【其のニ十五.】朔の幸せ
息を荒げて、俺の肩を強く皮膚に爪が食い込む勢いでそう言う言った千歳先輩。
千歳先輩がここまで余裕を無くしてしまうのは、これまで一緒に過ごしてきて初めてだった。
まるで、獣のように。
そう、俺と同じ怪物の様に―――。
〝お前に選ばれる価値もない人間なのか〟
千歳先輩の言葉が脳内に響く。
そんな事を言わせたかった訳じゃない。
ただただ、先輩に何も返せないし、これから先千歳先輩の人生で俺はきっと足枷になってしまうから。
だから今日、新島の事件を解決したらこの場から去るつもりだった。
物理的な意味でも、精神的な意味でも。
なのに千歳先輩は、俺を逃がしてすらくれない。
謝っても許されない事をしてきた事は理解している。
それなら、せめて俺は。
「そう言う訳じゃっ……!こんな俺で……ごめんなさい……。
何も……千歳先輩に返せなくて……すみません……。
俺、もうここから居なくなr ―――」
「違ぇだろ……。んな事俺は言ってねぇ。お前が昔から否定して、蔑ろにしてんのは俺の事じゃなくて、お前の事だろ」
「……別に、そんな事……俺何かは―――」
「ほらまた。……分かるよ、綴が自分の事嫌いなのは……。
俺に何回肯定されても、過去の傷は消えないよな……。
でも……、ならせめて……俺の幸せを勝手に決めるな……。
綴といたら幸せになれねぇとか、そう言う事簡単に言うな。
俺の幸せは……俺が決めるんだよ……。……まだ俺の言ってることわからねぇか?」
俺の肩から手を離し、その場で千歳先輩は蹲った。
小さな、子供みたいに。
子供みたいなのに、何処かギラつく眼光に慌てふためく俺を今度は優しく溶かしていった。
「う、えっと……その……」
「正直に言えよ、綴」
「……わからないです……。俺は、千歳先輩見たいな人に大切にしてもらえる人間じゃない……のに……」
「……はぁ。わかったよ。じゃあ取り敢えず家帰るぞ」
「な、何で家……何ですか……?」
「放課後だし、続きは家でたっぷりと教えてやるよ。お前が首を縦に振るまで―――」




