約定
「……と、以上が勇者様からの遺産に関する遺言でございます。何かご質問のある方はいらっしゃいますか?無ければ遺産を巡る戦のルール説明に移りますが……」
サナクは、混乱している彼らなどお構いなしに話を続けようとする。
が、勇者一族のひとり、勇者の第1子のラカン=ライオットが疑問を口にした。
「今、ここで、皆を制圧してもいいのか?」
この男の発言から、一室にいる者全てに重圧がかかる。
一族全員が知っているのだ。勇者がいなくなった一族で最も武力に長けている者は、ラカンであると。
ラカン=ライオットは、勇者ガイウスの槍術を叩き込まれ、極めている。大衆からは、魔族、魔獣の血で彼の槍が赤黒く染まり続けていることから、《黒槍》と称されている。一族には、武芸に秀でる者は他にもいるが、彼には敵わない。圧倒的な差があるのだ。
だから、誰もがラカンが勝利する、出来レースであると疑った。
「開戦は、次の暦の初めからです。それ以前に、一族のうち1人でも欠けている場合は、遺産は全て破棄されます。この戦の約定のひとつとなっております。」
サナクは、淡々とラカンの質疑に回答する。
一族一同がそれを聞き、安堵する。しかし、一族の中には、その約定を面倒に思う者もいた。
なぜなら、遺産の破棄即ち勇者一族の権力の失墜を意味するからである。勇者一族は、魔王を倒した勇者の末裔であるから、影響力があるわけではない。それもあるが、主旨は、勇者の遺産にある。数々の伝説級のマジックアイテムは、世界を容易に覆す力を持つためである。その力を持つ勇者一族は世界から恐れられているのだ。その力の在り処は、勇者一人しか知らないことを世界はまだ知らないのだ。
「私からも疑問がある。たとえ開戦までに猶予があるとしても、私たちにラカン伯父様を超えるための鍛錬の時間まではない。私のような力無き者は、代理の者に戦ってもらってもいいのかね?」
勇者の第2子の子、勇者から見れば孫にあたる、ディアル=ライオットが口を開く。
ディアルは、勇者一族が暮らす大国アーマン帝国の最高文官である。ただの最高文官ではない。勇者の一族という権威を持つため、帝国のある程度の物事は自由に動かせるのだ。
「さすが、最高文官という役職にいるお方です、察しが良くて助かります。もし、勇者一族のみでの武力戦争であれば、ラカン様の独壇場でございます。公平にするために、代理の戦士を用意していただくこともできます。何人でも可能です。」
「しかし、人質を取るといったような、関係の無い一般人を巻き込む行為が散見する場合、先程同様に遺産を破棄させていただくことになっております。
この戦の約定をまとめさせていただくと、
・開戦前に一族に死人を出さない。
・代理の戦士を用意可能。また、何人でも可能。
・関係ない一般人を巻き込む行為は禁止。
―――と、なっております。
また、この戦の見届け人として、私が選考されました。
以上で、遺産戦争の約定の説明を終わらせていただきます。質問が無ければ、各々帰っていただいても結構です。
開戦は、次の暦から始まります。始まれば、皆様は互いに敵同士となっておりますので、お気をつけてください。
皆様のご健闘をお祈り申し上げます。」
サナクは、ディアルの質疑から、戦の約定について話し、見届け人として戦を見守ることを述べた。
一族各々がひとり、またひとりと部屋から出ていく。彼らなり、覚悟を決めたのだろう。
勇者一族が破滅の道を辿るという覚悟を。




