第18話 不在は、完成形だと語られていました
その集会は、
夕刻に開かれていた。
◇
場所は、
王都の外れにある小さな礼拝堂。
本来は、
特定の宗派を持たない、
誰でも使える静かな場所だった。
そこに今、
十数名の人が集まっている。
声は低く、
言葉は少ない。
「……彼女は、
もう語らない」
一人の男性が、
穏やかに言った。
「それは、
拒絶ではありません」
別の女性が、
頷く。
「語らないことで、
私たちは
自分で決めるようになった」
「導かれない自由……」
「沈黙は、
完成に近づいている証です」
その場に、
彼女はいない。
名前も、
呼ばれない。
だが。
全員が、
同じ人物を思い浮かべている。
◇
「以前は」
一人の若者が、
手を胸に当てて語る。
「“沈黙の姿勢”を
真似ることが、
目的だった」
「でも、今は違う」
「彼女が
いなくてもいい」
その言葉に、
場が静まった。
誰かが、
息を呑む。
「……それは」
年配の女性が、
慎重に言った。
「彼女が、
完成したということでは?」
沈黙。
それは、
肯定でも否定でもない。
だが、
誰も反論しなかった。
◇
その頃、私は――
特に何もない一日を
過ごしていた。
◇
朝。
目を覚まし、
紅茶を淹れる。
誰にも呼ばれない。
誰にも期待されない。
(いい朝だ)
◇
昼。
図書室で、
本を読む。
声をかけられない。
視線もない。
(理想的)
◇
夕方。
中庭を歩く。
誰も、
道を空けない。
(普通だ)
私は、
小さく息を吐いた。
(……やっと、
静かになった)
◇
だが。
その夜。
極秘日記を開いた私は、
ふと、手を止めた。
『本日の学び』
『不在は、
時に存在より
強い意味を持つ』
ペン先が、
少しだけ震えた。
(……完成形、か)
誰かが、
私の不在を
“完成”と呼ぶ。
それは、
賞賛でも、
悪意でもない。
ただ、
回収不能な解釈だった。
◇
同じ夜。
礼拝堂では、
集会が終わりを迎えていた。
「……彼女は、
もう必要ない」
誰かが、
そう言った。
「沈黙は、
私たちの中に
残った」
人々は、
静かに立ち上がる。
誰も、
指示しない。
誰も、
答えを出さない。
それでも――
納得した顔をしていた。
◇
私は、
自室の灯りを落とした。
静かだ。
望んでいたはずの、
静けさ。
なのに。
「……これは、
成功なのかな」
小さく呟き、
答えを待たずに
目を閉じた。
沈黙は、
確かに深まっている。
ただし――
私の手の届かない場所で。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
あと数話で完結となります。
ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。




