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第二図書室のアーカイブ  作者: つむろ.〈CANA.〉
◉新島 奏編◉

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9/10

【其の九.】加害者と、被害者と、部外者と。

扉のノブに手をかけた瞬間、昨夜、先輩が俺の髪を拭いてくれた時の「指先の圧力」が、後頭部の皮膚をチリチリと焼くような鮮明さで蘇った。


……っ、ダメだ、再生を止めろ……!


4K画質どころか、先輩の吐息に含まれていたわずかなコーヒーの香りまで、アーカイブから強制解凍されて鼻腔をくすぐる。




「灰原? どうした、開けないのか?」



すぐ後ろから降ってきた先輩の声。昨夜、耳元で『好きだよ』と囁いたあの声と同じ周波数が鼓膜を揺らし、俺は危うくその場に蹲りそうになった。



「な、なな、なんでもないです……っ!」


爆発しそうな心臓を制服の上から押さえつけ、俺は逃げるように扉を押し開けた。





















「一年二組の……新島奏……です。その……」


「何か悩んでることがあるんだよね?聞かせてくれる?」


「っ……、あれは、先月の芸術鑑賞会の時の話です」




そう言って新島が語りだしたのは、十一月十三日に行われた芸術鑑賞会の話だった。

叡明高校では、毎年秋に芸術鑑賞会が開催される。

学年毎やクラス毎に別れて合唱コンクールの様な事をするのだ。

もちろん、俺も参加させられた。

ほぼ強制的に。

クラスや学年一丸となって優勝を目指す合唱コンクール。

確か、今年の優勝者は一年二組だと聞いたが……。


一組は、彼女のリーダーシップによってバラバラだったクラスが一つにまとまり、合唱祭で金賞を取った。

それは「クラスの絆」として学校中の語り草になっている。


だが、実は新島は「和を乱す」とされた特定の生徒を、クラスの「正解」のために無意識に、あるいは強制的に排除してしまった様で。


周囲は「新島さんのおかげで勝てた!」


「最高だったね!」


と称賛するが、排除されたその子・深山瑠璃は不登校になり、新島自身も「自分が守った平和は、誰かの犠牲の上に成り立っている」という罪悪感で、指先が震えるほどの恐怖を感じている……と。




「えっと、つまり第二図書室への依頼は……」


「彼女を、学校に登校させたいです……。その後、ちゃんと謝りたい」


「どうする、灰原」

 

「……怖い、か。……新島」


「っ……!はい……ッ!」




俺の低く出した声に新島は、ビクリと身体を僅かに震わせた。

わかっている。

俺はただの部外者だ。

第二図書室の副管理官として話を聞くだけで、新島に寄り添うだけでいい。

新島だって、今自分の罪に向き合おうと必死なんだから、と。

自分を止めようとしたが、それは叶わなかった。

どうしても、過去の自分と深山が重なってしまって―――……。




「それ、排除された側の気持ち、考えてんのか?」


「ちょ、灰原……っ」


「……え、」


「ちゃんと考えたのか?深山がどうして来なくなったのかとか、深山の気持ち、考えた事あんのかって聞いたんだよ……!」


「ッ……!それ……は」


「……考えてないんなら、謝るな。深山が今お前に謝られたところで、相手の気持ちを考えてないんなら、謝ったところで無意味だ。

それどころか、深山にもっと深い傷を負わせるかもな。

……周りの圧に押しつぶされて、新島の謝罪を許したくなくても許さなきゃいけなくなっちまう」

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