第10話 条件は、誰かを救って、誰かを切り捨てる
翌朝。
街は、
昨日よりも静かだった。
だがその静けさは、
落ち着いたものではない。
(……決まったな)
私は、
宿の窓から広場を見下ろしながら、
そう確信していた。
人の動きが、
はっきりと変わっている。
◇
「……決定が、出ました」
朝食の席で、
護衛が簡潔に報告してきた。
「若者代表三名と、
教育担当官一名が、
半年間の試験的改革案を――」
「責任者は?」
「……明記されています」
私は、
それだけで十分だった。
(通ったか)
条件は、
受け入れられた。
だが――
それは同時に、
誰かが“切られた”ということでもある。
◇
街に出ると、
早くも小さなざわめきが広がっていた。
「……あの人たちが決めたらしい」
「勝手すぎるんじゃないか?」
「責任を取るって言っても……
本当に大丈夫なの?」
反発は、
予想通りだった。
全員が納得する決定など、
存在しない。
(だから、
誰も決めたがらなかった)
◇
昼過ぎ。
例の少年が、
一人で歩いているのを見かけた。
昨日までとは違い、
表情は硬く、
どこか疲れている。
(……背負ったな)
私は、
声をかけなかった。
かけるべきではない。
これは、
彼らが選んだ結果だ。
◇
夕方。
宿の前が、
少し騒がしくなった。
「……アリシア様!」
領主だった。
明らかに、
焦っている。
「一部の保護者が、
改革案に反発しておりまして……」
(知ってる)
「若者たちに、
直接抗議が……」
(予想通り)
「このままでは、
責任者が潰れてしまう……!」
領主の目は、
はっきりとこちらを見ていた。
(助けろ、という目だ)
私は、
一拍だけ置いてから答えた。
「……それは」
言葉を選ばず、
続ける。
「私に言うことではありません」
領主の顔が、
凍りついた。
「ですが……
あなたが条件を――」
「条件は、
“責任を明確にすること”です」
私は、
静かに言った。
「“負担を軽くする”とは、
一言も言っていません」
それは、
冷酷に聞こえただろう。
だが、
事実だ。
「……彼らは、
それを理解した上で
引き受けたはずです」
領主は、
言葉を失った。
◇
夜。
広場では、
小規模な口論が起きていた。
怒鳴り声。
涙。
不満。
だが――
暴力はない。
誰も、
“誰が決めたか”を
誤魔化せないからだ。
矛先は、
曖昧に散らばらない。
良くも悪くも、
正面衝突になっている。
(……壊れたな)
小さく。
だが、
確実に。
◇
私は、
その光景を遠くから見て、
一つだけ理解した。
条件は、
万能ではない。
責任を明確にすれば、
人は立つ。
だが同時に――
立った人間は、
必ず傷つく。
それでも。
誰も立たず、
何も決まらず、
時間だけが過ぎるよりは――
(……まだ、マシか)
私は、
感情を切り離すように、
視線を外した。
◇
その夜。
極秘日記。
『本日の学び』
『条件は、万能薬ではない』
『それでも、曖昧よりは前に進む』
ペンを置き、
私はしばらく黙っていた。
胸の奥に、
わずかな痛みがある。
だが。
(……私は、
間違ってはいない)
助けなかった。
背負わなかった。
決めなかった。
それでも、
世界は動いた。
それが――
私の選んだ距離感だ。
明日、
私は王都へ戻る。
この街が、
どうなるかは分からない。
だが。
少なくとも、
私はもう――
誰かの代わりに、
潰れる役を引き受けない。
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