第12話 静かに生きたいだけなのに
朝の光が、
カーテン越しに部屋へ差し込んでいた。
久しぶりに、
何の予定もない朝だった。
(……静かだ)
王宮特別顧問補佐。
肩書きはそのまま。
だが、
実務はゼロ。
会議の招集も、
書類の山も、
誰かの相談もない。
(本当に、
何もしなくていいらしい)
私は、
ゆっくりとベッドを抜け出した。
◇
学園に戻ると、
周囲の空気は少しだけ変わっていた。
過剰な視線は減り、
噂話も、
以前ほど聞こえてこない。
「……おはようございます」
挨拶は、
必要最低限。
「おはよう」
それで終わる。
(理想)
ミレイユ嬢だけが、
少しだけ近づいてきた。
「……地方の件、
大変でしたね」
「いいえ」
私は首を振る。
「何もしていませんから」
彼女は、
困ったように笑った。
「それが、
アリシア様らしいです」
(それ、褒め言葉じゃないよね)
◇
放課後。
中庭のベンチに座り、
私は本を読んでいた。
静か。
邪魔もない。
――完璧だ。
そこへ。
「……アリシア」
王太子だった。
(来ないって言ったのに)
だが、
表情は穏やかだ。
「用件は?」
「報告だ」
彼は、
ベンチの端に立ったまま言う。
「地方の街だが……
改革案は、
予定より早く修正された」
「そうですか」
「責任者の一人が、
辞任を申し出たそうだ」
(折れたか)
「だが、
代わりに別の者が立った」
王太子は、
小さく息を吐いた。
「……完全ではないが、
動いている」
「それは、
その街の選択ですね」
「そうだ」
一瞬の沈黙。
「君は、
行かなくていい」
私は、
本から目を離さずに答えた。
「行く理由がありません」
王太子は、
少しだけ笑った。
「……君は、
本当に厄介だ」
「褒め言葉として
受け取っておきます」
◇
王太子が去った後、
私は再び本に視線を戻した。
だが、
文字は頭に入ってこない。
(……世界は、
勝手に動くんだな)
私がいても。
いなくても。
なら。
(私は、
静かな場所を選び続ければいい)
◇
その夜。
極秘日記。
『第十二日』
『逃げ続けても、
世界は終わらない』
『むしろ、その方が
回ることもある』
ページを閉じ、
私は深く息を吐いた。
「……よし」
明日も、
何もしない。
期待も、
責任も、
善意も。
全部、
必要な人が
必要な分だけ
背負えばいい。
私はただ――
静かに、生きたいだけだ。
そのはずなのに。
机の上に、
新しい封書が置かれているのに
気づいてしまった。
差出人:王宮文官局
件名:「次期制度検討会の開催について(参考意見募集)」
私は、
しばらくそれを見つめ――
そっと、引き出しにしまった。
「……明日でいいか」
静かな夜は、
まだ続いている。
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