【其の十一.】勇気と覚悟
「む〜……」
「……灰原ぁ、そんな怒んなって……」
「別に、千歳先輩が女には甘い男だからって?怒ってませんけど?女に、甘いからって!
怒ってませんが?怒ってませんよ!」
「いや、完全に怒ってんじゃん……。……そんなに新島さんが気に入らなかったのか?」
「……いえ。彼女も彼女で、周囲の圧力に自分自身を抑えた一人です。
罪悪感と圧力に押し潰されそうなのは、見てて分かります」
「なら、何で?」
アパートのリビングで、俺はぷく―っと頬をふくらませていた。
決して、決して嫉妬している訳では無い。
だが、どうしても第二図書室での先輩の新島に対するあの優しく甘い声が4K画質で再生されるのだ。
〝だから、わからないなら、俺達と一緒に考えよう。深山さんの気持ちを―――〟
俺に笑いかける時より口角が三ミリ程上がっていたし、声も優しく、甘い物だった。
再生してやはり、先輩も男なのだなと自分のなかで勝手に結論づける。
新島が嫌いというわけではない。
ただ、気に食わないのだ。
新島が千歳先輩の優しさに付け込んでる感じがして。
まぁ、俺も人のことは言えないが。
「……はぁ。お前、時々面倒くさい女よりめんどくせぇよな」
「……わるかったですね、女々しくて」
「んな事言ってねぇだろ」
「……怖いんです」
「え?」
千歳先輩に言うつもりはなかった。
だが、気づいたら勝手に口から言葉が零れていた。
そうだ。
俺は怖い。
先輩に彼女が出来たり、結婚したりしたら、いつか俺が先輩の隣から離れなければいけないって事が。
今だって、ふわふわとしたソファーを握る手が震えている。
俺はずっとずっと、千歳先輩の幼馴染兼後輩でいたい。
その関係が、名もない物に変わってしまう事を一番恐れている。
「……。……それ、後輩や幼馴染とか、名前のついた関係じゃないとだめなのか」
「え、それっt―――」
「っ……、悪ぃ、変なこと言った。……風呂に湯ためて来る」
「……あ、えと、お願いします」
先輩は、俺が聞き返す前にこの話題を切り上げてバスルームへと足を向けた。
名前の付いた関係じゃないといけないと、俺はずっと思っていたから。
既存の枠に当てはめないと、俺は捨てられる。
そう、過去が物語っていた。
「今日は金曜だし、まずは風呂一緒に入ろうぜ。お前、今日疲れたろ」
「……はい。今日は、髪洗って、髪も乾かして下さい。後、夜はちとせ先輩の部屋で、一緒に寝たいです……」
「わぁーったよ。ったく、しょうがねぇな。お前、寝相悪いからな……。
俺のベット広いから、二人で寝るぞ」
千歳先輩の言葉に返事をすることなく、俺は彼の名前を呼んだ。
「……ちとせ先輩」
「ん?」
「また綴って、呼んで欲しい……です」
「……あぁ。わかったよ、綴」
「へへ、大好きです。ちとせくん」




