【其の四.】分厚い茶封筒
「新島 奏……確か一年二組の女子生徒だったな。
一年だと最近は芸術鑑賞会があったからそれ絡みの悩みかな……。
まぁ、本に挟んでいる悩みは明日見るとして、後輩かぁ……関わり無いからなぁ……」
「灰原?風呂沸いたぞ。入って来いよ」
「あ、はい。じゃあお先です」
千歳先輩と俺の住む少し古い木造のアパートの自室で、俺が記憶を整理しながら言葉を口から吐き出していると、千歳先輩が奥からやって来た。
数年前から、家に居場所を感じられなくなった俺が千歳先輩のご両親に許可をとって、先輩と同居しているこの部屋。
香ばしい独特なルーの匂い……今日の夕飯はカレーだな、と思いながら、バスルームへと向かう。
その途中で、千歳先輩に呼び止められた。
俺は先輩の目よりも、先輩が持っている「灰原家」の家紋が描かれた分厚い茶封筒に目がいった。
「そういや、今日またコレが郵便受けに入ってたんだ。
毎週もらってるけど、やっぱり返した方がいいよな……?」
「別に、もらっといて下さいよ。金は売るほどありますし」
「でもなぁ……。毎週三十万って……どう考えても多いし、前に一度持ってきたお前んとこの使用人さん呼び止めても、すぐ逃げるから追いかけられねぇし……。灰原が返しに行かなくても、俺g―――」
「暴れ回って、人殴る怪物だって、息子の俺すら見ないのに、千歳先輩の言う事何か聞いてくれませんよ、絶対に」
「お、おい、灰原―――!」
「じゃ、風呂入って来るんで」
自分でも、言葉が冷たいことは自覚していた。
でも、全て事実だから。
親が、俺を見てくれないのも、俺の家が金で溢れていることも。
千歳先輩は優しい。
今先輩が俺の後ろで悲しそうに瞳を揺らしている事も分かっている。
だから、そんな千歳先輩まであの人達に傷付けられたくない。
そう思ったのは、いつからだったか。
それが、俺がこの世に生まれて初めて望んだ事だった。
俺の親からの金が入っているというその分厚い茶封筒を見つめながら、俺は深いため息を飲み込み、足早にバスルームへと向かった―――。




