開戦前夜②
「あの……。アクバー様の語る魔人を撃退した頃の月の導きルナ・マリナの団員は、もういないと聞き及んでいたのですが……。」
今まで上機嫌でうすら笑いを浮かべていたアクバーは、痛いところを突かれたと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ディアルは、思い出した。その瞬間、愚息への上がった評価が底へと再び下がる。そして、重く口を開く。
「そうであったな、完全に忘れておったわ。愚息があれを駄目にしたのを。」
月の導きを創設し、数々の偉大な功績を残した者は、アクバーではない。彼の妻、イザヤ=ライオットである。アクバーは、権力にものを言わせて、イザヤと結婚の契約をほぼ強制的に結び、月の導きの実権を握ったのだった。無論、統率力も無ければ、人望もないアクバーが無茶苦茶な指揮を取ったため、主力であった団員の8割が死に、2割はアクバーに嫌気をさして退団した。現在の月の導きは、ただのごろつきの集まりであった。アクバーのこの失態は、帝国中に広まることとなった。
「た、確かに今の俺の軍に、初期のメンツはいねぇ。だが、キースがいる。それに、ごろつきだって、ただのごろつきじゃあねぇえんだぜ?一人ひとりにマジックアイテムを持たせている。それに、戦は数だ。初期の団員数は、30そこらだか、今はなんと1500もいる!見くびってもらっちゃあ困るぜ?」
アクバーは、早口で言いやる。
「いないものを求めても仕方がない!代わりにはなれないが、現団長である私が最善を尽くしてみせる。それで許してくれないかい?白髪のレディ。」
アクバーのことを庇い、シャミアにも謝罪を行うキース。しかし、彼女は痛いところを突いて満足したのか、そっぽを向いていた。
「味方が誰であろうと問題ない。元からひとりでやるつもりだ。それにそこの男が我らを裏切り、貴様と闘うことも視野に入れている。」
バルカは、アクバーらに殺気を放ちながら語る。
「ひ、ひぃいい、、、俺は確かに馬鹿だかよぉ、親父を裏切ったらひでぇ目に遭うからぜってぇぇ裏切らねぇよお。遺産はたしかに欲しいけどよぉ、それよりも名声を手に入れてチヤホヤされてぇんだよお!!」
アクバーの心からの叫び。今の自身の保有する戦力では、父親に到底敵わないのは百も承知。底に落ちた名声を再び上げたいのだ。どんな手を使っても。
「だ、そうだ。バカ息子の戦力じゃ私には勝てない。勿論、暗殺も叶わない。四六時中、私には彼女の屍兵が護衛しているからな。
本題に入るとしよう。
まず、我ら以外の陣営の戦力を確認しよう。戦は情報収集が要だ。今わかっている陣営の戦力は…
まず、《聖女》エレナ=ライオット。彼女自身は、この戦を辞退したいそうだが、協会本部がそうはさせなかった。教義では、愛だの平和だの掲げているが、所詮は欲深き人間だったということだな。遺産を手に入れるために勇者候補者を代理戦士として投入している。そいつは、《万能》ヴィレル=ストライザー、大体のことはなんでもできるという無法かつ厄介で、強力な魔法を扱う。おまけにエレナの方は、神の加護によって、老衰以外の要因で死ねない、いや、死なない。よって、暗殺は不可能。この陣営とは戦う前にもっと情報が欲しい。会敵しても、戦闘は避けろ。
次、私の母である、《魔女》ローラ=ライオット。母上は、この戦の行く末を見届けたいとのことで参加している。この戦に参加することでのみ、この戦の勝者を知れるからな。母上も我が陣営に加わって欲しかったが、公平な立場でいたいと断られてしまった。母上の代理戦士は、《人間擬き》ルッカ。ゴブリンと人間のハーフであり、頭に南瓜の被り物をした存在自体が稀有な戦士。戦法や魔法については不明。この陣営は、基本積極的に動くことはない。戦に決着が着けば自ずと自体するもの考えられる。つまり、相手にしなくてもいい。
そして、もう1人のバカ息子、《道化》モグラ=ライオット。こやつは、この戦をめちゃくちゃに掻き回したいという理由で私の誘いを断った。こやつの魔法は、固定砲台を設置し、それの半径500mにいる者の位置を特定し、自動的に追尾する魔弾を放射する。こやつの相方は、《蛮族》リョウ=ホンドウ。異界から来た戦士で、無限に物を収納し、放出する魔法を扱う。本人の気質上、勝つ為なら人質、社会的死への追いやり、環境破壊など何でもやるという外道で有名だ。厄介なのは、白兵戦をせず、暗殺、奇襲、撹乱、待ち伏せなどの遊撃戦を好むということだ。我らも他陣営との戦闘後、奇襲を受けないように気を付けなればいけない。暗殺も然り、アクバーよ、あまり好き勝手に外に遊びに行っていたら殺られるぞ。
次、《望姫》リッカ=ライオット。女性だけで構成された騎士団を創設し、本人は団長を務めている。彼女の魔法は、月が天で輝く間、身体能力と魔力量が向上し、満月の場合、おじいさまにも劣らぬ身体能力と底無しの魔力を持つといわれている。勿論、彼女の騎士団も戦に加わるだろう。
他スタァ=ライオット、ギルバイン=ライオット2名については情報がない。スタァは、まだ10歳、ひとりで代理戦士を見つけることも難しいであろう。戦わずして負けの線もありえる。ギルバインについては、ここ最近姿を暗ましている。やつ自体好戦的で武闘派だ。やつの情報が出るまでは、あまり接触は控えたい。
最後に、《黒槍》ラカン=ライオット。我々にとって、最大の壁と言ってもいい。おじいさまの槍術を極め、大翼竜を屠った逸話もある。伯父様の相方は、《要塞》マンバ=ブロンド。おじいさまのパーティーで守護者をしていたアンギス=ブロンドの息子だ。彼もまた、盾術を極め、この30年間、血を流したことがない。まさに、鉄壁要塞だ。両者とも還暦を迎えてはいるが、実力は衰えるところなし。マンバがあらゆる猛攻を防ぎ、ラカンが屠る、伯父様らしい、堅実さだ。
最序盤は、我々は動かない方針でいく。他陣営の動きを見て、情報収集を行う。接敵した場合は、戦いながら情報を得ろ。現状、勝てないと判断したら、すぐに撤退しろ。最善を整え、勝機につなげる。
以上だ。
明日に備えて各々休め。」
こうして、ディアル・アクバー陣営による作戦会議は幕を閉じた。
明日、始まるのだ。
勇者一族による戦いが。
最後に立っている者は誰か?
遺産を欲する者か、
神の掲示に従う者か、
英雄に憧れた者か、
己の享楽に順する者か、
一族の果てを知りたい者か、
恐怖を克服したい者か、
母の思いを継ぐ者か、
戦に娯楽を求める者か、
現状維持を望む者か。
そして、少しずつ、破滅への道が近づいていく。




