク0~可哀想な小山田くんの話~  作者: えんぴつ堂
突っ込みどころの多い世界でw
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突っ込みどころの多い世界でw

 

 ここはどこだ?



 ゲロ臭い…僕は吐いたのか?


 目を覚ますとそこは、世界自然遺産にでも出てきそうな木々がうっそうと茂った森の中だった。


 …無事に到着出来たようだな。



 しかし、起き上がりあたりを見回しても一緒に飛んできたはずの小山田の姿が見えない。



 「?」



 あれ?

 

 体の傷が治ってる…それだけじゃない、少々ゲロ臭いが血で汚れた衣服も元通りだ…どういうことだ?



 『どう言うつもり?』


 

 頭に直接声が響く。



 時と時空を司る精霊リリィは、実に不機嫌極まりない様子だ。



 少しやり取りをして、現状を把握する。



 姉さんは、『エルフ領リーフベル』と言う所にいるらしい。


 重要なのはそのくらいで、精霊は直ぐに僕の中で眠ってしまった…無理やり契約をした所為だろう。



 

 あ、小山田の事聞くの忘れたなぁ。



 ま、いっか。


 まずは、この近くにあるという商業都市を目指す事にした。


 リーフベルへ向かうにも、色々と準備が居るだろうと判断したからだ。


 それに、小山田が無事ならきっと人のいそうな場所を目指すだろう。



 僕は、道無き森の中を歩きだした。

 「モブキャラ』とは、モブキャラクターの略。


 「モブ」とは「群集」という意味で、よくアニメやマンガとかで主人公の後ろで観客とか通行人とかをやってるアレだ。


 一つの物語を構成する上で、必要不可欠でありながら大体一回こっきりの出演が関の山・・・それが、モブキャラ! 本来の俺のポジションだ!」



 俺の、満を持した自己紹介にその場の空気は凍りつく。



 

 無理も無い、無理も無いさ…だからと言ってこの理不尽な現状に俺の突っ込み止まらない!




 「つかさぁ! マジ言わせて貰うけど、何なの? 俺の何を持って『魔王の手下』とか思うわけ? マホー効かないからとかなんなの? てーかさぁ! レンブランが村追放って何? 俺の看病してくれただけじゃんよ?  俺の言葉、通じるよね?  まず、最初に相手の事情聞こうとか思わない訳?


 疑わしきは抹殺なの?


 殺伐すぎでしょ?


 基本的人権とか知ってる?


 そのこエルフ女! てめぇだよ!! レンブランごと殺そうとしやがって! ナニ上から目線なんだよ!!!」

 


 もっと、言いたいことはあるが一息ではこれが限界だ!



 しんと静まり返る空気を打ち破ったのは、エルフ女だった。



 「…何の事を言ってるのかさっぱりだけれど、アナタが危険だって事に変わりはない」



 エルフ女は、静まり返る群集に目をやる。



 え? ナニそれ? どゆ事?



 エルフ女に気を取られえいるとその背後から、キラッと何かが光った。



 「コージ!」



 レンブランが、背後から俺を引っ張る!



 「ぬお!?」



 しりもちをついた状態になった俺は、耳に違和感を感じ触れてみると手にはべっとり血がつく。



 耳の縁が切れているようだ。



 「大丈夫!?」



 レンブランが、ローブを破り俺の耳に宛がう。



 いってぇ…血が止まらない…くっそ! 何なんだよ!



 「へえ、魔法は効かなくても武器での攻撃なら殺れそうじゃないか」



 エルフ女の背後に、いつの間にかもう一人の人物が立っている。


 同じような白いローブを身につけてはいるが、エルフ女よりは遥かに背が高いく180…いやもしかしたら2mくらいはあるだろう。



 「カランカ!」


 エルフ女が、背の高い人物の名前を呼ぶ。



 「ここは、アタシに任せておきなリーフベル…一瞬で終わらせやるよ」



 カランカと呼ばれた長身は、白いローブを脱ぐ。


 褐色の肌に、短髪の赤い髪、思わず『姐御』と呼んでしまいそうな雰囲気のその人は何やら防具を身に着けてはいたがそれは肩当に豊満なバストを鋼鉄のブラに押し込んだようなものでそれ以外上半身には身に着けず下半身も長ズボンに鋼鉄のブーツ…『防御の意味分かりますか?』と言うくらいその守備は軽い。



 ただ、目に付くのは背中に背負った自分の背と変わらないくらい長い大剣。



 「さあ、観念しな…!」



 カランカは、ニヤリとさも楽しそうな笑みを浮かべ背中の大剣を抜いた。





 何だよそれ!? どうすりゃいい…?



