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期待されない悪役令嬢は、全部放り出して静かに生きたい ~善意と期待が一番迷惑だと、私はもう知っている~  作者: 篠宮しずく


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10/21

第10話 条件は、誰かを救って、誰かを切り捨てる

翌朝。


街は、

昨日よりも静かだった。


だがその静けさは、

落ち着いたものではない。


(……決まったな)


私は、

宿の窓から広場を見下ろしながら、

そう確信していた。


人の動きが、

はっきりと変わっている。



「……決定が、出ました」


朝食の席で、

護衛が簡潔に報告してきた。


「若者代表三名と、

 教育担当官一名が、

 半年間の試験的改革案を――」


「責任者は?」


「……明記されています」


私は、

それだけで十分だった。


(通ったか)


条件は、

受け入れられた。


だが――

それは同時に、

誰かが“切られた”ということでもある。



街に出ると、

早くも小さなざわめきが広がっていた。


「……あの人たちが決めたらしい」


「勝手すぎるんじゃないか?」


「責任を取るって言っても……

 本当に大丈夫なの?」


反発は、

予想通りだった。


全員が納得する決定など、

存在しない。


(だから、

 誰も決めたがらなかった)



昼過ぎ。


例の少年が、

一人で歩いているのを見かけた。


昨日までとは違い、

表情は硬く、

どこか疲れている。


(……背負ったな)


私は、

声をかけなかった。


かけるべきではない。


これは、

彼らが選んだ結果だ。



夕方。


宿の前が、

少し騒がしくなった。


「……アリシア様!」


領主だった。


明らかに、

焦っている。


「一部の保護者が、

 改革案に反発しておりまして……」


(知ってる)


「若者たちに、

 直接抗議が……」


(予想通り)


「このままでは、

 責任者が潰れてしまう……!」


領主の目は、

はっきりとこちらを見ていた。


(助けろ、という目だ)


私は、

一拍だけ置いてから答えた。


「……それは」


言葉を選ばず、

続ける。


「私に言うことではありません」


領主の顔が、

凍りついた。


「ですが……

 あなたが条件を――」


「条件は、

 “責任を明確にすること”です」


私は、

静かに言った。


「“負担を軽くする”とは、

 一言も言っていません」


それは、

冷酷に聞こえただろう。


だが、

事実だ。


「……彼らは、

 それを理解した上で

 引き受けたはずです」


領主は、

言葉を失った。



夜。


広場では、

小規模な口論が起きていた。


怒鳴り声。

涙。

不満。


だが――

暴力はない。


誰も、

“誰が決めたか”を

誤魔化せないからだ。


矛先は、

曖昧に散らばらない。


良くも悪くも、

正面衝突になっている。


(……壊れたな)


小さく。


だが、

確実に。



私は、

その光景を遠くから見て、

一つだけ理解した。


条件は、

万能ではない。


責任を明確にすれば、

人は立つ。


だが同時に――

立った人間は、

 必ず傷つく。


それでも。


誰も立たず、

何も決まらず、

時間だけが過ぎるよりは――


(……まだ、マシか)


私は、

感情を切り離すように、

視線を外した。



その夜。


極秘日記。


『本日の学び』

『条件は、万能薬ではない』

『それでも、曖昧よりは前に進む』


ペンを置き、

私はしばらく黙っていた。


胸の奥に、

わずかな痛みがある。


だが。


(……私は、

 間違ってはいない)


助けなかった。

背負わなかった。

決めなかった。


それでも、

世界は動いた。


それが――

私の選んだ距離感だ。


明日、

私は王都へ戻る。


この街が、

どうなるかは分からない。


だが。


少なくとも、

私はもう――

誰かの代わりに、

 潰れる役を引き受けない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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