【其のニ十一.】他人の排除と、自己の排除
「じゃあな、綴〜!」
「あ……、すみません先輩」
「いや、こちらこそすまない。待たせてしまったな」
「いえ……全然」
ガラガラガラ。
重厚な扉を軽々と松田先輩が開けると、そこには新島が申し訳なさそうに俺や、千歳先輩と同じく茶色い学生カバン……サッチェルバッグを抱えて立っていた。
松田先輩の後ろから即座にフォローに入る金城先輩に、新島は強く首を振って俺を見た。
新島の翡翠の瞳と俺のピンクパールの瞳がぱちりと合う。
三年生の圧に飲まれそうな新島に仕方がないと、声を掛けた。
「新島」
「灰原先輩!あれ……千歳先輩は?」
「三年生は先週から放課後に進路相談してる。今日は俺だけだよ」
「そっか……すみません、知らなくて。日、変更した方が良かったですよね……」
「カバンは俺の横においとけ。
……確かに図書委員長は千歳先輩だけど、俺だって冷静に新島の話し聞いてアドバイス位は……出来る」
「そ、そうですよね……!すみません」
申し訳なさそうに佇むでいる新島に声をかけると、こちらへと駆け寄ってきた。
俺が松田先輩と金城先輩に頭を下げると、彼らは俺たちに手を振って第二図書室を出ていった。
キョロキョロと周りをみていた新島に進路相談の事を話すと、もじもじと、カバンを抱え直した。
俺が三年生の進路相談の日程を知っているのは、千歳先輩から聞いたからであって、二年生全員が知っているわけじゃない。
だから、一年生の新島が知らないのも至極当然なわけで。
彼女は不安そうに自分のカバンを俺のカバンが置いてある机に置くと、俺の正面にある学校椅子へと腰掛けた。
そうだ。
新島も今日勇気を出してここに来たんだ。
俺にまたあんな事を言われるかもしれないのに、それでも自分の罪と向き合おうとここへ来た。
なら俺も、そろそろ覚悟を決めなければならない。
「や……、新島が千歳先輩がいなくて不安なのはこの間の事があるからだろ……?
それは……俺のせいだし……、あの時は……ごめん。
お前の気持ち、ちゃんと考えてやれてなかった……」
「いえ……私も、自分の言ってたことがどんなに身勝手で人を傷つけていたか、今日思い知らされました。
……松田先輩の言葉で」
「……!新島……」
彼女は「加害者」だったが、松田先輩という「極限の自己犠牲」を目の当たりにしたことで、ようやく自分の罪の輪郭を正しく認識できるようになったのだ。
「勝手に聞いてしまってすみません……。
でも私が、「優勝の為に一人を排除」したのに対して松田先輩は、「灰原先輩や金城先輩、千歳先輩の関係を守る為に、自分を排除」したんだって……わかりました。
同時に、どれだけ私が自分勝手な事を言っていたかも……。だから、もう自分のために謝りません。
ちゃんと罪を認めて、せめて深山さんが帰ってきた時、学校にいてもいいって思える環境を作ります。
それが、どんなに辛くても、苦しくても、向き合います」
松田先輩本人は新島を救うつもりなんてなかったかもしれない。
ただ必死だっただけかもしれない。
その必死さが、回り回って一人の少女の歪んだ正義を打ち砕いたのだ。
俺が必死に「後輩」や「幼馴染」という名前に縋っていた横で、松田先輩は「自分」という名前そのものを消し去っていたのだと。
その「巨大な空虚」をアーカイブしてしまった―――。