 「ちょ! ちょっと、まっ!?」



 ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!




 突如、俺の背後で笛のようなものがけたたましく鳴った!



 思わず、耳を押さえ後ろを見ると口に指を咥えたレンブランの姿…『指笛』?




 ぴっぃ!ぴ!っぴ!



 後切れ悪く吹き終ったレンブランは、すぐさま俺の腕を掴んだ!



 「ボクから絶対に離れないで!」



 レンブランが、そう言ったのとほぼ同時だった。




 「ピキャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」




 空に、甲高い音が響く!





 「魔物だーーーーーーーーーーー!!!」



 群集の一人が、叫んだ!



 その言葉に、その場にいた全ての人が空を見る!



 俺もつられてそちらを見ると、そこにはニワトリがいた。


 お馴染みの白いボディに赤いトサカ、よくスーパーなんかでうってる鶏肉はこの種で間違いない。



 ただし、それは全長10mはある超大物!


 …アレで何人前の肉が取れることだろう。 



 「クエクエクエ~~~~~~~!!!!」




 空を旋回するその特大のニワトリは、傍目からも決して機嫌が良いとは言えない事が見て取れる!



 そして、此方の様子をみるように空を旋回していたニワトリは一瞬高く舞い上がり次の瞬間には此方に向かって急降下して来た!



 急降下しながら、口ばしをガパッっとあける。



 うわっ! 


 牙がびっしり!!




 「あ! ダメ! コッカス!!!」




 その様子を目の当たりにしたレンブランが思わず叫ぶ!


 

 「え"?」



 口ばしを大きく開けた特大ニワトリの喉の奥に何やら光が集まり、その眼前にに魔方陣っぽいのが浮かびあがる。


 嗚呼、やな予感しかしない!!!



 「ピキャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」



 甲高い咆哮と共に、開かれた口ばしから強い光が放たれ魔方陣にぶつかったと思うとそれが何倍にも膨らむ!



 「伏せて!!!」



 レンブランが、俺を無理やり地面に倒す!


 




 「メイヤ!!」



 特大ニワトリを凝視していた、リーフベルと呼ばれたエルフ女が慌てて叫ぶと馬車に腰掛けていた子供ほどの小さな人影が重い腰を上げる。



 「仕方ないれちねぇ…」



 メイヤと呼ばれた小さな影は、空に向って両手を掲げる。



 「詠唱破棄するれち! リーフベルも手伝うれち!!」



 そう言われ、リーフベルも両手を掲げた。




 「「ガディアンシールド!!」」



 二人がそう叫ぶ!



 それと同時に、魔方陣の力を借り何倍にも膨らんだ光は放たれるや否やまるでそこに透明な壁でもあるように遮られる!



 「行き成り石化光線を浴びせるなんて!! ここには、沢山の住民が居るのよ!!!」



 両手を空に掲げたまま、リーフベルが俺を睨む。



 えええええええ!?



 ナニそれ!?



 もしかしなくても、俺の差し金的な!?



 超誤解です!!!!




 ようやく、光線が勢いを弱める。



 「カランカ!」


 「あいよ!」



 カランカは大剣を構え、特大ニワトリに狙いを定める!

 


 「あ…逃げて! 逃げて! コッカス!!!!」




 レンブランの声に、ようやく特大ニワトリが光線を止め羽を翻す!



 「遅いよ!!!」



 次の瞬間には、大剣を振りかぶったカランカが空を飛んでいる特大ニワトリの背後に現れた!



 「墜ちな!」



 大剣が、白い翼を捕らえる!



 ガキィィィィィィン



 「何!?」


 肉とは違う手ごたえに、カランカは顔を顰めた。



 全力で振り下ろした残撃が失敗したことで、バランスを失ったカランカは空中で成すすべも無く地面に落下を始める!


 特大ニワトリは、狙いを定めたように開いた口ばしを向ける!



