勇者の遺言
処女作。
質素な屋敷のある一室に勇者の一族たちが集った。空気は重く、誰も言葉を発することはなかった。だが、彼らの態度は、困惑、憂い、期待、焦燥、無関心、嫌厭……と様々であった。
無理もない。彼らがそのようになってしまったのには、大きなきっかけがあるのだから。
彼らが大衆から畏敬の念を持たれる所以を創り、彼らが敬い、彼ら一族を繁栄させ、かの魔王を滅ぼした勇者が没した。
しかし、きっかけはそこではない。勇者の遺言である。遺言には、勇者の遺産の次の所有者について記載されている。
勇者の遺産は、単なる莫大な金銭ではない。もちろん、莫大な量の金銭はあるが、それは彼らにとってさほど価値のあるものではない。彼らの興味を示す遺産とは、マジックアイテムである。それも、伝説級の代物である。
不治の病や四肢の欠損、先天的な障害など全てに特効があるとされる薬用の酒である”万能の浄水”。
死者に手に握らせることで、蘇ると云われている”奇跡の枝”。
対象者の名を書くことで、理由なく差別、迫害を受けさせる”負の証明証書”。
これらにも劣らぬマジックアイテムが勇者は数え切れないほど保管している。それら全てを手にするということは、世界を手にするのと同義であった。
だからこそ、勇者一族はそれぞれ思考が駆け巡った。
ある者は、全てのマジックアイテムを自身の思うがままに扱えると希望を抱いた。
ある者は、世界に容易く影響を与えるほどのマジックアイテムを他の者に悪用されるのではないかと不安を積もらせた。
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勇者一族の集う一室に壮年の男が入った。
「勇者一族の皆様、この度はお忙しい中集まってくださり、感謝申し上げます。
私の名は、サナク=ラムベルドと申します。聞き馴染みがある方もいるとは思いますが、勇者様のパーティーで斥候をしていたラシム=ラムベルドの息子でございます。
今回は、勇者様から遺言を預かり、立ち会うようにと頼まれましたので、私が仕切らせていただきます。」
サナクと名乗る男の発言によって、勇者一族に緊張が走る。
ついに、始まるのだと。




