【其の十ニ.】癒しと温もり
「……お前、ちょっと細すぎねぇ?身長低いし……こんな物なのか?ちゃんと食べてんのか?」
「三食共にしてるのに何を今更……?んっ……、ふふ、くすぐったいです。
つか、身長低くないです!」
「いや、高ニで百五十一cmは低いだろ。俺百七十六cmだぞ。
俺の腕の中に収まっちまう身長差じゃねぇか」
「先輩がデカすぎるだけです!それに、先輩歳上じゃないですか」
全面木目調に覆われた狭い脱衣場で、千歳先輩が急に上着を脱ぎ終えた俺の腰に触れながらそう言ってきた。
何というか……この先輩全てにおいて触り方がその、変なんだよな。
色々と。
金城先輩や松田先輩は包み込むようにしてくれるが、千歳先輩は、その……うまく言葉で言い表せない程変なのだ。
何が変なのかは分からないが、俺のハイパーサイメシアが、その「違和感」を鋭敏に捉えている。
単なる「優しい手」ではなく、何かを必死に抑え込んでいるような、あるいは縋るようなあの指先。
そんな千歳先輩の手を振り払い、下着まで全て脱ぎ、そそくさと風呂場へと入って行った。
もちろん、先輩を置き去りにしたまま。
身体を少しだけ流し、浴槽につかる。
すると、千歳先輩も俺に次いで風呂場へと踏み込んできた。
2人で、一方向を向くように狭い浴槽に浸かる。
そこで、俺ははた、となった。
もしかすると先輩は、俺に新島を重ねているのではないか、と。
俺は確か新島よりも身長が低かったし、ありえない話ではない。
「綴」
「……ちとせ先輩の女たらし。変態です」
「あ?何だよ急に」
「俺に新島を重ねてる所とか、全部変態です」
「何でここで新島さん?」
「俺に、彼女重ねてますよね?」
「はぁ?重ねるわけねぇだろ。綴は綴なんだから」
「なら、何であんな触り方……。それにいつもより距離近い気がします……し」
ぷく〜っと頬を膨らませて先輩から目を逸らす。
千歳先輩の大きな手は、まだ俺の腰に触れていた。
新島に嫉妬している。
後輩の女の子に、嫉妬。
自分でも女々しいのはわかっている。
だが、あんな優しく甘い声を隣で聞かされたら、そう思ってしまうのも無理はないだろうと、自分を宥める。
「あんな触り方?俺はいつも通りのつもりだったんだが……。距離も近いか?
やっぱり腰細い……。つか、もう新島さんの事は考えるな。またオーバーヒート起こすぞ。
……後、その声もやめろ。マジで」
「わかっ……りましたっ……!もうおれ……風呂から出ますっ……!
だから……はやくっ、髪洗って下さい……!」
「〜〜〜っ!そう言うの、俺を煽るだけだっていい加減分かれよ……!」
「はぁ……はぁ……っ、え。何で……ちとせせんぱいはせいじんくんしだから……」
「お前な……。ちとせ先輩は男だから新島さんに……って言ってたじゃねぇか。
俺も男なんだからな」
「……?」
狭く白い浴槽から出て、真新しいプラスチックの椅子に座る。
先輩の言葉に首を傾げて、顎に手を置き考えた。
でも分からない。
先輩の言わんとしている事が。
煽るって何だとか、男だから何だとか、そんな疑問が俺の記憶を駆け巡る。
その内に先輩はシャンプーを手に取り声を上げた。
「ん。じゃあ、頭洗うからな。痛かったら言えよ」
「はい……っ!」
「……サラサラ。お前、昔から髪質良いもんな。羨ましいわ」
「先輩、超癖っ毛ですもんね」
ゴシゴシ、しゅわしゅわ。
甘い金木犀とミモザの香りが浴室内に広がる。
先輩の泡に包まれた手が、俺の髪の毛に差し込まれて、優しく俺の記憶を暴いてくれた―――……。