 「ちっ!!」


 カランカは、最後の足掻きとばかりに大剣を構えた。



 「「カランカ!!」」



 地面の二人が、攻撃を試みるがカランカと特大ニワトリの距離が近すぎるのか手を下せない!



 「ダメ! コッカス! 悪い子!!!」



 レンブランが、叫ぶ!


 すると、特大ニワトリは今にも放たれんとした光の塊をゴクンと飲み込んだ。



 「何!?」



 もはや、只では済むまいと覚悟していたカランカは驚愕を隠せないまま地面に着地した!



 「魔物が…言う事を聞くだと…?」




 空を旋回していた特大ニワトリは、俺とレンブランの元にズシンと舞い降りる。



 カランカは、そこから目を離せなかった。



 「ココココココココココ…!」



 舞い降りた特大ニワトリは、俺を何故か血走った目で凝視する。



 「あのぉぅ~レンブラン…こいつどうして俺をあんな目で見るんだ?」



 明らかに、殺気立っているとしか思えない特大ニワトリに正直ビビる俺。



 「さぁ…? こんなの初めてだよ? コージさ…もしかしてコッカスと会った事あるの?」


 「ある訳ねーよ…」



 だよね…と、訝しげに眉をひそめたレンブランを尻目に、コッカスと呼ばれた特大ニワトリは不機嫌そうに喉を鳴らす。



 「レンブラン! まさかアレは、あの時のコカトリスか!?」



 俺達の背後から、グラチェスが驚いたように叫ぶ!



 うお!

 

 あんまり黙ってるから危うく存在を忘れる所だったぜ!




 「…行こう、コージ」



 レンブランは、その問いに答えず俺の腕を引きコッカスの方へ歩く。



 うおい! 目の血走りが増えてる!!! 怖い! マジ怖い!!



 「本当に行くのか? …この村から出てくのか…?」



 上腕二頭筋も逞しい精悍な顔立ちの青年は、今にも泣きそうに顔を歪める。




 「いつかは、そうしょうと思っていたんだ」



 


 レンブランは、グラチェスの方を見る事無く答えた。



 ?

 


 いつかはって、どう言う事だ?



 レンブランの表情は、どこか追い詰められたように硬く眉間には皺が寄る。



 「コッカス、伏せ!」




 コッカスは、レンブランがそう言うと不機嫌ながらも頭を垂れた。



 「乗って」


 「え? うお!?」



 俺の脚の裏に手が沿えられ、一気にコッカスの上に押し上げられたので勢い余って真っ白な羽毛に顔から突っ込む。



 「鳥臭さッ!!」


 「ココ!! ココココ!!」



 まるで、俺の言葉が分かるかのようにコッカスが不機嫌そうに喉を鳴らす。



 

 俺がコッカスの背中に上がったのを確認すると、レンブランも直ぐに飛び乗った。

 

 

 「ホント、どうしたのコッカス? こんなに機嫌が悪いなんて!」



 見かけによらずひょいとその背に飛び乗ったレンブランが、よしよしと真っ赤になった鶏冠を撫でるが血走ったコッカスの目は俺から離れない。



 なんなの?


 何で俺、見ず知らずの巨大ニワトリに睨まれるの?



 もはや、敵意を通り越して殺意すら感じるんですけどぉぉぉぉ!?



 「待ちなさい!!」



 そんな、俺達の様子を傍観していたリーフベルが声を荒げる!



 「まさか、そのまま逃げ遂せると思っているの?!」



 ふとコッカスの背から見下ろす眼下には、既に魔力を集中させ此方に狙いを定めるリーフベルとメイヤそして大剣を構えるカランカの姿。



 「お、おい!」



 俺は、思わすレンブランのローブの裾を掴む。



 「ボクが合図したら目をつぶって!」



 レンブランが、聞き取れるかどうかくらいの小さな声で言った。




 「降伏するなら、安らかに死なせてやるが抵抗するなら惨たらしく最後を迎える事になるよ!」



 カランカが、どっちにしろ救いようの無い提案を平然と言い放つ!



 コッカスの鶏冠を撫でていたレンブランが、眼下の女達のほうを見下ろす。



 「…君らは、いつでもそう…何も考えず只『お告げ』に従うだけだ」



 レンブランが、ズボンのポケットから手の平ほどの黒い石の様な物を空中に放る。



 

 「今!!!」



 目を閉じる瞬間、まるで雷の落ちる瞬間のように辺りが真っ白に__

 



 突如、ガクンとコッカスの背中が揺れる!



