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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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13/21

第13話 前例として消費され始めました

静かな朝、というものは、

たいてい長くは続かない。


私はそれを、

経験則として知っている。



「……参考意見募集、ですか」


王宮文官局から届いた書簡を、

私は朝の紅茶を飲みながら眺めていた。


語調は丁寧。

内容は曖昧。

そして何より――

断れるが、断りづらい。


(いつものやつ)


『地方教育制度における新たな指針策定にあたり、

 過去事例に詳しいご意見を――』


過去事例。


つまり、

私が行って、

何もせず、

条件だけ出して帰ってきた、

あの件だ。


(まだ“成功例”扱いしてるのか)


私は、

その書簡を静かに閉じた。


返事は出さない。

これも、

私の選択だ。



その日の午後。


学園の掲示板の前で、

人だかりができていた。


嫌な予感がして、

少し遠回りをしようとしたが――

視界に、

見覚えのある言葉が入った。


『地方教育試行モデル(通称:ルーヴェン方式)』


(通称、つけたの誰)


私は、

足を止めた。


掲示内容を、

必要最低限だけ読む。


・決断の責任を明確にする

・助言は行わない

・当事者同士で合意形成を行う


(……条件、

 そのまま抜き出されてる)


しかも。


「すごいですよね、

 アリシア様って」


背後から、

ひそひそ声が聞こえる。


「何も言わずに、

 あそこまで変えたんでしょう?」


「まさに、

 新しい時代の貴族像……」


(やめて)


私は、

掲示板から視線を外し、

何も見なかったことにした。



放課後。


ミレイユ嬢が、

珍しく真剣な顔で近づいてきた。


「……聞きました?」


「何を、ですか」


「“ルーヴェン方式”」


(聞いてない体で行くか)


「名前だけなら」


彼女は、

困ったように眉を下げた。


「地方だけじゃなくて、

 他の学園にも……

 広げるらしいです」


(ああ、

 横展開が始まった)


「……アリシア様、

 止めなくていいんですか?」


私は、

少しだけ考え――

すぐに答えた。


「止める権限は、

 私にはありません」


「でも……」


「それに」


私は、

淡々と言った。


「私が止めれば、

 “正解を示した”ことになります」


ミレイユ嬢は、

言葉を失った。


「……それは、

 嫌なんですね」


「はい」


即答。



その夜。


極秘日記。


『本日の学び』

『前例は、人を通らずに歩き出す』

『名前が付いた時点で、だいたい負け』


ペンを置き、

私は天井を見上げた。


(……これは、

 まだ序盤だな)


制度化。

横展開。

理念化。


これらは、

必ず次に来る。


そしてその先に――

“信仰”が生まれる。


私は、

小さく息を吐いた。


「……本当に、

 静かに生きたいだけなんだけどな」


だが、

世界は今日も、

私を置き去りにして動いている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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