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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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第15話 沈黙を拝みに来る人が現れました

最初に違和感を覚えたのは、

学園の正門だった。



いつもより、

人が多い。


生徒ではない。

教師でもない。

貴族ですらない。


服装は質素で、

だが目だけが異様に真剣だった。


(……一般人?)


私は、

自然に歩幅を変え、

視線を落とした。


関わらない。

見ない。

気づかない。


それが、

ここまでの最適解だった。


だが。


「……あの方です」


小さな声が、

確かに聞こえた。


(あ)



逃げきれなかった。


学園の外れ、

人通りの少ない回廊で、

一人の女性が

深く頭を下げてきた。


年の頃は三十代半ば。

身なりは整っているが、

どこか疲れている。


「突然、

 申し訳ありません」


(突然なのはいつもだ)


「アリシア・フォン・ルーヴェン様、

 でいらっしゃいますね」


否定しても、

意味はない。


「……そうですが」


最低限の返答だけ。


女性は、

さらに深く頭を下げた。


「私は、

 “沈黙の道”を学ぶ者です」


(もう名前がある)


「は?」


思わず、

素で聞き返してしまった。


「私たちは、

 あなたの在り方に

 救われました」


(何もしてない)


「語らず、

 導かず、

 それでも責任を奪わない姿勢……」


(奪ってないだけ)


「どうか、

 あなたのお言葉を――」


「ありません」


即答だった。


言葉を与えた瞬間、

聖句が生まれる。


それは、

絶対に避けなければならない。



女性は、

一瞬だけ目を見開き――

それから、

穏やかに微笑んだ。


「……ええ。

 それでこそ」


(それでこそ?)


「語らないことこそ、

 最大の教え」


(違う)


「沈黙の中にこそ、

 人は自分の責任を

 見出すのです」


(違うって)


私は、

反論しなかった。


反論すれば、

“語った”ことになる。


「……もう一度言います」


私は、

感情を極力排した声で言った。


「私は、

 あなた方の思想とは

 無関係です」


女性は、

一瞬だけ視線を伏せた。


「……承知しています」


(してない)


「だからこそ、

 私たちは

 あなたを

 “師”とは呼びません」


(呼ばないで)


「“象徴”です」


(最悪)



「……どこで、

 広まっているのですか」


避けられない質問だけ、

一つ投げた。


女性は、

少しだけ驚いた顔をして、

正直に答えた。


「地方です。

 学園です。

 王都です」


(全部じゃん)


「救われた人が、

 語り始めました」


「語らない姿勢が、

 逆に――」


(感染源、感謝)



私は、

何も言わず、

一礼した。


これ以上、

話すことはない。


女性も、

それ以上は追ってこなかった。


ただ、

最後にこう言った。


「ご安心ください」


「私たちは、

 あなたを

 縛るつもりはありません」


(縛ってる)


「沈黙は、

 強制できないものですから」


その言葉だけが、

妙に正しかった。



その夜。


極秘日記。


『本日の学び』

『思想は、

 否定できない速度で増殖する』

『語らなくても、

 象徴にはされる』


ペンを置き、

私は長く息を吐いた。


「……これは、

 まずい段階だな」


制度でもない。

噂でもない。


信じている人間がいる。


それは、

最も扱いづらい。


私は、

初めて真剣に考え始めていた。


「完全に姿を消す」という選択肢を。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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