二節
道中に落ちとった棒っきれを拾って、そこらじゅうの樹やら岩やらを叩きながら歩いた。色んな音がして面白かったが、あのタケナラシの音よりええ音はせんかった。
ぐわんぐわんとゆっくり歩いて、やっとこさ竹ヤブに着いた。そん時、竹の葉がわささささぁ、というたかと思うと、かこぉん。と音がした。タケナラシがワシが来たことをわかったんやないかと思うて、ワシは嬉くてなって、持っとった棒っきれで、竹を叩いて回った。せやけど、やっぱりええ音はせんかった。
今度は細い竹の枝を拾って、竹をこするみたいにしゃかしゃかしゃかと鳴らした。なかなかええ音やったんで、しばらくしゃかしゃかしゃかとこすって遊んだ。
かぁん
かこぉん
遊んどる途中も時々タケナラシの音がして、ワシはタケナラシと一緒に遊んどる気がして、ほんまにほんまに楽しかった。
今度は石ころを拾って竹にぶつけてやった。
こぉん
やあ、タケナラシみたいな音がした。これはええぞと思うたが、よう見たら竹に傷がついとったんで、もうこれはせんとこうと決めた。
ぐわんぐわんと竹ヤブを歩き回って、鳴らし回って、遊び疲れて、腹が減った。もっとタケナラシと遊んでいたかったが、家に帰ることにした。
やっぱりお爺とお母にどやされた。畑の手伝いもせんと出て行きよってからに。役立たずが。と、いつもみたいに叱られた。せやけどワシは、まだ楽しい気持ちが続いとったから何とも思わんかった。今度はいつ竹ヤブに行こうか考えとった。
それから、ワシは毎日竹ヤブに行って竹を鳴らして遊んだ。何がおもろいんやとお爺とお母はワシを馬鹿にしよったが、竹ヤブで遊ぶのが何をするよりもおもろかった。
ある晩、竹が鳴った気がして目が覚めた。お爺とお母を起こさんように、そおっと家を出た。また竹の音が聞こえた気がした。タケナラシがワシと遊びたいと言うてるんやろうか。丸こいお月さんの明かりをたよりに、なんべんもこけながら竹ヤブに行った。
夜の竹ヤブに来るんは初めてやったが、なんでか怖ろしくはなかった。お月さんに照らされたヤブは静かで、綺麗で、わくわくした。ワシはいつものように竹を鳴らして回った。やんわり冷たい風が吹いて、葉がひそひそ話をする中、タケナラシの音が向こうで鳴った。
「鳴ったとこには近寄るなや。とって喰われるぞ。」
お爺が言うとった。せやけどワシは、何でか音がする方に向かって歩いとった。タケナラシに会いたかった。喰われてもええから、会いたかった。ワシがおらんようになっても、お爺とお母は何とも思わんやろう。もしかしたら喜ぶかも知れん。役立たずでのろまなワシは、妖怪に喰われた方がええかも知れん。
かあぁん
すぐ近くで音がした。
おった。
ワシのすぐ目の前の竹のすぐ向こうで、小さな影がひょこひょこと動いとる。
ワシはのっしのっしと身を屈めて近づいた。目の前にタケナラシがおる。
ワシより少し背が低くて、頭のてっぺんが竹の子みたいに尖って、からだは竹の子そのもので、大きな足と大きな手がはえとる。からだの真ん中よりちょっと上に顔があって、まん丸い目に、おっきな口。そんで、ワシとおんなじように腰が曲がっとる。ワシが思ってたのと違って、竹は持っとらんかった。まん丸くて赤い目でワシのことを見とる。ワシはびっくりしてしもて、力が抜けて尻もちをついた。
タケナラシがおった。今、目の前におる。こんな嬉しいことはないのに、腰がぬけて力が入らん。ワシは口をぽかあんと開けて、竹の子の妖怪を見上げた。
急にタケナラシは両の手をいっぱいに広げて、胸の前で合わせるようにして手を打った。
かあぁん
乾いたあの音が鳴った。そうか、手を叩いてならしていたんか。ワシは嬉しくて嬉しくてたまらんで、うわあと声を上げた。
タケナラシは大きな口を開け、白い歯茎を見せて、けたけたけたと笑った。歯のない、赤ん坊みたいな顔をして、乾いた声でけたけたけたと笑った。




