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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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9/21

第9話 条件を一つだけ出すことにしました

私は、

街の広場を見下ろす宿の窓辺に立っていた。


相変わらず、

人は集まり、

話し合いは続いている。


だが、

前日よりも空気が硬い。


(……限界が近い)


対立は、

もはや意見の違いではない。


「誰が決めるか」

「誰が責任を取るか」


その一点に、

全てが収束している。


そして――

誰も、前に出ない。



「……アリシア様」


夕方、

再び護衛が声をかけてきた。


「領主が、

 どうしても一度だけ

 お話を、と」


(“一度だけ”ほど信用できない言葉はない)


私は、

少しだけ考えた。


出るか。

出ないか。


ここで拒否すれば、

状況はさらに硬直する。


だが、

出れば――

私が“軸”になる。


(……なら)


私は、

条件を付けることにした。


「五分。

 そして、

 私は結論を出しません」


護衛が、

驚いたように目を見開く。


「それで、

 よろしいのですか?」


「それが条件です」



領主館。


応接室に集まったのは、

領主、教育担当者、

そして数名の若者代表。


全員が、

どこか期待した目を向けてくる。


(最初に、釘を刺す)


「先に言っておきます」


私は、

着席もせずに口を開いた。


「私は、

 この問題を解決しに来たわけではありません」


空気が、

一瞬止まる。


「助言もしません。

 仲裁もしません。

 決定もしません」


(ここ、大事)


「今日ここにいるのは、

 “条件を一つ提示するため”だけです」


「……条件、ですか?」


領主が、

戸惑いながら聞き返す。


「はい」


私は、

淡々と続けた。


「今後の話し合いにおいて、

 “決定した内容に対する責任者を、

 必ず明文化してください”」


誰かが、

息を呑んだ。


「内容が正しいかどうかは、

 問いません」


「成功するかどうかも、

 問いません」


「ただ――」


私は、

一人一人の顔を見渡した。


「誰が決めたのか。

 誰が引き受けるのか。

 それだけは、

 曖昧にしないでください」


沈黙。


だが、

それは昨日までの沈黙とは違う。


(……効いてる)



「……それは」


若者の一人が、

震える声で言った。


「誰かが、

 矢面に立て、ということですか?」


「いいえ」


私は、

すぐに否定した。


「“誰か”ではありません。

 “誰か一人”でもありません」


視線が集まる。


「複数でもいい。

 期間限定でもいい。

 条件付きでもいい」


「ただ、

 “全員で何となく”

 決めるのだけは、

 やめてください」


領主が、

ゆっくりと口を開いた。


「……それは、

 責任が重すぎるのでは」


「重いです」


私は、

即答した。


「だから、

 誰もやりたがらない」


それ以上は、

言わなかった。


五分。


条件は提示した。

理由も説明した。


それ以上は、

関わらない。



その夜。


私は、

またしても静かに宿で過ごしていた。


外では、

話し合いが再開されている。


だが、

雰囲気は少しだけ変わった。


誰かが、

前に出るかもしれない。


出ないかもしれない。


どちらでもいい。


(……これ以上は、

 私の問題じゃない)


私は、

極秘日記を開いた。


『本日の学び』

『条件は、答えより強い』

『責任を可視化すると、人は黙れなくなる』


ペンを置き、

小さく息を吐く。


「……これで、

 本当に離れられるかな」


答えは、

まだ分からない。


だが。


少なくとも――

私は、

 誰かの代わりに

 決断する役は、

 引き受けなかった。


それだけで、

今日は十分だ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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