表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/21

第6話 冷たくしただけなのに、なぜか感謝されました

その日から、

私は一つ、方針を変更した。


共感しない。

寄り添わない。

話を聞かない。


優しさは仕事を呼ぶ。

これはもう、身をもって理解した。


だから今日の私は、

少しだけ――冷たい。



昼休みの学園。


中庭に向かう途中、

案の定、呼び止められた。


「……アリシア様」


下級生の令嬢だ。

相談会に来ていた子。


表情は不安げで、

目元に少しだけ赤みがある。


(来たな)


私は、足を止めはしたが、

距離は詰めない。


「何でしょう」


声は、いつもより低く。

感情は乗せない。


彼女は一瞬だけ怯んだが、

意を決したように口を開いた。


「……昨日のことなんですけど……

 やっぱり、まだ迷っていて……」


(ここで切る)


「私に聞く必要はありません」


即答した。


彼女が言葉を失う。


「え……?」


「あなたの進路も、人間関係も、

 私が答えを出すことではないので」


間違ったことは言っていない。

ただ、突き放しただけだ。


「でも……」


「前回も言いましたが」


私は、淡々と続ける。


「逃げるか、向き合うか、

 どちらを選んでも、

 責任を負うのはあなたです」


冷たい。

自覚はある。


だが、

これ以上、私のところに

“答え”を置かせるわけにはいかない。


彼女は、唇を噛みしめた。


「……アリシア様は、

 冷たいんですね」


(うん、正解)


「そうかもしれません」


否定しなかった。


取り繕わない。

ここが重要だ。


「……失礼します」


彼女は一礼し、

足早にその場を離れていった。


(よし)


私は、内心で頷いた。


これでいい。

これで、相談は減る。



……と、思っていた。


その日の放課後。


「聞いた?」


「アリシア様、

 相談を突き放したんですって」


(来た、噂)


「冷たい、って泣かれたらしいわ」


(想定内)


私は、図書室の隅で本を読みながら、

完全に聞こえないふりをしていた。


だが。


「……でも」


別の声が続く。


「その子、

 結局、自分で進路願い出したんですって」


(え)


「家族とも話したらしいし、

 担任にも相談したって……」


(あれ)


私は、

本のページをめくる手を止めた。


「アリシア様に、

 『自分の責任だ』って言われたから、

 覚悟が決まったって……」


(……まさか)


噂は、

思っていた方向とは

少しだけ違う形で広がっていた。



翌日。


その下級生が、

私の前に現れた。


だが、

昨日とは違う。


背筋が伸び、

目に迷いがない。


「……昨日は、

 失礼なことを言いました」


彼女は、深く頭を下げた。


「いいえ」


私は、短く返した。


余計な言葉は、

また誤解を生む。


「アリシア様に突き放されて……

 正直、ショックでした」


(でしょうね)


「でも……

 初めて、自分で決めようと思えました」


彼女は、

小さく笑った。


「今まで、

 誰かに“正解”を貰おうとしてたんだなって」


(……)


これは。


救った、のか?


いや、違う。

私は何もしていない。


ただ、

助けなかっただけだ。


「……それなら、良かったです」


それだけ言って、

私は視線を外した。


彼女は、

それ以上何も言わず、

静かに去っていった。



私は、

自分の席に戻りながら考えていた。


(これは……)


優しくすると囲われる。

冷たくすると、距離は取れる。


だが。


冷たく突き放すことで、

 相手が自立する場合もある。


(……厄介だなあ)


この世界は、

どうやら単純に

「無能」「冷たい」では

放っておいてくれないらしい。


その日の夜。


私は、極秘日記を開いた。


『本日の学び』

『助けないことは、

 必ずしも悪ではない』

『しかし、それすら美談になる可能性あり』


ペンを置き、

天井を見る。


「……そろそろ、

 本気で“関わらない方法”を

 考えないと」


冷たくした結果、

一人は救われた。


だが同時に、

私の評価は――

また、別の形で上がっている気がする。


「……最近の、アリシア・フォン・ルーヴェンの動向ですが」


王宮の一室で、

宰相は淡々と報告書を読み上げていた。


「学園内での相談対応を減らし、

 感情的な介入を控えているとのことです」


「控えている、というより」


若い補佐官が、少し言葉を選びながら続けた。


「……かなり、突き放しているように見えると」


王太子は、黙って聞いていた。


「突き放す……」


その言葉を、

どこか噛みしめるように繰り返す。


「ですが」


宰相が、書類をめくる。


「その結果、

 数名の学生が自発的に進路を決め、

 家族や教師と直接話し合うようになったと」


「……成果が出ているのですか?」


「ええ」


宰相は、静かに頷いた。


「依存を断ち、

 自立を促す――

 極めて高度な距離感です」


(高度じゃない)


もし私がこの場にいたら、

即座にそう言っただろう。


私はただ、

面倒を避けたいだけだ。


「……彼女は」


王太子が、ぽつりと呟いた。


「どこまで考えているのだろうな」


「少なくとも」


宰相は、確信をもって言った。


「感情で動く方ではありません。

 “冷たさ”を選べるということは、

 相手の自立を信じているということ」


(信じてない)


「つまり……」


別の重臣が、

満足そうに頷く。


「“導かない導き”というわけですな」


(やめて)


「助言せず、

 共感せず、

 責任も引き取らない」


「……にもかかわらず、

 結果として人が育つ」


王太子は、

思わず額に手を当てた。


「それは……」


「理想的な教育者です」


宰相が、断言した。


(違う)


「今の若者は、

 誰かに答えを与えられすぎている」


「彼女は、

 それを拒否する姿勢を見せている」


「まさに、新しい時代の象徴……」


言葉が、

勝手に積み重なっていく。


王太子は、

一瞬だけ目を閉じた。


「……彼女は、

 そんなものを望んでいない」


「分かっております」


宰相は、穏やかに答える。


「ですが、

 望まないからこそ、

 説得力があるのです」


(最悪の理論)


「今後の方針ですが」


宰相は、

新たな書類を差し出した。


「彼女には、

 “指導しない姿勢”を

 正式な方針として――」


「待ってください!」


王太子が、

珍しく声を荒げた。


「それ以上、

 彼女を役割に縛るべきではない!」


一瞬、

部屋が静まり返る。


宰相は、

王太子をまっすぐ見た。


「殿下」


静かな声だった。


「彼女は、

 すでに象徴です」


「……」


「象徴になった者は、

 逃げようとするほど、

 強く意味を持たされる」


王太子は、

何も言えなかった。



その頃、私は――


「……なんで寒気がするんだろ」


学園の廊下で、

小さく肩をすくめていた。


(また、どこかで変な評価されてるな)


この感覚は、

間違いない。


「……今日も、

 早く帰ろう」


私は、

何も知らないまま、

全力で平穏を選んでいた。


だが。


その平穏は、

また一歩、

遠ざかっている。



その日の夜。


極秘日記。


『本日の学び』

『冷たい=信念がある、になるらしい』

『この国、解釈が暴走しがち』


ペンを置き、

私はため息をついた。


「……そろそろ、

 本当に“逃げ場”を作らないと」


無能でも、

冷たくても、

関わらなくても。


――意味を与えられる限り、

 私は放っておかれない。


そう悟った瞬間だった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


次の投稿からは、1日1回の更新になります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