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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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12/21

第12話 静かに生きたいだけなのに

朝の光が、

カーテン越しに部屋へ差し込んでいた。


久しぶりに、

何の予定もない朝だった。


(……静かだ)


王宮特別顧問補佐。

肩書きはそのまま。


だが、

実務はゼロ。


会議の招集も、

書類の山も、

誰かの相談もない。


(本当に、

 何もしなくていいらしい)


私は、

ゆっくりとベッドを抜け出した。



学園に戻ると、

周囲の空気は少しだけ変わっていた。


過剰な視線は減り、

噂話も、

以前ほど聞こえてこない。


「……おはようございます」


挨拶は、

必要最低限。


「おはよう」


それで終わる。


(理想)


ミレイユ嬢だけが、

少しだけ近づいてきた。


「……地方の件、

 大変でしたね」


「いいえ」


私は首を振る。


「何もしていませんから」


彼女は、

困ったように笑った。


「それが、

 アリシア様らしいです」


(それ、褒め言葉じゃないよね)



放課後。


中庭のベンチに座り、

私は本を読んでいた。


静か。

邪魔もない。


――完璧だ。


そこへ。


「……アリシア」


王太子だった。


(来ないって言ったのに)


だが、

表情は穏やかだ。


「用件は?」


「報告だ」


彼は、

ベンチの端に立ったまま言う。


「地方の街だが……

 改革案は、

 予定より早く修正された」


「そうですか」


「責任者の一人が、

 辞任を申し出たそうだ」


(折れたか)


「だが、

 代わりに別の者が立った」


王太子は、

小さく息を吐いた。


「……完全ではないが、

 動いている」


「それは、

 その街の選択ですね」


「そうだ」


一瞬の沈黙。


「君は、

 行かなくていい」


私は、

本から目を離さずに答えた。


「行く理由がありません」


王太子は、

少しだけ笑った。


「……君は、

 本当に厄介だ」


「褒め言葉として

 受け取っておきます」



王太子が去った後、

私は再び本に視線を戻した。


だが、

文字は頭に入ってこない。


(……世界は、

 勝手に動くんだな)


私がいても。

いなくても。


なら。


(私は、

 静かな場所を選び続ければいい)



その夜。


極秘日記。


『第十二日』

『逃げ続けても、

 世界は終わらない』

『むしろ、その方が

 回ることもある』


ページを閉じ、

私は深く息を吐いた。


「……よし」


明日も、

何もしない。


期待も、

責任も、

善意も。


全部、

必要な人が

必要な分だけ

背負えばいい。


私はただ――

静かに、生きたいだけだ。


そのはずなのに。


机の上に、

新しい封書が置かれているのに

気づいてしまった。


差出人:王宮文官局

件名:「次期制度検討会の開催について(参考意見募集)」


私は、

しばらくそれを見つめ――

そっと、引き出しにしまった。


「……明日でいいか」


静かな夜は、

まだ続いている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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