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第二図書室のアーカイブ  作者: つむろ.〈CANA.〉
◉新島 奏編◉

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15/16

【其の十五.】覚悟の後に迎えた朝

「ん……。もう朝……」




カーテンの僅かな隙間から、淡い金色の光線が一本、瞼に触れた。

空は薄青に染まり、まだ寝息を立てる世界に新しい一日が始まろうとしている。

冷たい空気が頬を撫で、布団の温もりとの境目が曖昧になった。

寝惚けた頭で、ぼんやりと天井を見つめる。

隣を見ると、千歳先輩はいない。

キッチンから音がするので、朝食を作ってくれているのだろう。

まだ夢の中にいるような、現実感の薄い感覚だ。

意識がゆっくりと浮上する。

昨夜の千歳先輩の言葉が鮮明に蘇った。



〝ずっと前から、灰原綴と名前のない関係で向き合う覚悟、俺には出来てるんだけど〟



俺にしか聞かせない少し低い声のトーンも、言葉は余裕有り気なのに暗闇の中で垂れ下がっている眉も、その時の金木犀とミモザの香りも、全ての事が俺の耳や脳を直接刺激した。

顔が熱くなるのが感じる。

分厚い布団を被り直し、その布団の中でジタバタと悶える。

そして、俺はそこでん?と頭を抱えた。

あの時は勢いではい、何て返事をしてしまったが、よくよく考えると名前のない関係とは何だ。

先輩後輩でも、幼馴染でもないなら、今の俺達は何なんだ。

男同士だし、結婚して下さいとか、付き合って下さいとか、友達になろうとか、そう言う事を言われた訳ではないし……。




「綴!朝食出来たぞ、食べに来いよー!」


「う、ぁ、は、はい!今行きます!」




戸惑う内心を抑えつつ、ダイニングで待つ千歳先輩の元へパジャマのまま、すぐに向かった。




「わぁ、おいしそう……」


「フレンチ・トースト。朝食の定番だけどりんごのせてアレンジしてるから、普通とはちょっと違うぞ」


「りんご!」


「綴、好きだもんな」


「〜〜〜っ!りんごが!好きなんです……っ!」


「お、おぅ……。知ってる……。―――で、今日ちょっと二人で行きたい所あるだけど良いか?」


「?はい、大丈夫です」




ダイニングへ向かうと、そこにはりんごの甘い香りが漂っていた。

椅子に腰掛けると、差し出されたのは朝日に照らされてメープルシロップが光ったフレンチ・トーストだった。

フライパンから立ち上る、卵と牛乳が混ざり合った甘く焦げた香りが部屋に満ちる。

フォークを入れると、パンはまるで綿菓子のようにとろりと崩れ、口の中で溶けていった。

焦げた砂糖の香ばしさに卵と牛乳の甘い香り、シナモンの風味が鼻をつく。

外はカリッと、中はとろとろ、ふんわりとろける、しっとりした口どけだ。

フォークを使う手が止まらなくて、おいしいですとしか言えない。


俺がフレンチ・トーストを食べ進めていると、目の前でコーヒーを飲んでいた千歳先輩に声をかけられた。




「お前、この家の鍵持ってねぇだろ」


「そうですね。いつも千歳先輩と一緒に帰ってくるし」


「だから、作りに行きたいんだ。綴の分の鍵。

……後は、その鍵を入れるキーケースとか、学校でも付けていられるアクセサリーとかお揃いで……」


「っ……!」


「結構考えたんだよ。ペアリングとかでもいいかなって。

でも、それだと何かちょっと重いし、恋人っぽいだろ?

なら、やっぱり家の鍵とかアクセサリーかなって。まだ綴にこの家の鍵渡せてなかったし、いい機会かなって思って。

後、アクセサリーはついでな。……嫌か?」


「いえ、嫌じゃないです!い、一生大事にします―――!」

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