 「うお!?」


 「コージ! まだ目を開けないで!」



 斜め45度に傾いた背中に、バランスを崩し這いつくばった俺の腕をレンブランが掴む。



 それと同時に、急激に重力に逆らった反動と激しい突風が吹きつける!




 これは!




 俺は、薄く目を開けた。



 ああ、やっぱり…!



 俺とレンブランを乗せたコッカスは、大空を舞っている。


 眼下に見えるのは、ナニやら顔を抑え悶える群衆とあの3人組みに村長。




 「ふうっ! 取り合えずコレで、何とか一安心…? え?」



 レンブランは、真っ青になった俺を見て固まる。



 「え ちょ! コージ!? 大丈夫!?」



 あまりの事に、レンブランは俺の肩を掴みガクガクと揺らす。




 うっ、やめ…そんなに揺らす…うっぷ…!




 「…う"え"っ…」



 「『…う"え"っ…』?」





 ゲロロロロロロロロロロロロ~~~~!!




 「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」



 「ピキャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」




 青い空に、レンブランとコッカスの悲鳴が木霊する。



 俺は、レンブランの胸に全てをぶちまけた!



 コレだから…絶叫系の乗り物はダメなんだよ!!!!



 


 



        *            *






 目のくらむような閃光。


 それをまともに見てしまった私は、ようやくぼんやりと視力を取り戻す。



 「カランカ…メイヤ…無事…?」



 すぐ側にいたカランカが剣を頼り、よろよろと立ち上がる。 

 


 「ああ…してやられたねぇ」


 「う~目がしばしばするれちぃ~」



 二人とも無事…良かった…。


 空に目を向けると、白い影がなにやら小刻みに旋回しながら東の方角へ飛び去っていく。



 「どうする、リーフベル?」



 カランカが、忌々しげに遠ざかる白い影を睨む。



 「あの方角は…!」



 その場にいた多くの村の住人達が眩しさの余り地面に伏せ顔を覆う中、私は顔を抑え地面でもがく老婆に目をやった。


 恐らく、さっき獣人の青年が投げたのは『閃光石』。



 それも、これだけ広範囲に被害を与えるなんて天然の物では有り得ない。


 人工物…威力からみても恐らくあの獣人はかなり卓越した錬金術の知識があるのだろう。



 それより、気になることは___。



 「婆さん! 答えな! あの豚猫は何者なんだい!」



 カランカが、地面に這いつくばる老婆に大剣を向けた。



 「カランカ! 高齢の老人に手荒な真似はよして!」



 私は、今にも切り殺さんばかりの気迫を発するカランカの前に立ちはだかる!



 「退きな! リーフベル! あんたも見たろ? あの豚猫…魔物を操ったんだ!」



 カランカの言いたいことは分かる。


 通常、召喚獣でもない魔物が言う事を聞くなんて有り得ない。


 ましてや、背中に乗せて空を飛ぶなんて!



