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第二図書室のアーカイブ  作者: つむろ.〈CANA.〉
◉プロローグ◉

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5/10

【其の五.】怪物

チャポン、ピチャン、ザッバン。

湯が跳ねる音がその静かな空間に響く。

湯船に入ってすぐ頭に浮かんだのは、先程の千歳先輩との事。

あんな封筒どうでも良いが、先輩に迷惑は掛けて欲しくなかった。

それでなくても同居させて貰っているし、これまでも沢山迷惑を掛けたのだから。


風呂場に湯気が立ち込める。

そう言えば、あの日は口から白い息が出ていた気がする。

あの、家を追い出された日は、ひどく寒かった。


火花が散って、次の瞬間目の前に雷が落ちた様に真っ白になって。

気がつけば、周りに人や物が倒れている。

そんな俺を、家族や見た人はみんな、こういっていた。




〝怪物〟



だと。

あの家にいると聞き慣れた、言われ慣れた言葉にいつしか俺は反応しなくなっていた。

この世界には、かつて名を連ねた武士や資産家がいた。

その名家の一つ・灰原家。

今では世界最大級の電子商取引プラットフォーム、灰原株式会社・GIFT。

総資産7825億円。


灰原家は伝統や格式を重んじる家だ。

勉強もからっきしで、スポーツも出来ず、さらに怪物の俺はあの家には必要ない。

何故なら俺の下に三人、妹と弟がいるから。

三人の誰かが、あの家を継ぐだろう。

でも、俺がいつ家の事を先輩以外の警察や外部に漏らすか分からない。

そんな不安からか、先輩と同居しだした辺りから毎月、現金三十万円をアパートの郵便受けに入れてきている。


それを持ってくるのは、決まって俺の家に昔からいる使用人・鈴だ。

彼女も、ひどく俺を嫌悪していた。

最後に見たのは、心底驚いた様な、怯えた様な鈴の瞳。

母と最後に会ったのは、二歳。

父と最後に会ったのは五歳。

弟と妹には、会った事すらない。

ずっと、あの家で怪物の俺だけが隔離されていた。




「はぁ……」




親の言う事を聞きなさいとか、仲良く暮らしなさいとか。

そんな言葉を、何度耳にしただろうか。

確かに、親の言い分はわかる。

俺を怪物だと言って近づけなかったのは、母親のお腹に赤ちゃんがいたからだと言うことも。

そして、今なお俺をあの家から遠ざけるのも、小さな弟達がいるからと言うことも。

全て理解している。

でも、外の人達はみんな家の味方で、俺の事を知ろうともしない、冷たい目線に、俺はいつも耐えてきた。

だから、千歳先輩は俺にとって光だった。

何もかもを奪われ、怪物だと罵られた俺に、神様が唯一与えてくれた特別な一筋の光。

なのに家族は、その光さえも自分たちの暗闇に連れ込もうとする。


水面にに自分の醜い怪物の顔が映った。

どこか歪で、何かをこらえている自分の顔。

その顔が、水面に落とされた一滴の汗でぐらりと歪んだ。

視界が霞む。

また、ハイパーサイメシアのせいで脳がパンクしてしまっているのだろうか。

俺は必死に、意識を保った、その時だった―――。

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