第19話 誰も、近づかなくなりました
最初に変わったのは、
距離だった。
◇
「……今日は、
こちらでお過ごしください」
王宮から派遣された文官が、
丁寧すぎる口調でそう言った。
示されたのは、
学園の外れにある
静かな別棟。
「人の出入りが少なく、
落ち着ける場所です」
(隔離、だ)
私は、
すぐに理解した。
だが、
拒否はしない。
拒否すれば、
理由が生まれる。
理由は、
解釈を呼ぶ。
「……ありがとうございます」
それだけ言って、
私は別棟へ向かった。
◇
部屋は、
驚くほど整っていた。
必要なものは、
すべて揃っている。
本。
食事。
紅茶。
不足しているのは、
人だけだ。
(徹底してるな)
◇
学園では、
私の話題が出なくなった。
それは、
噂が消えた、という意味ではない。
“触れてはいけないもの”
になっただけだ。
「……あの方のことは」
「今は、
そっとしておこう」
善意。
最大級の善意。
私は、
廊下の向こうで聞いた
その言葉を、
何も言わずに受け取った。
◇
ミレイユ嬢も、
来なくなった。
最後に見かけた時、
彼女は遠くから
一礼しただけだった。
近づけば、
彼女まで
巻き込まれる。
それを、
彼女は理解している。
(……賢い選択だ)
私は、
その判断を
尊重した。
◇
夜。
別棟の部屋は、
音がしない。
風の音すら、
遠い。
私は、
机に向かい、
極秘日記を開いた。
『本日の学び』
『孤立は、
罰ではなく
配慮として与えられる』
ペンを置き、
しばらく
その言葉を眺める。
……楽なはずだった。
誰にも期待されない。
誰にも求められない。
(ずっと、
望んでた状態だ)
それなのに。
胸の奥で、
ほんの小さな音がした。
――からん。
何かが、
転がったような感覚。
(……ああ)
私は、
初めて気づいた。
私は、
“孤立”を
望んでいたわけじゃない。
ただ、
使われたくなかっただけだ。
◇
その夜遅く。
扉の外で、
足音が止まった。
だが、
ノックはない。
声もない。
私は、
椅子から立ち上がらず、
そのまま待った。
やがて、
足音は去った。
(……誰も、
来なかった)
それが、
今の私の立ち位置だ。
◇
私は、
灯りを落とし、
ベッドに横になった。
暗闇の中で、
小さく息を吐く。
「……誰もいないのは、
楽なはずだったんだけど」
声は、
誰にも届かない。
日記に、
一行だけ書き足す。
『追記』
『それでも、
少しだけ
静かすぎる』
ペンを置き、
目を閉じた。
この孤立は、
誰かの悪意ではない。
だからこそ――
長く続く。
私は、
それを理解しながら、
眠りについた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