 「んん~興味深いれちねぇ…」



 憤怒するカランカとは対照的に、魔道士であるメイヤは彼らの飛び去った方角を見ながら何処からか取り出した水晶に魔力を流し何やら調べ始めた。


 メイヤは見た目こそまるで子供のような姿をしているが、ああ見えて私やカランカより遥かに年上で魔道のみならず錬金術に関する造詣も深い。



 私は、怒りの収まらないカランカを諭しまだ視力の回復しない老婆を助け起す。



 「ひぃ!」



 老婆が、体を震わせ小さく悲鳴を上げる。


 視力が回復していないとは言え、カランカの気迫に当てられたのだ無理も無い。



 「村長、落ち着いて…大丈夫、何もしませんから」



 私は、出来る限り優しい声で話しかける。


 「カランカをお許し下さい…彼女の故郷は魔王の魔力によって暴走した魔物たちが押しよせ殆んど崩壊してしまったので魔物に対してかなり憎悪があるのです」



 老婆は、もごもごと口篭る。


 そんな老婆に痺れを切らしたカランカが、再び剣を向けた。



 「まどろっこしいね!! 早く答えな! あの豚猫も『魔王の手下』なのかい!」


 「違います! レンブランはそんなんじゃありません!!」



 老婆のすぐ横にいた、獣人の少女がキッっとカランカを睨みつけた。



 「ほう…じゃあ何故あの魔物は、ああも言う事を聞くんだい?」




 カランカの発する気迫に少し言葉を詰まらせたが、少女ははっきりとした言葉で答える。



 「あの魔物は、一ヶ月くらい前に谷で怪我をしている所をレンブランが助けたんだと…思います!」


 「魔物を助けた? 何を考えている!? そんな事をすれば村が襲われるかも知れないじゃないか!!」



 少女の言葉に、カランカが激怒する。


 無理も無い、私も同感だ。


 元来、魔物は己の種族以外に対して敵意以外の感情を持ちあわせない。


 それこそ魔王が復活するまではお互いに縄張りさえ侵害しなければ攻撃などされなかったが、今はそうも行かない。


 魔王の魔力に当てられ暴走した魔物達は、もはや同種でさえも攻撃し果ては死ぬまで戦う。



 「何で止めなかったんだい?」


 「もちろん! 兄と二人で止めました! …でも、レンブランがせめて弔ってやりたいって」


 「ちょっと待って!どういう事?」



 私は、少女会話に割って入る!



 「はい、その時あの魔物は翼の一つを根元からなくしていて到底生きられるようには見えなかったので…レンブランを置いて先に村に戻ったんです! まさかこんな事になるなんて…」



 少女は地面に視線を落とす。



 おかしい、翼を失っていたのならどうやって空を飛んでいたって言うの!?



 「実に興味深いれち!」



 先ほどまで、何やら水晶で調べていたメイヤが馬車から降りる。


 そして、興奮気味にローブのフードから顔を出す。



 ふわふわの銀髪が日の光を浴びてキラキラと光り、色白の頬は紅葉する。


 その愛らしさは、まるで精霊のよう…いや…精霊そのものと言っても過言ではない。


 メイヤの種族は精霊の血族と呼ばれ、その魔力の高さと長命を誇る。



 メイヤは、すたすたと少女の目の前に立つ。



 「案内するれち!」


 「え?」



 少女が困惑した表情を浮かべる。




 「決まってるれちょ? あの獣人の家れちよ!」


 「ちょいと! そんな暇___」


 「黙るれち!」



 カランカの抗議をメイヤがピシャリとした口調で制す。



 「まず、相手を知らずして勝てると思ってるんでちか?」


 「そんなの関係__」



 言い返そうとしたが、言葉が見つからないカランカは悔しそうに唇を噛む。



 「カランカ、気持ちは分かるけど私もメイヤの意見に賛成よ」 


 「リーフベル…」


 カランカの唇に、薄っすら血が滲んでいる。



 「あの黒い髪の男には魔法の類が一切効かなかった上に、もう一人の方は魔物を操った…こんなの作戦も無しに向って行くだけでは無事では済まないの…判るでしょう? 私達には『使命』があるこんな所で死ぬ訳には行かないのよそうでしょ?」



 うな垂れる、カランカの頬をそっと撫でる。



 「…わかってる…すまないねリーフベル」



 カランカは気を取りなおし、大剣を背中にの鞘に戻す。



 「何してるれちか! 置いてくれちよ!!」

 


 メイヤが、不機嫌そうに声を荒げる。


 振り返ると、いつの間にか馬車に乗りダークユニコーンの手綱を握ったメイヤとその側に座らされた獣人の少女が目に入った。



 「あの獣人の家は、少し離れた場所にあるらしいれち! 早くのるれちよ!」



 私は、少女の隣に座りカランカは馬車の胴体に当る黒い箱の上に飛び乗った。



 パシン


 と、メイヤが手綱を鳴らす。


 馬車が、ゆっくりと歩き出しす。



 「リラ、くれぐれも粗相の無いようにの!」



 村長が、少女に声をかける。


 リラと呼ばれた少女は、そんな村長を一瞥しただけで何も答えなかった。




 





