【其のニ十.】明るい犠牲の上に成り立つ日常
「……」
「俺達は朔じゃない。どう頑張っても、どんなに一緒にいても、幼馴染でも、あいつが進路の事や綴の事をどう思っているかを完璧に理解する事はできないんだ。
だから、あんま無責任に綴の事追い詰めるな」
「……」
「俺は綴の事も、朔の事も、金城の事も心の底から大好きだ。
だから、朔が決めた事であいつ自身が幸せになれるなら、俺はそれで良いって思うよ。あー、でも綴は、朔の進路のこと、あんま重く受け止めるなよ。
俺らはまだ子供だから、未熟で、未成熟で、大人になりきれてない。
それは、どんなに取り繕ったって変わらない事実なんだ。……よし、この話しはこれで終わりな!
もうすぐで後輩の依頼人?悩み人?来るんだろ?先輩としてちゃーんとアドバイスしてやれよ!
俺らは朔が進路相談終わるまで教室で待ってるからさ、何かあったら呼びに来いよ!朔の事、励ましてやらねぇとだから!……あ、でも俺六時には咲の事保育園まで迎えに行かなきゃ……。朔の進路相談、それまでに終わるかな……」
「……松田せんぱッ……金城先輩ッ……すみません……っ……すみません……っ」
「……誰も悪くない。誰も悪くないんだよ、綴……。あ、でも一人だけって言うんなら、昨日朔にあのメール送った俺かもしれないけどな!
俺も金城も、朔の事も、お前の事も大好きだからな」
そう言って、松田先輩は俺や千歳先輩、金城先輩を照らす光になった。
大きな照明で照らし、自分はその照明の後ろに立つ事で、この危うい幼馴染四人の関係をギリギリの所で守ってくれている。
その事を彼のいつもより二mm下がった口角が証明してくれていた。松田先輩は、自分の感情や苦しみを殺してるんじゃない。
最初からそれらを認識していない、存在しないものとして扱っているのだ。
だから、松田先輩の言葉には、全て彼自身が含まれていない。
大好きと言う言葉も、誰も悪くないと言う言葉にも、自分を勘定に入れてないのだ。
「みんなが好き」だから「自分はどうなってもいい」。
そう、言っているような気がして、背筋が震えた。
それでいて、千歳先輩の進路変更も、金城先輩の千歳先輩を思っての怒りも、俺の震えも、全て受け止めて、全部肯定して自分のせいだ、とそう言ってくれた。
誰一人悪者ではない、いや、俺が全部悪いのかもしれないのに、その悪者を松田先輩は一人で引き受けて、被った。
松田先輩はこの中で一番、自分自身を大事にしていない。
でも、それを言葉に出せない。
俺は、いつだって守ってもらう側にいるから。
守られている側の自分が、守ってくれている人の「欠落」に気づいてしまう。
でも、何もできない。
これ以上、無責任に踏め込めないのだ。




