第14話 何もしていないのに、解説書が出ていました
異変に気づいたのは、
図書室だった。
◇
(……増えてる)
本棚の一角。
つい先週まで、
確かに存在しなかったはずの棚が、
堂々と鎮座している。
分類札には、
こう書かれていた。
【近代社会思想・教育論】
(嫌な予感しかしない)
私は、
そっと一冊を引き抜いた。
『沈黙による指導論
――ルーヴェン方式の理論と実践――』
(理論?)
ページをめくる。
第一章:
「語らないという選択の哲学的意義」
(哲学?)
第二章:
「責任を明確化することで生まれる自律性」
(それ、私が言ったやつ)
第三章:
「沈黙の象徴がもたらす社会的変化」
(象徴って言うな)
私は、
本を閉じた。
(……誰だ、書いたの)
◇
「それ、
話題になってますよ」
いつの間にか隣にいたのは、
見知らぬ上級生だった。
「読んだんですか?」
「いいえ」
即答。
「内容は?」
「知りません」
(知りたくない)
上級生は、
目を輝かせて言った。
「すごいですよ!
“沈黙は逃避ではなく、
高度な意思表示である”って!」
(勝手に高度にしないで)
「アリシア様、
本当にすごいですよね!」
私は、
本を棚に戻した。
「……それ、
誰が書いたか知ってます?」
「さあ?」
(でしょうね)
◇
その日の午後。
学園内は、
妙にざわついていた。
「ルーヴェン方式ってさ……」
「質問されても、
すぐ答えちゃいけないらしい」
「沈黙の時間が、
思考を促すんだって!」
(間違ってはいないのが腹立つ)
極めつけは、
廊下で聞いたこの一言だ。
「先生が言ってた。
“アリシア様の沈黙を
見習いなさい”って」
(やめて)
◇
放課後。
私は、
全力で気配を消しながら
中庭を歩いていた。
「……アリシア様」
(気配、消えてなかった)
振り返ると、
数人の生徒が立っている。
表情は真剣。
(来るな……)
「質問しても、
よろしいでしょうか」
(よろしくない)
「……内容によります」
保険をかける。
生徒の一人が、
意を決したように言った。
「今、
答えないでいただけますか?」
(は?)
「え?」
「沈黙が、
答えなんですよね?」
(違う)
私は、
一瞬だけ言葉を失った。
そして、
すぐに理解した。
(あ、これ……
もう私の手を離れてる)
私は、
ゆっくりと息を吐いた。
「……好きに解釈してください」
そう言って、
その場を離れた。
背後から、
ざわめきが聞こえる。
「今の、
深いよね……」
「やっぱり……」
(深くない)
◇
その夜。
極秘日記。
『本日の学び』
『思想は、本より先に広まる』
『否定しないと、肯定になる』
ペンを置き、
私は布団に倒れ込んだ。
「……次は、
何が来るんだろう」
制度。
思想。
そして、この流れなら――
(宗教、かな)
笑えない予感に、
私は小さく天井を見上げた。
「……静かに生きるの、
難易度高すぎない?」
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