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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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第8話 関わらない選択が、正解とは限らないようです

結論から言うと。


私の「関わらない」という選択は、

万能ではなかった。



地方の街は、

表面上はいつも通りだった。


市場は開き、

子どもたちは走り回り、

大人たちは忙しそうに行き交う。


……ただし。


(空気が、少しだけ重い)


私は、

宿から街を眺めながら、

違和感を覚えていた。


理由は簡単だ。


皆、

「様子を見ている」。


誰が何をするか。

誰が最初に動くか。

責任を引き受けるのは誰か。


(これ、王都と同じだ)



「……集会が、止まりません」


昼過ぎ、

護衛が低い声で報告してきた。


「学生たちが話し合いを続けているのですが……

 意見がまとまらず、

 対立が生まれ始めています」


(ああ)


嫌な予感が、

きれいに当たった。


「領主は?」


「様子見です。

 “若者の自主性を尊重したい”と」


(便利な言葉だな、それ)


自主性。

尊重。


つまり――

決断しない言い訳。


私は、

窓の外から視線を外した。


「……私は、

 関わらない方針です」


念のため、

はっきりと言う。


護衛は、

少しだけ躊躇いながら頷いた。


「承知しました」



夕方。


街の一角が、

少し騒がしくなった。


怒鳴り声。

泣き声。


大事には至っていない。

だが、

確実に「亀裂」は生まれている。


(これ以上は……)


私は、

立ち上がりかけ――

そして、止まった。


(違う)


ここで出て行けば、

私は“調停役”になる。


それは、

一番やってはいけないことだ。


私が立てば、

誰かが立たなくなる。


(……でも)


胸の奥が、

少しだけざわついた。


私は、

その感覚を無視した。



夜。


宿に戻ると、

机の上に一通の書き置きがあった。


筆跡は、

昼間に会った少年のもの。


『今日、話し合いがうまくいきませんでした

 みんな、正しさを譲れなくて

 少しだけ、怖くなりました』


『でも

 あなたが言った通り

 これは、私たちの問題だと思います』


『だから

 あなたを呼びませんでした』


私は、

その文面を、

しばらく見つめていた。


(……呼ばれなかった)


それは、

私が望んだ結果だ。


私は、

関わらない。


私は、

答えを出さない。


私は、

象徴にならない。


それなのに。


(……少しだけ、

 胸が重い)



翌朝。


街の広場では、

二つの意見が完全に割れていた。


・すぐに改革を求める者

・現状維持を主張する者


どちらも、

正しい。


どちらも、

怖い。


そして――

どちらも、決断を引き受けたくない。


私は、

遠くからそれを見ていた。


近づかない。

声をかけない。


ただ、

一つだけ、

理解したことがある。


(……関わらない、

 だけでは足りない)


逃げるには、

**「逃げ場の形」**が必要だ。


誰もが、

誰かの後ろに隠れられる限り、

問題は表に出ない。


だが、

私がいないことで、

この街は――

自分たちで立たされている。


それは、

痛みを伴う。


私は、

静かに息を吐いた。


(……私は、

 正しかったのかな)


答えは、

出さない。


出せない。


私はただ、

一つだけ決めた。


次は、

 “関わらないまま、

 構造だけを切る方法”を探そう。


助けない。

導かない。

背負わない。


それでも、

潰れない形を。


それができなければ――

この先、

私はどこへ逃げても、

同じ光景を見ることになる。


静かな夜の中、

私は初めて、

ほんの少しだけ考えていた。


平穏とは、

 何もしないことではなく、

 “誰もが立てる余白”なのかもしれない、と。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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