 リラの案内通りに村を抜け小一時間ほど小道を進むと、そこに家らしきものが見えてきた。



 「ほんとに此処で合ってるれちか?」



 メイヤが怪訝な表情を浮かべる。



 家らしきもの…元家だったものと言ったほうが正しいかも知れない。


 私達の目の前には、殆んど倒壊した家の瓦礫と思われるものが散乱している。



 「そんな…一体何が…?」 


 リラは、倒壊した家に駆け寄る。


 そんなリラに続くように、メイヤが馬車から飛び降りた。



 「二人とも何ボケ~としてるれちか!? 手伝うれちよ!」



 メイヤが、瓦礫の中にぽっかりあいた穴を見つめる。



 「ふむふむ…やっぱり、さっきの魔物は此処から出て来たようれちね…」



 そこは、どうやらこのポッカリと空いた空間は地下室で恐らくあの獣人は此処にあの魔物を隠していた様だ。



 「レンブランの家にこんな物があったなんて…!」



 リラは、信じられないと呟いた。


 沈黙が訪れる中、しばらく様子を見ていたメイヤが行き成り穴の中に飛び降りた!



 「メイヤ!?」



 私は、慌てて穴の中を覗く!



 「ぼさ~っとしても何も始まらんれち!」



 そう言うと、メイヤは地下室の中を物色し始めた。



 「全く…!」



 私も後に続き、中に入りカランカとリラもそれに続く。



 「なんだい? これは…」



 地下室に降りたカランカが、繭を顰める。



 無理も無い。


 恐らく、上に立っていた家と同じ位であろう広々とした空間に夥しい数の本に何だか良く分からない物が入ったガラス瓶に無数の生物と思われる標本…そして、砕け散った鋼鉄の檻に散乱する血にまみれた刃物や工具。


 そこには、およそこのような田舎の村に似つかわしくない異様な後景が広がっていた。



 「素晴らしいれち…!」



 メイヤが、感嘆の声を上げながらそこにあるおびただしい器具や液体の入った瓶を眺め手に取った本に目を走らせる。



 「何関心してるんだい!? こんなの異常じゃないか!!」



 カランカが、身震いしながらうっとりとした表情のメイヤに突っ込みを入れる。



 「異常? ナニ言うれち! あの獣人…天才れちよ!」




 「「はぁ!?」」




 メイヤは、パタンと本を閉じ部屋を見渡す。




 「ここには、たぶん…この地域の全ての動植物にまつわる物が集まっているれち…そりだけじゃなく魔術・錬金術・霊術…独学みたいでちがおそらくこの部屋の持ち主は『中央』の学者に匹敵…いや、そり以上の知識をもってまち!」



 メイヤに此処まで言わせるなんて、あの獣人は一体…?



 「よくも、こんな辺境で信じられないれち! 一体何があの獣人を駆り立てたんれちか…」



 パリン



 と、背後で何かが割れた音がして私はそちらに目をやった。




 「あ そんな…」




 そこには、壁を凝視し強張った表情を浮かべるリラの姿。



 「どうしたの? えっと、リラさん?」



 私は、後退るリラの肩をそっと掴み壁に目をやった。



 「これは…!」



 目に映ったのは、壁一面に張り巡らされた皮紙それだけなら別に大したことは無い。


 が、問題はその中身だ。



 『勇者』・『魔王』・『世界』・『女神』…そこに書かれた文言全ては…。




 「『禁止事項』か…厄介なものに手をつけているみたいだねぇ…」



 カランカが、冷たい声で呟く。



 「実に惜しいれち、もっと別の出会い方だったら良かったれちに…」



 壁に貼られたひときは大きな皮紙には、この大陸の地図が描かれそのある部分に赤いインクで丸がつけられ所々に『禁止事項』が書き込まれている。



 『禁止事項』。


 それは、知ることを調べること禁止された禁忌。


 魔王うんぬん関係なく、知ろうとすれば厳罰に処分される。


 それが、この世界の『理』。




 カランカが、無言のまま地下室の地面を蹴り地上へ飛びだす。



 私も、地上へ戻ろうと歩き出すとリラがローブの裾を掴んだ。



 「レンブランをどうするつもりですか?」



 まるで、空気を搾り出すような声にローブを掴んだ手が震える。 




 「ごめんなさい」



 私は、縋りつくリラの手をそっとローブから外す。



 待って…! と、小さな声がしたが私達はそれを振り切り地上へ飛ぶ。





 一人取り残された少女は、声を殺して泣いた。


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