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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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16/21

第16話 王宮は、静かに焦り始めました

異変を最初に察知したのは、

王宮だった。


それも、

かなり遅れて。



「……沈黙の道、ですか」


宰相は、

机の上に並べられた報告書を眺めながら、

わずかに眉を寄せた。


「思想集団としては、

 まだ小規模ですが――」


補佐官が、

慎重に言葉を選ぶ。


「広がり方が、

 非常に速いです」


王太子は、

黙って資料に目を落としていた。


そこには、

地方での集会、

学園内での勉強会、

非公式な読書会の報告が並んでいる。


共通点は一つ。


どれも、

アリシア・フォン・ルーヴェンの

“沈黙”を核にしている。


「……彼女は、

 何か言っているのか?」


王太子が、

低く尋ねた。


「いえ」


補佐官は、

即答した。


「一切、語っていません。

 否定も、肯定も」


「……それが、

 一番厄介だな」


王太子は、

小さく息を吐いた。



宰相が、

静かに言った。


「思想は、

 禁止すると殉教者を生みます」


「利用すれば、

 制御不能になります」


「放置すれば――」


「勝手に育つ、か」


王太子が、

言葉を継いだ。


宰相は、

否定しなかった。


「現状、

 彼女は何もしていない」


「だからこそ、

 “純度が高い”」


(最悪の評価)


「……アリシアは、

 これを望んでいない」


王太子の声には、

はっきりとした苛立ちがあった。


「分かっております」


宰相は、

穏やかに頷く。


「ですが殿下。

 “望まない象徴”ほど、

 強いものはありません」



「対応策は?」


王太子が、

問いを投げる。


宰相は、

一枚の紙を差し出した。


「三案あります」


一、

公式に否定声明を出させる

→ 本人が語る=思想が確定する


二、

王宮が思想を吸収する

→ 宗教対立の火種になる


三、

彼女を表舞台から消す


王太子は、

三番目を見つめたまま、

しばらく動かなかった。


「……それは」


「“保護”という名目になります」


宰相は、

淡々と告げる。


「国外視察。

 長期静養。

 あるいは、

 存在を薄める配置」


「彼女の意思は?」


王太子が、

絞り出すように聞いた。


宰相は、

ほんの一瞬だけ、

目を伏せた。


「――確認する前に、

 事は動いています」



その頃、私は――


「……紅茶、冷めたな」


自室で、

静かにカップを見下ろしていた。


ここ数日、

奇妙な来客は増えたが、

直接的な圧力はない。


それが、

一番不気味だった。


(……そろそろ、

 来る)


この感覚は、

外れたことがない。



夜。


極秘日記。


『本日の学び』

『善意が一致すると、

 逃げ場は消える』

『王宮が動く時は、

 だいたい遅い』


ペンを置き、

私は決めた。


“消える準備”を始めよう。


逃げるのではない。

隠れるのでもない。


――存在を、薄くする。


それが、

今の私にできる、

唯一の防御だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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