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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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20/21

第20話 何も言わずに、いなくなりました

決断は、

衝動ではなかった。


静かな夜、

別棟の部屋で、

私は一つずつ確認していた。



荷物は、

多くない。


元々、

必要最低限しか持たない主義だ。


本。

日記。

替えの衣服。


王宮から与えられたものは、

すべて置いていく。


(これは、

私のものじゃない)



窓を開ける。


夜の空気は、

冷たく、澄んでいる。


警備の配置も、

把握していた。


善意の警備は、

穴が多い。


守るつもりの配置は、

「逃げる」発想を持たない。


(ありがとう、善意)



私は、

机の上に一通の書簡を残した。


宛名はない。


読むべき人は、

分かっている。


私は、

誰かを導くつもりはありません。


誰かの象徴になることも、

拒否します。


私がいなくても、

世界は動きます。


だから、

探さないでください。


署名は、

しなかった。


(名前は、

 もう十分使われた)



別棟を出る時、

足音は一つもしなかった。


夜は、

すべてを受け入れる。


私は、

一度も振り返らず、

敷地を抜けた。



翌朝。


王宮は、

静かな混乱に包まれた。


「……いない?」


「別棟は?」


「警備は?」


「書簡が――」


声は、

低く、抑えられている。


騒ぎにならないよう、

細心の注意が払われていた。


彼女が“いなくなった”こと自体を、

 意味にしてはいけない。


それが、

共通認識だった。


だが。



礼拝堂では、

別の解釈が生まれていた。


「……ついに、

 完全な沈黙へ」


「姿を消すことで、

 象徴を超えた」


「我々は、

 試されている」


誰も、

彼女を探そうとはしない。


それが、

“敬意”だと信じているからだ。



王宮と宗教。


両方が、

同時に“動けなくなる”。


彼女が、

いないから。



その頃。


私は、

王都から離れた

名もない街道を歩いていた。


人のいない道。


標識もない。


(……静かだ)


夜明け前の空は、

少しだけ明るい。


私は、

小さく息を吐いた。


「……やっと」


言葉は、

それだけ。


達成感も、

高揚もない。


ただ――

軽い。



その日の夜。


王都では、

正式な発表はなされなかった。


失踪ではない。

追放でもない。


「沈黙」。


それだけが、

共有された。



街道の先で、

私は振り返らずに歩き続ける。


行き先は、

決めていない。


決めないことが、

今の私の選択だ。


極秘日記に、

最後の一行を書き足す。


『本日の学び』

『消えると、

 ようやく

 自分の足音が聞こえる』


私は、

日記を閉じた。


世界は、

きっと混乱する。


でも――

それは、

私の問題じゃない。


私は、

ただ静かに、

生きる。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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