【其の三十一.】双子の確執
「それで、その、依頼って言うのは―――」
「その前に、灰原に言う事ない?」
「っ……、それは……」
コポコポ、ぎゅっ。
コーヒーの淹れる音が部屋に響く。
その音と同時に、綴の手に朔の体温が伝わる。
長机を椅子で挟み座る三人。
颯丹の向かいに綴と朔が座っている。
―――松田颯丹。
朔、金城、綴の幼馴染である松田悠忠の双子の弟。
外見は確かに双子なので似ている。
鼻が高い所や目が大きい所、唇の厚さも。
だが、明るく元気な松田と冷静沈着で人をレッテルでしか評価出来ない颯丹はまるで別人だ。
松田は綴を怪物呼ばわり何てしないし、ましてや首を絞めるなど言語道断。
松田の監督不行届と言うつもりはないが、だからこそ、朔の怒りは収まるはずが無い。
朔の明るい声や優しい言葉の裏には、許さないと言う言葉が隠されていて、その声圧だけで颯丹の言葉を引き出させた、その時だった。
第二図書室の扉が開かれたのは―――。
「綴ー!朔ー!聞いてくれ、あんなに溜まってた課題終わったぞー!」
「え、松田先輩……!?」
「すまん、朔、灰原。俺も止めたんだが……」
「あれ、颯丹じゃん!何でこっち来てんの?」
その扉の先に立っていたのは、その松田悠忠張本人だったのだ。
ため息を吐いて頭を抱えている金城を連れて。
場にそぐわない明るい陽気な声を上げて、ハーフアップに結んだ肩に掛かるほどの髪の毛を靡かせて第二図書室へと入って来る。
きっと、また松田が金城を振り回していたのだろう。
綴が驚いて朔の手を放しそうになった時、朔がぐいっと綴を引き寄せて松田を睨むように目を細めた。
そんな朔の瞳に応えたのは松田ではなく、金城だ。
くいっと首を捻ってすぐに出て行くと合図を送ると、朔の瞳は段々と温かみを帯びていく。
ところが、颯丹はそうはいかなかった。
ガタリ、と椅子から立ち上がり、先程綴を追い詰めた時のように声を荒げて自分よりも数cm身長の低い兄に詰め寄っていく。
「っ……、悠忠がそんなだから俺もバカにされるんだ……!
家の事情で進路を変えたとか言って、点数稼ぎしてるつもりなのかよ!
俺は……、悠忠が出来ない勉強も、スポーツも頑張ってるのに……。
誰も〝俺〟を見てくれない……」
「颯丹……?」
「……s―――」
言いながら目の前に火花を灯す颯丹に松田は怯まないし、怒らない。
ただ優しく、名前を呼ぶだけだ。
朔や綴は松田家の……双子の事情を詳しく知っているわけではない。
どんな生活をしていて、どれくらい仲が良いのか等、見れる範囲でしか見ていないのだ。
だから、あと一歩の所でいつも核に触れられず立ち止まっている。
キラキラと輝く核を眺めているだけ。
松田が良いなら、笑っているなら、と記憶に蓋をしていた。
なのに、その颯丹自ら第二図書室へ来た。
悩みがあると、助けてほしいと、助けを求めて、足掻いて、ここへ。
金城が何かを隠している事を朔は薄々気づいている。
あえて探らないのは、朔なりの優しさであり、脆さだった。
寿命のない自分が踏み込んでいい領域じゃないと、目をそらしている。
だからこそ、こうして金城が松田の、松田家の事に口を挟んでいるのは怖かったのだ。
幼馴染であっても一線を引かなければならない時はあるはずなのに、金城はそれを飛び越えても松田と向き合い続けて来た。
そんな彼らを朔や綴はもちろん尊敬しているし、自慢の幼馴染だとも思っている。
でも、怖い。
だから金城の言葉を朔は自分から遮って、颯丹へ言葉を送ったのだ。
「颯丹くん、ならどうして……?
個として見て欲しかった君がどうして灰原の事を、〝怪物〟としてじゃなく、〝灰原綴〟って言う一人の男の子として見てくれなかったの?」
「っ……!」
「俺……怒ってないよ。ただ、11年も一緒にいる幼馴染の弟くんが綴の事をそんな風に言うの、悲しい……」
「え、俺らそんな一緒にいるっけ?」
「お前、ちっとは空気読めよ!」




