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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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19/21

第19話 誰も、近づかなくなりました

最初に変わったのは、

距離だった。



「……今日は、

 こちらでお過ごしください」


王宮から派遣された文官が、

丁寧すぎる口調でそう言った。


示されたのは、

学園の外れにある

静かな別棟。


「人の出入りが少なく、

 落ち着ける場所です」


(隔離、だ)


私は、

すぐに理解した。


だが、

拒否はしない。


拒否すれば、

理由が生まれる。


理由は、

解釈を呼ぶ。


「……ありがとうございます」


それだけ言って、

私は別棟へ向かった。



部屋は、

驚くほど整っていた。


必要なものは、

すべて揃っている。


本。

食事。

紅茶。


不足しているのは、

人だけだ。


(徹底してるな)



学園では、

私の話題が出なくなった。


それは、

噂が消えた、という意味ではない。


“触れてはいけないもの”

になっただけだ。


「……あの方のことは」


「今は、

 そっとしておこう」


善意。

最大級の善意。


私は、

廊下の向こうで聞いた

その言葉を、

何も言わずに受け取った。



ミレイユ嬢も、

来なくなった。


最後に見かけた時、

彼女は遠くから

一礼しただけだった。


近づけば、

彼女まで

巻き込まれる。


それを、

彼女は理解している。


(……賢い選択だ)


私は、

その判断を

尊重した。



夜。


別棟の部屋は、

音がしない。


風の音すら、

遠い。


私は、

机に向かい、

極秘日記を開いた。


『本日の学び』

『孤立は、

 罰ではなく

 配慮として与えられる』


ペンを置き、

しばらく

その言葉を眺める。


……楽なはずだった。


誰にも期待されない。

誰にも求められない。


(ずっと、

 望んでた状態だ)


それなのに。


胸の奥で、

ほんの小さな音がした。


――からん。


何かが、

転がったような感覚。


(……ああ)


私は、

初めて気づいた。


私は、

“孤立”を

望んでいたわけじゃない。


ただ、

使われたくなかっただけだ。



その夜遅く。


扉の外で、

足音が止まった。


だが、

ノックはない。


声もない。


私は、

椅子から立ち上がらず、

そのまま待った。


やがて、

足音は去った。


(……誰も、

 来なかった)


それが、

今の私の立ち位置だ。



私は、

灯りを落とし、

ベッドに横になった。


暗闇の中で、

小さく息を吐く。


「……誰もいないのは、

 楽なはずだったんだけど」


声は、

誰にも届かない。


日記に、

一行だけ書き足す。


『追記』

『それでも、

 少しだけ

 静かすぎる』


ペンを置き、

目を閉じた。


この孤立は、

誰かの悪意ではない。


だからこそ――

長く続く。


私は、

それを理解しながら、

眠りについた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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