第8話 関わらない選択が、正解とは限らないようです
結論から言うと。
私の「関わらない」という選択は、
万能ではなかった。
◇
地方の街は、
表面上はいつも通りだった。
市場は開き、
子どもたちは走り回り、
大人たちは忙しそうに行き交う。
……ただし。
(空気が、少しだけ重い)
私は、
宿から街を眺めながら、
違和感を覚えていた。
理由は簡単だ。
皆、
「様子を見ている」。
誰が何をするか。
誰が最初に動くか。
責任を引き受けるのは誰か。
(これ、王都と同じだ)
◇
「……集会が、止まりません」
昼過ぎ、
護衛が低い声で報告してきた。
「学生たちが話し合いを続けているのですが……
意見がまとまらず、
対立が生まれ始めています」
(ああ)
嫌な予感が、
きれいに当たった。
「領主は?」
「様子見です。
“若者の自主性を尊重したい”と」
(便利な言葉だな、それ)
自主性。
尊重。
つまり――
決断しない言い訳。
私は、
窓の外から視線を外した。
「……私は、
関わらない方針です」
念のため、
はっきりと言う。
護衛は、
少しだけ躊躇いながら頷いた。
「承知しました」
◇
夕方。
街の一角が、
少し騒がしくなった。
怒鳴り声。
泣き声。
大事には至っていない。
だが、
確実に「亀裂」は生まれている。
(これ以上は……)
私は、
立ち上がりかけ――
そして、止まった。
(違う)
ここで出て行けば、
私は“調停役”になる。
それは、
一番やってはいけないことだ。
私が立てば、
誰かが立たなくなる。
(……でも)
胸の奥が、
少しだけざわついた。
私は、
その感覚を無視した。
◇
夜。
宿に戻ると、
机の上に一通の書き置きがあった。
筆跡は、
昼間に会った少年のもの。
『今日、話し合いがうまくいきませんでした
みんな、正しさを譲れなくて
少しだけ、怖くなりました』
『でも
あなたが言った通り
これは、私たちの問題だと思います』
『だから
あなたを呼びませんでした』
私は、
その文面を、
しばらく見つめていた。
(……呼ばれなかった)
それは、
私が望んだ結果だ。
私は、
関わらない。
私は、
答えを出さない。
私は、
象徴にならない。
それなのに。
(……少しだけ、
胸が重い)
◇
翌朝。
街の広場では、
二つの意見が完全に割れていた。
・すぐに改革を求める者
・現状維持を主張する者
どちらも、
正しい。
どちらも、
怖い。
そして――
どちらも、決断を引き受けたくない。
私は、
遠くからそれを見ていた。
近づかない。
声をかけない。
ただ、
一つだけ、
理解したことがある。
(……関わらない、
だけでは足りない)
逃げるには、
**「逃げ場の形」**が必要だ。
誰もが、
誰かの後ろに隠れられる限り、
問題は表に出ない。
だが、
私がいないことで、
この街は――
自分たちで立たされている。
それは、
痛みを伴う。
私は、
静かに息を吐いた。
(……私は、
正しかったのかな)
答えは、
出さない。
出せない。
私はただ、
一つだけ決めた。
次は、
“関わらないまま、
構造だけを切る方法”を探そう。
助けない。
導かない。
背負わない。
それでも、
潰れない形を。
それができなければ――
この先、
私はどこへ逃げても、
同じ光景を見ることになる。
静かな夜の中、
私は初めて、
ほんの少しだけ考えていた。
平穏とは、
何もしないことではなく、
“誰もが立てる余白”なのかもしれない、と。
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